第六話:もう一人の勇者
「整える、ねぇ……」
村へ向かう道すがら。
その言葉を、どこかから誰かがなぞった。
「ずいぶん地味なこと言う勇者だな」
声は、上から落ちてくる。
ぴたり。
俺は足を止めた。
商人たちも気づき、顔を上げる。
「……誰だ?」
木の上。
枝に腰かけた男がいた。
軽い鎧。
無駄のない体つき。
そして――
剣。
やたらと“まとも”な装備。
「初めまして、って言うべきか?」
男はひらりと降りた。
音が、しない。
「俺も勇者だ」
「……は?」
商人たちが固まる。
「勇者が二人!?」
「聞いてねぇぞそんな話!」
だろうな。
俺も初耳だ。
「名乗っとくか」
男は肩を軽く回す。
「レイグだ」
口元に、薄い笑み。
「王都直属の“正規勇者”」
「……正規?」
思わず聞き返す。
「その反応が普通だな」
レイグは楽しそうに言った。
「で、そっちは?」
視線が俺に向く。
しゃもじを見る。
そして――
沈黙。
「……武器、それか?」
「これだ」
「嘘だろ」
即答だった。
「いや待て、待て待て」
額を押さえる。
「スライム操ってトロル沈めたって報告、聞いて来たんだが」
「報告?」
「ああ。橋作って、崩して、沈めたって」
「……間違ってはない」
「なのに武器がしゃもじかよ」
正しい。
「料理人の間違いじゃないのか?」
何も言い返せない。
「まあいい」
レイグは小さく息を吐いた。
「で?」
顎で川の方を指す。
「ちゃんと“倒した”のか?」
「沈めた」
「それは“倒した”って言わない」
間。
「……だが、沈めたなら一応は及第点か」
剣を軽く鳴らしながら、収める。
「確認させてもらう」
「何を」
「お前の“整える”ってやつ」
にやり、と笑う。
「失敗したら――」
親指で川を示す。
「俺が全部、斬る」
「勝手にしろ」
「いいね」
レイグはそのまま背を向けた。
「じゃあ同行だ」
「勝手に決めるな」
「勇者同士だろ?」
振り返りもせず言う。
「協力しようぜ」
……面倒なのが増えた。
俺はため息をつく。
「スラ」
ぷるん。
足元でスライムが震える。
「……騒がしくなるな」
そのまま歩き出す。
前には村。
後ろには剣の勇者。
「……トロルより厄介かもしれん」
ぽつりと呟く。
「聞こえてるぞ」
即座に返ってくる声。
やっぱり面倒だ。




