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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第六十一話 女武道家が駆けつけたので、魔王軍の作戦が変わった

北の要石へ向かう途中、俺たちは見慣れた声を聞いた。

「カイ! また無茶をしているの?」

振り返ると、街道の向こうに一人の女性が立っていた。

王国の姫であり、元パーティーの女武道家。

そして元王子の姉だった。

「姫!?」

俺は思わず走り寄った。

「なんでここに!」

「王国軍の救援隊を連れてきたのよ」

彼女の後ろには、荷車と工兵たちが続いていた。

「世界が壊れそうだって聞いて、城に座っていられると思う?」

元王子が額を押さえる。

「姉さん、護衛は?」

「ちゃんといるわ」

「どこに?」

「後ろで荷物を運んでる」

「護衛に荷物を運ばせるな!」

姫は笑った。

「みんな働きたいって言ったのよ」

ゲイルが彼女を見つめていた。

「……久しぶりだな」

姫は静かに近づいた。

「生きていたのね」

「ああ。あのときは、助けてくれてありがとう」

「お礼なら、もう聞いたわ」

彼女はゲイルの首筋の布を見た。

「まだ、痛む?」

「少し。でも、自分で動ける」

「それならよかった」

姫は拳を差し出した。

ゲイルは少し迷い、拳を合わせた。

「……今度は、一緒に戦おう」

「ええ。ただし、無茶は許さない」

俺は二人を見て笑った。

「やっぱり姫がいると、ゲイルも逆らえないな」

「お前もよ、カイ」

「俺も!?」


元王子が姫に尋ねた。

「王宮の仕事は?」

「引き継いできたわ」

「誰に?」

「父上」

元王子は頭を抱えた。

「王様に書類を押しつけてきたのか!」

「国王だもの、仕事をしてもらわないと」

俺は笑った。姫が戻ると、空気が明るくなる。

正面部隊の準備を見に行くと、姫は兵士たちへ指示を出していた。

「敵を追いかけすぎない。時間を稼ぐのが目的よ」

若い兵士が尋ねる。

「敵将を倒す機会があってもですか?」

「倒せるなら止めてもいい。でも、無理に追わない」

「なぜです?」

「今日の勝利は、相手の首じゃなくて、装置を止めることだから」

俺は感心した。

「姫、やっぱり将軍みたいだな」

「王宮で予算の取り合いをしていると、自然に覚えるのよ」

「王宮、怖っ!」

レイグは真面目に頷いた。

「戦場より厄介かもしれん」

姫が笑った。

「あなたたちも、いつか会議に参加してみる?」

「遠慮します!」

俺とレイグの声が重なった。

ゲイルはその様子を見て、静かに笑った。

姫は彼に気づき、少し声を落とした。

「ゲイル。前に会ったときは、あなた、誰にも頼ろうとしなかったわね」

「……そうだった」

「今は?」

ゲイルは俺たちを見回した。

「頼ることを覚えた」

「よかった」

彼女は本当に嬉しそうだった。

元王子が通信石を持ってきた。

「王国から追加の工兵が来る。水路の出口も確認できた」

「じゃあ、準備は整ったな」

俺が言うと、ユウマが首を振った。

「まだ、撤退経路が一つしかありません」

「もう一つ作る?」

「はい。もし水路が塞がれたら、上の排気口から出られるようにしましょう」

ゲイルが天井を見た。

「俺が先に確認する」

姫がすかさず言う。

「一人では行かない」

「……分かった」

俺は笑った。

「やっぱり姫がいると安心だな」

「あなたも一人で行かないのよ」

「はい!」

結局、排気口の確認にはゲイルとユウマが向かった。

俺は下で縄を持つ係。

「……勇者なのに縄係?」

「縄係がいないと戻れん」

俺は縄を強く握った。

「責任重大だな」

姫が持ってきたのは、兵だけではなかった。

王国の研究者たちが作った、魔力を測る小さな器具。

「これで北の要石の負荷が分かるわ」

ユウマが目を輝かせる。

「助かります! 魔王軍の資料と比較できます」

元王子は地図を広げた。

「グラディウスは正面から近づく敵を警戒している。俺たちは要石を壊さず、装置だけ止めたい」

姫が地図を指差した。

「なら、昔の水路を使えば?」

「水路?」

「この山の下には、王国と魔王領を繋ぐ古い排水路がある。国境の工事記録に残っていた」

俺は目を丸くした。

「なんでそんなこと知ってるの?」

「王宮で書類仕事をしていたからよ」

「書類仕事、すげえ!」

元王子が苦笑した。

「姉さんのほうが、俺より資料を読んでいたからな」

姫は胸を張った。

「剣も拳も大事。でも、地図も大事なの」

俺たちは正面部隊と潜入部隊に分かれた。

姫とレイグが正面で時間を稼ぎ、俺とゲイル、ユウマ、元王子が水路から装置へ近づく。

出発前、姫が俺を呼び止めた。

「カイ。しゃもじを壊すような使い方は、もうしないで」

俺は傷の入ったしゃもじを見た。

「……気をつける」

「気をつけるだけじゃ足りない」

彼女は俺の額を軽く叩いた。

「仲間を頼りなさい」

俺は笑った。

「それなら得意になってきたよ」

姫は頷いた。

「なら、行ってらっしゃい」

水路は思ったより狭かった。

「……この道、本当に通れるのか?」

俺が尋ねると、元王子が図面を広げた。

「昔は工兵が通ったらしい」

「昔の工兵、細身だったんだな」

ユウマが笑う。

「カイさん、しゃもじが引っかかってますよ」

「武器が大きすぎるんだよ!」

ゲイルは無言でしゃもじを受け取り、横向きに運んでくれた。

「……ありがとう」

「気にするな」

足元を水が流れている。

スラたちは楽しそうに滑っていた。

「お前らだけ遊ぶな!」

ぷるん。

水路の途中には、古い門があった。

錆びた鉄格子が下りている。

ゲイルが剣を抜こうとしたが、俺は止めた。

「切ったら音がする」

ユウマが鍵穴を覗いた。

「古い仕組みですね。水圧で開くはずです」

元王子が図面を指差した。

「この横の水門を閉じれば、圧力が変わる」

俺たちは協力して水門を動かした。

ぎぎぎ、と鉄格子が上がる。

「……すごい」

俺は思わず呟いた。

「しゃもじを使わずに開いたぞ」

ユウマが笑った。

「世の中、しゃもじなしでも動きますよ」

「ちょっと寂しいな!」

奥へ進むと、遠くから姫の声が響いた。

「正面部隊、予定位置に到着!」

通信石越しでも、声が大きい。

レイグが続けた。

『こちらは任せろ。お前たちは装置を止めろ』

俺は小さく頷いた。

「了解」

暗い水路の向こうに、赤い光が見えた。

装置の起動まで、もう時間がなかった。

その奥から、機械の唸る音が聞こえてきた。

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