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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第六十五話 魔王と勇者が共闘したら、敵が強すぎた

ヴァルザードが目覚めてから三時間。

国境の村は避難を終えたが、山の亀裂は広がり続けていた。

「このままじゃ、隣の町まで届くぞ」

元王子が地図を見て言った。

俺は折れたしゃもじの柄を握った。

「……どうする?」

そのとき、空から黒い影が降りてきた。

魔王だった。

「私が止める」

「一人で?」

俺が尋ねると、魔王は首を振った。

「お前たちと共にだ」

レイグが剣を構えた。

「今度は、勝手に命令するなよ」

「分かっている」

魔王は苦笑した。

「今日は、頼みに来た」

ゲイルは魔王を見つめた。

「……俺に何をさせる」

「お前の魔力感知が必要だ。ヴァルザードの周囲にある、ほどけていない場所を探してほしい」

ゲイルはしばらく黙り、頷いた。

「分かった。だが、俺の意思で動く」

「それでよい」

俺は二人を見て、少しだけ安心した。

撤退の途中、魔王は何度も後ろを振り返った。

「……あれを放置すれば、北方は消える」

元王子が答える。

「だからこそ、準備が必要です」

「準備している間に、また村が一つ失われるかもしれぬ」

俺は魔王を見た。

「……分かります。でも、無理して全滅したら、もっと多くの人が困ります」

魔王は黙った。

ゲイルが言った。

「俺は昔、命令されれば死ぬまで戦った」

魔王は顔を上げた。

「……ああ」

「でも、それは強さじゃなかった」

ゲイルは続けた。

「引くべきときに引く。それも、仲間を守るために必要だ」

魔王は長く息を吐いた。

「……お前に教えられるとはな」

「俺も、教わったんだ」

ゲイルは俺を見た。

俺は慌てて手を振った。

「いや、俺だって何度も無茶したぞ!」

レイグが即答した。

「何度もな」

姫も頷いた。

「本当にね」

「みんなで責めるな!」

少しだけ笑い声が戻った。

治療所へ着くと、バルザックが鍋を運んできた。

「まず食え! 戦いのあとは腹が減る!」

「……お前、いつもそれだな」

俺が言うと、彼は胸を張った。

「腹が減っていては、まともな作戦も立たん!」

魔王まで頷いた。

「それは正しい」

俺は笑った。

「四天王の中で、一番頼りになるかも」

バルザックは嬉しそうに笑った。

「当然だ!」

俺たちは温かいスープを飲んだ。

負けたあとでも、食事はうまかった。

それが少しだけ救いだった。

魔王が地面へ手をかざす。

黒い魔法陣が広がり、ヴァルザードの足元を囲んだ。

『まだ、調律にしがみつくか』

巨人が笑った。

『魔王よ。

お前は昔から変わらぬ』

「知り合いなのか?」

俺が叫ぶ。

魔王は答えた。

「古い記録でしか知らぬ。だが、奴は原初の時代に世界の形を拒んだ存在だ」

ヴァルザードが槍を振る。

魔王の魔法陣が半分ほど消えた。

「……強すぎる!」

ユウマが叫んだ。

ゲイルが指を差す。

「右肩の鎖だ! そこだけ魔力が残っている!」

レイグが駆ける。

姫が巨人の膝へ蹴りを入れ、体勢を崩す。

「今!」

レイグの剣が鎖へ届いた。

金属音が響き、鎖に小さな傷が入る。

『……ほう』

ヴァルザードが初めて動きを止めた。

「効いた!」

俺は叫んだ。

だが次の瞬間、巨人が腕を振った。

レイグが吹き飛ばされ、岩壁へ叩きつけられる。

「レイグ!」

姫が駆け寄る。

レイグは立ち上がろうとしたが、膝が折れた。

「……まだ、戦える」

「駄目!」

姫が肩を押さえた。

俺は唇を噛んだ。

魔王がもう一度魔法陣を展開する。

今度はゲイルとユウマが補助した。

三つの流れが重なり、巨人の動きが一瞬だけ止まる。

「カイ!」

魔王が叫ぶ。

「今なら、調律器で鎖を整えられる!」

俺は折れた柄を見た。

「……これで?」

「試せ!」

俺は駆け出した。

柄を鎖へ当てる。

小さな光が生まれた。

だが、すぐに消えた。

『壊れた道具で、何をする』

ヴァルザードの声が響く。

俺は歯を食いしばった。

「……まだ、終わってない!」

巨人が槍を振り下ろす。

魔王が俺の前へ飛び込み、直撃を受け止めた。

「魔王!」

「退け!」

魔王の腕から黒い光が散った。

「……今は勝てぬ。撤退する!」

俺は悔しかった。

でも、レイグが倒れ、魔王も傷ついている。

これ以上戦えば、誰かが死ぬ。

「……撤退!」

俺は叫んだ。

俺たちは傷ついた仲間を支え、山を下った。

背後で、ヴァルザードが笑っていた。

『次は、世界そのものをほどいてやろう』

俺は振り返らなかった。

今は、生きて帰ることが必要だった。

仮設の治療所では、レイグが医師に怒られていた。

「骨にひびが入っています。しばらく剣を振らないでください」

「……三日で治るか」

「治りません!」

俺は思わず笑った。

「レイグでも怒られるんだな」

「お前は笑うな」

「ごめん」

魔王も腕に包帯を巻かれていた。

「……魔王にも包帯って必要なんですね」

「痛みはある」

「そりゃそうか」

ゲイルは窓の外を見つめていた。

「俺がもっと早く鎖を見つけていれば」

「違うよ」

俺は言った。

「見つけたから、少しだけでも傷をつけられた」

ユウマが記録を広げた。

「その傷が重要です。鎖の内側に、古い魔力の流れが残っています」

元王子が頷く。

「なら、次は鎖を狙う」

姫はレイグの包帯を確かめた。

「次までに、作戦を立て直しましょう」

魔王が俺を見た。

「カイ。お前のしゃもじは折れたままだ」

「分かってます」

「修復できるかもしれぬ」

俺は顔を上げた。

「本当ですか!」

「ただし、元の形に戻すだけでは足りない」

魔王は図書塔の挿絵を指差した。

「調律器は、最初から一人の道具ではなかったのだ」

俺は絵を見た。

複数の手が、中央の道具を支えている。

「……みんなで直すってこと?」

魔王は頷いた。

「そうだ」

俺は折れた柄を握った。

まだ、希望は残っていた。

俺は治療所の外へ出た。

空にはまだ亀裂が走っている。

負けた事実は変わらない。

でも、今日の戦いで分かったこともある。

巨人の鎖には、まだ世界を繋ぐ力が残っていた。

なら、次はそこへみんなの力を届ければいい。

俺は小さく拳を握った。

仲間が揃っていれば、次の手を考えられる。

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