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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第五話:橋、畳んで沈める

「……限界だな」

トロルの一歩で、スライム橋が大きく歪む。

ぐにゃり。

今にも千切れそうだ。

スライムたちの震えが、さっきより明らかに激しい。

「勇者様! 持たんぞこれ!!」

「分かってる」

短く返し、しゃもじを構える。

「――橋、解除」

「は!?」

ぶるん。

スライム橋が一斉に“緩んだ”。

「ちょっ――」

次の瞬間。

ばしゃっ!!

橋が消えた。

「うわあああああ!!」

悲鳴。

だが――

どぷん。

商人たちは川に落ち――沈まない。

「……あれ?」

足元が、どろりと受け止める。

スライムたちは橋を解き、

“浮き床”として再配置されていた。

「浮いてる……!?」

「足場あるぞ!!」

「ぬるいけど!!」

文句言うな。

一方で――トロル。

止まらない。

ずしん。

そのまま踏み込み――

どぶん。

盛大に落ちた。

「グォ!?」

さすがに予想外らしい。

「よし」

小さく呟く。

ここからが本番だ。

「スラ、囲え」

ぷるん。

足場を維持したまま、一部のスライムが水中へ潜る。

トロルの下へ。

「……混ぜろ」

ぼそり。

次の瞬間――川が変わった。

ぐにゅ。

水が“重くなる”。

「なんだこれ……」

「流れが止まってる……?」

違う。

止めてるんじゃない。

“絡めてる”。

トロルが立ち上がろうとする。

だが。

ずぶっ。

足が抜けない。

「グォォ?」

力任せに引き上げる。

しかし。

ぐにゅぅ。

戻る。

まるで底なし沼だ。

「いいぞ」

しゃもじを軽く振る。

「もっと下、固めろ」

スライムたちが応える。

絡み、

締め、

押し込む。

トロルが暴れる。

腕を振る。

水が跳ねる。

だが――逃げ場がない。

「グォォォォ!!」

叫ぶたびに。

ずぶ。

ずぶずぶ。

沈む。

膝。

腰。

腹。

「……パワー系はこれが効くな」

真正面から戦う必要はない。

土俵を変えればいい。

トロルが最後に踏ん張る。

筋肉が膨れ上がる。

持ち上がりかける――

その瞬間。

「今だ、下から引け」

ぐい。

体勢が崩れる。

「グォ!?」

そして――

ずぶっ。

一気に沈んだ。

胸まで。

腕も半分以上。

もう、まともに動けない。

「……終わりだ」

近づく。

トロルが睨む。

だが――届かない。

「暴れるなよ」

しゃもじを掲げる。

「そのまま休んでろ」

最後の抵抗。

だが――遅い。

全方向から圧がかかる。

下へ。

さらに下へ。

ずぶずぶ。

首まで。

そして――

「グォォォ……」

ずぶり。

完全に沈んだ。

静寂。

川は何事もなかったように流れている。

ただし、中身は別物だ。

「……終わった?」

「終わったな」

「いや、沈めただけだろこれ」

正しい。

スライムたちが戻る。

商人たちも岸へ。

全員無事。

「助かった……」

「橋は?」

「ない」

「だよな!!」

俺は川を見る。

静かだ。

何もないように見える。

だが――

「……スラ」

ぷるん。

一匹が水面を叩く。

ぽこ。

小さな気泡。

その奥に――確かに“いる”。

「埋めたな」

ぷるん。

「……で、どうすんだこれ」

濡れたままの商人が川を見る。

橋はない。

ただの流れだ。

「戻れねぇぞ」

「来れねぇのかこれ」

「どっちでもいいが困る!!」

騒がしい。

「静かにしろ」

しゃもじを振る。

ぴたり、と空気が止まる。

「橋は作る」

「作れるのか!?」

「さっき消したばっかだぞ!?」

「消してない」

首を振る。

「“形を変えただけ”だ」

川面を見る。

静かだ。

だが――いる。

「スラ」

ぷるん。

水面が揺れる。

「戻れ」

ぽこ。

ぽこぽこ。

川の各所から泡が浮かぶ。

「な、なんだ……?」

「また出てきたぞ……!」

違う。

“集まってる”。

水中で散っていたスライムたちが、

ゆっくり、確実に戻る。

「ラインで繋げ」

「厚みは二層」

「中央、盛れ」

短い指示。

だが――通じる。

ぐにゅ。

水面が盛り上がる。

一本の筋。

それが太くなる。

「お、おお……」

橋が再構築されていく。

ただし――

「……色が違う?」

透明だったそれは、

少しだけ濁っていた。

「強化した」

「さっき、水ごと噛ませた」

「噛ませた……?」

「密度が上がってる」

柔らかいだけじゃない。

“重い”。

ぐにゅん。

橋が完成する。

幅広く。

分厚く。

「……踏んでいいのか?」

「落ちたくなければ端は踏むな」

「怖ぇこと言うな!!」

だが――

最初の一歩は、文句を言っていた商人だった。

ぐに。

沈む。

止まる。

「……お?」

もう一歩。

ぐに、ぐに。

沈まない。

「いける!!」

「マジか!!」

空気が変わる。

「急げ」

「また来る前にな」

全員が渡り始める。

今度は落ちない。

俺は最後尾で橋を見る。

安定している。

「……学習したな」

支えるだけじゃない。

締めることも、押し返すこともできる。

「使えるな」

ぽこ。

足元のスライムが跳ねた。

やがて――

全員が渡り切る。

「着いた……!」

「助かった……」

へたり込む商人たち。

その背後で――

ぐにゅ。

橋が崩れる。

「え!? また!?」

「落ちねぇよな!?」

「安心しろ」

肩をすくめる。

「今度は“解体”だ」

スライムたちは静かに川へ戻る。

まるで最初から何もなかったように。

「……すげぇな」

誰かが呟く。

「橋も作れて、魔物も沈めて……」

「勇者様、あんた何者なんだよ」

少し考えて。

しゃもじを肩に乗せる。

「料理人だ」

「嘘つけ!!」


挿絵(By みてみん)

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