第7話:これから起きること。その2
第3章 宝永型三重災害を現代に再現する
【16.歴史上の宝永パターン】
日本では実際に、次の大災害が連続しました。
1703年12月31日 元禄関東地震
1707年10月28日 宝永地震
1707年12月16日 富士山宝永噴火
元禄関東地震から約3年10か月後に宝永地震が発生し、その49日後に富士山が噴火しました。
今回のシミュレーションでは、この順序と間隔を現代の日本に置き換えます。
ただし、元禄関東地震は現在よく想定される都心南部直下M7.3とは異なる地震です。
また、現代でもこの順番で災害が発生するという科学的な予測はありません。
【17.最初の関東巨大地震】
まず、東京、神奈川、千葉などの首都圏が巨大地震に襲われたとします。
建物倒壊、火災、津波、道路破損、停電、断水などが同時に発生します。
参考として、2025年に改定された都心南部直下地震の政府想定では、最大約1万8,000人の死者、約480万人の避難所避難者が見込まれています。
今回の元禄関東地震級の被害人数と同じではありませんが、首都圏が被災した場合の社会的影響を考える参考になります。
問題は、救助を必要とする人々のところへ、実際に救援部隊が到達できるのかということです。
道路は塞がり、通信も不安定で、病院も被災しています。
救援する消防、警察、自衛隊、医療機関の側にも被害が発生します。
被災者の数に対して救援能力が足りなければ、地域によっては救助が長期間届かない可能性があります。
さらに東京には、行政、金融、情報通信、企業の本社機能などが集中しています。
それらが機能低下すれば、復旧を指揮・調整する能力にも影響します。
【18.約4年間の復興期間】
史実の時間間隔を守るため、次の巨大地震まで約3年10か月を置きます。
この間に東京の救命活動は大部分が終了し、道路や電力なども相当程度復旧する可能性があります。
しかし、建物解体、住宅再建、上下水道の修理、産業設備の再建などは、なお続いているかもしれません。
政府と自治体は復興に膨大な財源を使い、建設業者や設備メーカーも大量の仕事を抱えているでしょう。
そこへ次の災害が発生します。
【19.南海トラフ巨大地震】
2025年の政府被害想定では、南海トラフ巨大地震による死者は最悪条件で約29万8,000人とされています。
津波被害は太平洋沿岸の広い範囲に及びます。
特に問題となるのは、人口密集地だけでなく、日本の産業と輸入を支える港湾や工業地帯が被災することです。
首都圏の復興が続いているところへ、東海、近畿、四国、九州などの広い範囲で救援が必要になります。
しかし、全国から無制限に救援部隊を集められるわけではありません。
重機、救急車、消防車、ヘリコプター、医療機器、燃料、作業員などには限界があります。
東京の復興を進めれば西日本の救援が遅れ、西日本へ資源を集中すれば東京の復興が停滞する可能性があります。
ここで、全国的な復旧資源の不足が深刻化します。
第4章 太平洋側の大規模港湾が破壊される
【20.日本の輸入を支える港湾の被害】
日本の輸入物資の大部分は海上輸送に依存しています。
特に東京湾、伊勢湾、大阪湾には大規模な港湾、工業地帯、物流施設が集まっています。
南海トラフ巨大地震で名古屋港、四日市港、大阪港、神戸港などが被災し、東京湾も先の地震から完全に復旧していなければ、輸入能力が大幅に低下する可能性があります。
無事な港へ船舶を回せば済むという問題ではありません。
大型船が接岸できる岸壁、荷役設備、倉庫、電力、道路、鉄道、トラック、運転手が必要です。
港の処理能力には限界があります。
大量の船舶が代替港へ集中すれば、沖待ちや荷役の遅延が発生します。
【21.港を修理するための設備も不足】
大規模港湾が破壊された場合、岸壁やクレーンを修理しなければなりません。
しかし、港湾設備には特殊な大型機械が多数あります。
ガントリークレーン、変圧器、制御装置、大型鋼材、作業船、浚渫船などです。
こうした設備の一部は注文生産であり、調達に長期間を要する場合があります。
仮に製造に1年かかる設備が必要になったとしましょう。
全国の港湾から同時に注文が入れば、生産能力を超えて納期が延びる可能性があります。
しかも、製造工場自体が被災しているかもしれません。
海外から購入できても、大型設備を日本へ運び、被災した港で陸揚げし、設置する必要があります。
港を直すために港が必要になるという矛盾が生じます。
【22.復旧資材そのものが不足】
港湾以外でも、膨大な量の鋼材、セメント、電線、配管、変圧器、建設機械などが必要になります。
しかし、製鉄所、セメント工場、化学工場、部品メーカーなども被災する可能性があります。
建設用資材の製造量が減少する一方で、全国の復旧需要は急増します。
民間企業の在庫が十分でなければ、必要な資材をすぐに調達できません。
さらに軽油が不足すれば、製造した資材を運ぶことさえ難しくなります。
【23.海外からの救援物資も受け入れにくい】
大規模災害が発生すれば、海外から支援の申し出があるでしょう。
しかし、港湾が破壊されていれば、支援物資を受け入れる能力も低下します。
船舶が接岸できない。
荷役設備が使えない。
保管倉庫が破壊されている。
道路が通れない。
トラックや軽油が足りない。
こうした状況では、支援物資が日本へ到着しても、被災者に届けられるとは限りません。
なお、被災していない港や空港を使う方法も残るため、海外支援が完全に途絶すると決まったわけではありません。
しかし、大量の物資を迅速に受け入れる能力は、深刻な制約を受ける可能性があります。
【24.プッシュ型支援の限界】
国は大規模災害時、被災自治体から要請がなくても必要な物資を送るプッシュ型支援を行うことになっています。
しかし、物資を送ることと、住民へ配ることは別です。
物資集積拠点が使用できない。
自治体職員が不足している。
倉庫の管理システムが停止している。
配送する車両がない。
避難所までの道路が通れない。
こうした問題が重なれば、国が物資を用意しても住民に届きません。
特に、行政職員自身が被災し、通信も停止している場合、受入れ能力が失われる恐れがあります。
これは、政府の制度が存在するかどうかという問題ではありません。
実際に物資を受け取り、仕分けし、運ぶ人間と設備が残っているかという問題です。
第5章 49日後の富士山噴火
【25.復興中の首都圏に大量降灰】
宝永地震の49日後、富士山で宝永噴火級の大規模噴火が発生したとします。
当時と同様に関東方面へ大量の火山灰が降れば、道路、鉄道、電力、上下水道、通信設備などに大きな影響が生じる可能性があります。
火山灰は単なる砂ぼこりではありません。
細かい粒子が機械設備へ入り込み、濡れると電力設備の絶縁性能にも影響する場合があります。
また、大量の降灰を除去するには、膨大な作業量が必要になります。
【26.瓦礫と火山灰の二重処理】
関東巨大地震と南海トラフ巨大地震では、大量の災害廃棄物が発生します。
その処理が終わらないうちに富士山が噴火すれば、さらに大量の火山灰を除去する必要があります。
道路を通れるようにするためにも除灰が必要です。
しかし、そのために使用する重機やダンプカー、燃料、作業員は、すでに全国の復興工事で不足しているかもしれません。
火山灰を一度除去しても、噴火が続けば再び積もる可能性があります。
東京の復興工事が中断し、物流が再び停滞する恐れがあります。
【27.首都機能の維持】
東京の道路、電力、通信、行政機関、金融機関が同時に大きな障害を受けた場合、首都機能を従来どおり維持することが難しくなる可能性があります。
政府には代替拠点や業務継続計画があります。
しかし、首都圏全体が広域被災し、通信や燃料まで不足する場合、その計画が十分機能するかは別問題です。
政府中枢が残っていても、現場から情報が届かず、必要な物資を届けられなければ、実際の行政能力は低下します。
このため、首都機能の一部分散や、行政・企業拠点の地方移転が進む可能性も考えています。
ただし、東京の完全放棄や恒久的な首都移転は、現時点では極端な最悪仮説です。
第6章 大災害にサイバー攻撃が重なる
【28.国家関連の攻撃組織】
中国や北朝鮮などに関連すると評価されているサイバー攻撃グループは、実際に活動しています。
中国関連とされる攻撃グループについては、重要インフラへの長期潜伏が海外で警告されています。
北朝鮮関連の攻撃グループについては、金融資産の窃取などが確認されています。
ただし、これらの国が日本の大災害時に必ず破壊攻撃を行うという証拠はありません。
今回の最悪想定では、国家関連組織や犯罪組織が日本の混乱に乗じ、複数の重要システムへの攻撃を実行した場合を考えます。
【29.物理的には無事な設備も止まる】
港湾、物流倉庫、発電所、病院などが災害を免れていても、情報システムが停止すれば正常に運用できなくなる可能性があります。
物流会社の受発注システムが使えない。
倉庫の在庫情報が確認できない。
電子決済が停止する。
発電施設の監視や運用に障害が発生する。
こうした状態が広がれば、残存する社会基盤の能力まで低下します。
【30.サイバー防御能力そのものの低下】
サイバー攻撃から社会を守るのは、最終的には人間です。
セキュリティ技術者、通信事業者、システム管理者、設備保守要員などが必要になります。
しかし、大災害ではその人々も被災します。
電力がなく、通信が不安定で、移動も困難な状況では、システムの監視や復旧作業が難しくなります。
攻撃者が混乱を利用する一方で、防御側の対応能力が低下するという最悪の組み合わせが考えられます。
【31.千葉県などのデータセンター集積地】
千葉県の印西市・白井市周辺などには、大規模なデータセンターが集積しています。
これらは耐震性や非常用電源などを備えた施設が多く、簡単に使用不能になるものではありません。
しかし、今回の想定では広域停電、通信障害、燃料不足、設備保守の困難、サイバー攻撃が同時に発生する条件を考えます。
建物が無事でも、電力や冷却設備を維持できなければサーバーを停止しなければなりません。
さらに、金融機関や行政システムの主系とバックアップが同時に障害を受ければ、重要な情報サービスが長期間利用できなくなる恐れがあります。
銀行のデータセンターが止まることと、預金記録が消滅することは別ですが、データの正確性が確認できなければ、金融機関は安全に取引を再開できません。
【32.国家の指揮系統への影響】
通信、金融、物流、行政の情報システムが同時に機能低下すれば、政府の救援活動にも影響します。
被災地の状況を把握できない。
必要な物資の数量が分からない。
配送指示が届かない。
金融決済ができない。
自治体が支援物資を受け取れない。
これらが重なった場合、政府が救援方針を決定しても、現場で実行することが難しくなります。
つまり、国家の指揮系統が存在していても、国家の実行能力が失われる可能性があるのです。




