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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第六十六話 壊れたしゃもじを、世界中で直すことにした

魔王城の会議室に、二つに折れたしゃもじが置かれていた。

柄は俺の手元にある。

先端は、北の要石から回収された。

ゲイルが危険を承知で探してくれたのだ。

「……ありがとう」

俺が言うと、ゲイルは頷いた。

「お前の大事なものだろ」

俺は折れた二つを並べた。

ぴったり合う。

でも、光は戻らなかった。

オルドが図書塔から来ていた。

「原初調律器の修復には、複数の流れを繋ぐ必要があります」

「複数って、何人くらい?」

俺が尋ねる。

「正確には分かりません」

「またそれか!」

ユウマが笑った。

「だから実験するんですよ」

元王子は地図を広げた。

「王国と魔王領の主要都市に測定器を置き、少しずつ魔力を送ってもらう」

「強制はしない」

ゲイルが言った。

「もちろん」

魔王が頷く。

「参加するかどうかは、本人が決める」

俺は安心した。

修復の準備には、予想以上に時間がかかった。

王国の測定器と魔王領の測定器は、接続の形が違ったのだ。

「……規格が違う!」

ユウマが叫んだ。

元王子が額を押さえる。

「まさか、ここで」

魔王領の研究者が言う。

「我々のほうが古い規格です」

王国の工兵が答える。

「なら、変換器を作ろう」

「すぐに?」

「木と銅線があれば、一晩で」

俺は目を丸くした。

「工兵ってすげえ!」

レイグが笑う。

「お前、最近そればかりだな」

「だって本当にすごいんだよ!」

その夜、工房には灯りが消えなかった。

王国の工兵と魔族の研究者が、同じ机を囲んで図面を描く。

「この線をここへ繋ぐ」

「いや、負荷が高すぎる」

「なら、二本に分けよう」

「それならいける」

俺は飲み物を運んだ。

「差し入れです!」

工兵が笑った。

「勇者様が給仕か」

「今はそれしかできないんで!」

「それで十分だよ」

その言葉が、少し嬉しかった。

朝になると、変換器が完成した。

ユウマが試験を行う。

青い光が、赤い測定器へ流れ込む。

「……成功!」

俺は拍手した。

「これで、みんなの魔力を繋げられる!」

元王子は記録簿へ結果を書き込んだ。

「次は、各地の安全確認だ」

「まだあるの?」

「ある。世界を直すんだからな」

俺は笑った。

「……そりゃそうか」

準備が整ったころ、魔王が工房へ来た。

「カイ。お前の道具を直すために、これほど多くの者が集まった」

「……そうですね」

「私が昔、調律器を持っていたときは、誰にも触らせなかった」

俺は魔王を見た。

「一人で守ろうとしたんですか」

「ああ。そして、間違えた」

魔王は静かに頷いた。

「今度は、違う道を選びたい」

俺は笑った。

「じゃあ、一緒にやりましょう」

最初に集まったのは、北方城塞の工兵たちだった。

『しゃもじ勇者には、壁を守ってもらったからな』

通信石の向こうで親方が笑う。

次に、魔王領の村人たち。

『井戸を直してくれたお礼です』

バルザックも手を挙げた。

『料理人の魔力でも役に立つか?』

「もちろん!」

俺が答えると、彼は大きく頷いた。

『なら、鍋を火にかけながら参加しよう』

「料理は焦がすなよ!」

セレーネからも連絡が来た。

『眠っている者には、夢の中で協力を求めてみます』

「起こしてから聞いてくれ!」

『……そうですね』

オルドは古い本を開き、修復の手順を読み上げた。

『異なる流れを受け入れ、ひとつに閉じ込めず、互いを支える』

各地の測定器が光り始めた。

青い光。

赤い光。

緑の光。

それぞれ違う色の魔力が、細い糸となって集まってくる。

ユウマが数値を確認した。

「偏りはありません。ゆっくりですけど、安定しています」

魔王は腕を伸ばし、流れを支えた。

レイグはまだ包帯を巻いたまま、台座の横に立っている。

「お前も休んでろよ」

俺が言うと、レイグは笑った。

「剣は振れんが、立つくらいはできる」

姫がすかさず言う。

「無理したら座らせるわよ」

「……分かった」

ゲイルが小さく笑った。

俺は折れたしゃもじへ手を伸ばした。

光の糸が、割れ目へ入り込む。

木の表面がゆっくり繋がっていく。

「……戻ってる!」

俺は声を上げた。

だが、元通りではなかった。

白い表面に、いくつもの色の細い線が走っている。

一つずつ違う色。

一つずつ違う光。

俺はそれを見て、胸が熱くなった。

「……みんなのしゃもじだ」

オルドが頷いた。

「ようやく、本来の姿に近づいたのかもしれません」

その瞬間、遠くの空の亀裂がわずかに止まった。

完全には消えない。

でも、広がる速度が落ちた。

ユウマが叫んだ。

「成功です! 少なくとも、修復は成功しました!」

俺はしゃもじを握りしめた。

「……ありがとう、みんな」

通信石の向こうから、たくさんの声が返ってきた。

修復が終わったあと、俺はしゃもじを何度も裏返した。

「……本当に戻ったんだな」

レイグが呆れたように言う。

「何回確認する」

「百回くらい」

「暇なのか」

「感動してるんだよ!」

ユウマが測定器を片づけながら言った。

「でも、以前と同じ使い方は危険です」

「分かってる」

「今度は、流れを一つに集めず、分けながら使ってください」

俺は頷いた。

しゃもじの表面にある色の線は、一本ずつ違う方向へ伸びている。

どれも消えていない。

それが、何だか嬉しかった。

ゲイルが近づいてきた。

「……俺の魔力も、混ざっているのか」

「もちろん」

「研究所で作られた魔力だぞ」

俺は首を振った。

「今は、お前が自分で使ってる魔力だろ」

ゲイルはしばらく黙った。

そして、小さく笑った。

「……そうだな」

姫がしゃもじを覗き込んだ。

「見た目も少し立派になったわね」

「だろ!」

「でも、やっぱりしゃもじね」

「そこは変わらないのか!」

みんなが笑った。

魔王は窓の外を見ていた。

「これで、ヴァルザードを止められるかもしれぬ」

俺は頷いた。

「今度は、一人で突っ込まない」

レイグが即座に言う。

「本当だな?」

「……本当!」

少し間があったせいで、誰も信じてくれなかった。

俺はしゃもじの柄を持った。

「……よし。始めよう」

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