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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第六十九話 世界を救ったので、まず戦争の後片づけをすることにした

世界を救った翌朝、俺は魔王城の食堂で目を覚ました。

「……なんで食堂?」

目の前には、空になった皿が三枚。

背中には毛布。

どうやら祝勝会で腹いっぱい食べて、そのまま寝てしまったらしい。

「勇者が世界を救った直後に、食堂で寝落ちするな」

レイグが呆れた顔で立っていた。

「世界を救うの、疲れるんだよ」

「それは認める」

スラが俺の頭の上で揺れた。

ぷるん。

「お前も寝てたのか」

そこへユウマが大量の紙を抱えてやってきた。

「おはようございます。仕事ですよ」

「えっ。世界を救ったのに?」

「救ったからです」

紙の一枚目には、壊れた橋の一覧。

二枚目には、避難所の食料不足。

三枚目には、王国と魔王領の捕虜交換。

四枚目には、研究所の被害者への補償計画。

「……戦争って、終わってからも忙しいんだな」

元王子が入ってきた。

「戦争を終わらせるのと、平和に戻すのは別の仕事だ」

「お前、最近すごく王子っぽいな」

「元王子だ」

「そこは変わらないのか!」

その日の午前、王国と魔王領の合同復興会議が始まった。

王様と魔王が同じ机を囲んでいる。

二人の間には、まだ少し距離があった。

「まず、北方城塞の修復費用について」

元王子が議題を読み上げる。

魔王はすぐに答えた。

「侵攻した側として、我が国が負担する」

王国の将軍が眉をひそめた。

「金だけで済む話ではありません」

「承知している。捕虜の帰還と、負傷者の治療も進める」

ゲイルが手を挙げた。

「研究所の記録は、すべて公開してほしい」

魔王は頷いた。

「被害者の個人情報は守りながら、実験の責任を明らかにする」

「……約束だぞ」

「ああ」

俺は二人を見つめた。

謝ったから終わりではない。

許したから終わりでもない。

壊れたものを直すには、時間がかかる。

会議の途中、バルザックが鍋を抱えて入ってきた。

「昼飯だ!」

「まだ午前だぞ!」

レイグが叫ぶ。

「腹が減っては会議にならん!」

「それは正しい!」

俺は即答した。

王様と魔王が同時にため息をついた。

なんだか、少しだけ仲がよさそうに見えた。

昼食のあと、俺たちは北方城塞へ向かった。

城壁には、まだ戦いの傷が残っている。

でも、以前より大勢の工兵が働いていた。

王国の兵士と魔族の技師が、同じ足場に立っている。

「そこ、もう少し右!」

「右って、そっちの右か!」

「右は一つだろ!」

「お前、逆向いてるぞ!」

俺は笑った。

世界を救う魔法より、ずっと騒がしい。

工兵の親方が俺を見つけた。

「勇者様! 今度はしゃもじで壁を直してくれるのか?」

「俺の仕事、何でも屋になってません?」

「いやあ、前の貯水池の工事が役に立ったからな」

俺はしゃもじを見た。

白い表面には、いくつもの色の線が残っている。

「こいつ、何でもできるわけじゃないですよ」

親方は笑った。

「知ってる。だから、俺たちもいるんだ」

その言葉が嬉しかった。

親方は新しい橋の図面を広げた。

「今度は、魔王領の村まで道を繋ぐんだ」

「敵が攻めてくる道じゃなくて?」

「そうだ。荷車と旅人が通る道だ」

俺は図面の線を指でなぞった。

同じ道でも、何のために作るかで意味が変わる。

「完成したら、最初に通りに来ます」

「そのときは、ちゃんと靴を履いてこいよ」

「俺、そんなに裸足の印象あります?」

救護所では、あの若い兵士が働いていた。

片腕の包帯は、もう外れている。

「勇者様!」

「おっ、生きてたな!」

「今度は僕が食事を用意します!」

彼は温かいスープを持ってきた。

「前に、勇者様にご馳走になりましたから」

俺は椅子に座った。

「じゃあ、遠慮なく」

スープを一口飲む。

「……うまい!」

彼は嬉しそうに笑った。

「バルザックさんの料理人に教わったんです」

「四天王の料理が王国に広まってる!」

「今は共同炊事班の先生ですよ」

俺は思わず吹き出した。

午後、ゲイルと姫は研究所から救出された人々を訪ねた。

かつて第八試験体と呼ばれていた銀髪の少年もいた。

彼はゲイルを見つけると、少し緊張した顔をした。

「……第七号」

ゲイルは首を振った。

「俺はゲイルだ」

少年はしばらく考えた。

「……僕にも、名前が欲しい」

姫がしゃがみ込む。

「どんな名前がいい?」

「自分で決めても、いいの?」

「もちろん」

少年は窓の外を見た。

そこには、戦争が終わった空が広がっている。

「……アオ」

「アオ?」

俺が聞くと、少年は頷いた。

「空が、青かったから」

ゲイルは小さく笑った。

「いい名前だ」

アオは、初めて自分の名前を口にした。

「……僕は、アオ」

俺はその声を聞いて、胸が熱くなった。

夕方、城塞の広場で王国と魔王領の合同声明が読み上げられた。

戦争の終結。

強制調律の禁止。

研究施設の監督。

復興事業への協力。

拍手は、最初から大きかったわけじゃない。

疑う人もいた。

怒っている人もいた。

当然だと思う。

それでも、誰も武器を抜かなかった。

夜、魔王が俺の隣へ来た。

「カイ。私は魔王の座を退くべきかもしれぬ」

「それ、俺に決めさせるんですか?」

「……いや」

「だったら、魔王領の人たちに聞いてください」

魔王は少し驚いた顔をした。

「自分で決められるようにするのが、最初の仕事じゃないですか」

長い沈黙のあと、魔王は頷いた。

「……そうだな」

俺は空を見上げた。

黒い亀裂は消え、星が見えている。

世界は救われた。

でも、明日からも、誰かが困る。

橋は壊れるし、腹も減るし、喧嘩だって起きる。

だから、俺は思った。

「……平和って、完成するものじゃないんだな」

レイグが隣で笑った。

「毎日、作るものなんだろう」

「お前、いいこと言うな」

「お前よりはな」

「最後の一言、いらない!」

スラが笑うように跳ねた。

俺たちの旅は、まだ終わっていない。

でも、世界を救うための戦いは、確かに終わったのだった。

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