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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第六十七話 勇者と魔王が同じ作戦書に署名した

ヴァルザードとの再戦を前に、王国と魔王領の合同会議が開かれた。

王国からは王様と姫、元王子。

魔王領からは魔王と四天王たち。

そして、なぜか俺が中央の席に座っていた。

「……俺、ここにいていいの?」

ユウマが笑う。

「しゃもじの持ち主ですから」

「それ、理由になってる?」

レイグは真顔で頷いた。

「なっている」

会議の目的は、ヴァルザードを倒すことではない。

彼がほどこうとしている世界の魔力を、もう一度繋ぎ直すことだった。

「まず、鎖を狙う」

ゲイルが地図を指差した。

「奴の右肩に、古い調律の流れが残っている」

ユウマが続ける。

「鎖を通して各地の測定器と繋げれば、ほどけた魔力を分散できます」

元王子は頷いた。

「ただし、測定器が一つでも壊れると負荷が集中する。予備を各地に置く」

姫が手を挙げた。

「住民の避難も同時に進めるわ。戦場の近くに誰も残さない」

魔王は静かに言った。

「私はヴァルザードの動きを止める」

レイグが眉をひそめる。

「一人では無理だ」

「分かっている。協力を頼む」

レイグは少し驚いた顔をした。

「……なら、引き受けよう」

俺はしゃもじを握った。

「俺は最後に、みんなの魔力を繋ぐ」

王様が尋ねた。

「危険はないのか」

「あります」

俺は正直に答えた。

「でも、前みたいに一人で抱え込まない。危なくなったら止めます」

王様は頷いた。

「それでよい」

合同会議の途中、王国の将軍が立ち上がった。

「魔王軍と同じ作戦を実行するなど、民が納得するでしょうか」

魔王領の将軍も言った。

「こちらにも、王国を信用できぬ者は多い」

会議室がざわめいた。

俺は手を挙げた。

「……じゃあ、正直に説明しよう」

「何を?」

王様が尋ねる。

「今まで戦ってきたことも、失敗したことも。世界が壊れそうなことも」

将軍が眉をひそめる。

「混乱が起きます」

「隠しても、空の亀裂は見えるだろ」

俺は言った。

「だったら、何をするのか話したほうがいい」

魔王が頷いた。

「その通りだ」

元王子は声明文を書き始めた。

『王国と魔王領は、世界の崩壊を止めるため協力する』

『参加は任意とし、強制調律は行わない』

『危険があれば作戦を停止する』

俺は最後の一文を指差した。

「これ、大事」

レイグが頷いた。

「お前が一番忘れやすいからな」

「分かってるって!」

声明文は各地へ送られた。

最初は疑う人もいた。

『魔王を信じていいのか』

『王国はまた秘密を隠していないか』

その声は当然だった。

俺は通信石の前へ座り、一つずつ答えた。

「信じろとは言いません。でも、測定器の記録は誰でも見られるようにします」

「危険なら、やめていいんですか」

「もちろん」

「協力しなくても、避難所は使えますか」

「使えます!」

その答えに、少しずつ参加者が増えた。

魔王は俺を見て言った。

「……信頼とは、命令で得るものではないのだな」

俺は頷いた。

「時間がかかりますけどね」

「そうだな」

王様と魔王は、同じ声明文へ署名した。

俺はその光景を見て、少しだけ胸が熱くなった。

会議の最後に、作戦書が配られた。

『合同調律作戦』

その下には、王国と魔王領の印章を押す欄がある。

王様が署名した。

次に魔王が署名した。

二人は一瞬だけ顔を見合わせた。

「……まさか、お前と同じ書類に名を書く日が来るとは」

王様が言う。

魔王は苦笑した。

「私もだ」

俺は思わず笑った。

「じゃあ、仲直り記念に握手でも」

二人は同時に俺を見た。

「……それは、まだ早い」

声が重なった。

「息ぴったりじゃん!」

ユウマが吹き出した。

出発前夜、俺は姫と城壁の上にいた。

「カイ、怖い?」

彼女が尋ねる。

「……怖いよ」

俺は即答した。

「今度は、しゃもじが戻っても勝てるか分からない」

「そうね」

姫は空を見上げた。

「私も怖い。でも、怖いから準備するの」

「姫らしいな」

「王宮で書類を読むのも、戦場で拳を振るうのも、同じよ」

「同じ?」

「守りたいものがあるから、やるの」

俺は少し考えた。

「……じゃあ、俺も同じだ」

姫は笑った。

「そうよ」

下の広場では、レイグが兵士たちへ剣の使い方を教えていた。

ゲイルは黙って見守り、ときどき短く助言する。

ユウマは測定器の点検に追われている。

元王子は食料と水の配分を確認していた。

誰も、ただ待ってはいない。

俺はしゃもじを握った。

「……俺も何か手伝おうかな」

姫が笑う。

「なら、まず眠りなさい」

「またそれ!?」

「明日、あなたが倒れたら困るもの」

俺は反論できなかった。

城壁を下りると、スラが足元へ寄ってきた。

ぷるん。

「お前も寝るか?」

ぷるん。

俺はスラを抱えて部屋へ戻った。

寝る前に、しゃもじの色の線を確かめる。

王国の人たち。

魔王領の人たち。

魔物たち。

それぞれの色が、消えずに残っている。

「……明日も頼むぞ」

もちろん返事はない。

でも、手の中は少しだけ温かかった。

その夜、作戦書の写しが各地へ送られた。

王国の兵士と魔族の兵士が、同じ地図を見て避難路を確認する。

工兵たちは一緒に支柱を運び、料理人たちは同じ鍋で食事を作った。

俺はその光景を見て、少しだけ不思議な気分になった。

昨日まで敵だった人たちが、今日は同じ方向を向いている。

「……こういうの、悪くないな」

レイグが隣で頷いた。

「ああ」

でも、遠くの空には黒い亀裂が残っていた。

ヴァルザードは、俺たちを待っている。

俺はしゃもじを腰に差した。

「……明日、終わらせよう」

ゲイルが静かに答えた。

「全員でな」

その日の夜、王国と魔王領の兵士が同じ焚き火を囲んでいた。

最初は互いに黙っていたが、誰かが硬いパンを見せた。

「こっちも、これか」「うちもだ」二人が笑った。

バルザックが鍋を運んでくる。

「なら、汁につけて食え!」兵士たちは同時に礼を言った。

俺は少し離れたところから見ていた。

握手より先に、同じ食事をする。

そんな仲直りの仕方もあるらしい。

その小さな笑い声は、どんな宣言よりも確かな変化に思えた。

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