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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第五十七話 魔王と勇者が、世界の修理方法で喧嘩した

魔王城の会議室には、巨大な世界地図が広げられていた。

俺は椅子に座り、しゃもじを机の上に置いた。

レイグは隣で腕を組み、ゲイルは扉の近くに立っている。

元王子とユウマは、魔王軍の研究者たちと資料を確認していた。

「……で、世界をどう直すんです?」

俺が尋ねると、魔王は地図を指差した。

「魔力の流れを一度固定し、崩壊を止める。その後、調律器で安定させる」

「固定って、どれくらい?」

「全域だ」

「全域?」

「世界中の生き物の魔力循環を、同じ周期に揃える」

俺は顔をしかめた。

「それ、図書塔で見た失敗した村の実験と同じじゃないですか」

「規模が違う。今回は崩壊を止めるために必要な措置だ」

「でも、自由がなくなる」

魔王は静かに言った。

「自由があっても、世界が消えれば意味はない」

俺は思わず立ち上がった。

「だからって、みんなを勝手に決めつけるなよ!」

会議室が静まり返る。

レイグが小声で言った。

「魔王に向かって、よく言うな」

「だって腹立つんだよ!」

魔王も立ち上がった。

「では、お前に別の方法があるのか!」

「……まだない!」

「ならば、何を根拠に反対する!」

「嫌なものは嫌だからだ!」

ユウマが額を押さえた。

「理論が感情に負けてますね」

元王子が手を挙げた。

「両者とも落ち着いてください。問題を分けましょう」

彼は地図に三つの印をつけた。

「第一に、崩壊を止める。第二に、住民の自由を守る。第三に、方法を実行できるか確認する」

魔王は黙って聞いていた。

「現在の案は第一を満たす可能性がありますが、第二を失います」

「その通りだ」

魔王が認めた。

「ならば、第二を守る別案を探すべきです」

ゲイルが口を開いた。

「命令で動かされた者は、元に戻っても傷が残る」

魔王は彼を見た。

「……知っている」

「知らない。お前は、経験していない」

その言葉に、魔王は何も返せなかった。

俺はしゃもじを持ち上げた。

「これって、無理やり揃える道具じゃないんだろ」

オルドから借りた記録を机に置く。

『異なる流れを共存させる』

俺はその一文を指差した。

「違うまま、一緒にいられる方法があるはずだ」

研究者の一人が首を振った。

「理論上は可能ですが、世界規模では調律器の出力が足りません」

「じゃあ、みんなで手伝えば?」

「……みんな?」

「スラが城壁を支えたみたいに。王国の人も、魔族も、魔物も」

魔王は目を細めた。

「そんな協力が、世界中で成立すると思うか」

「分からない」

俺は正直に答えた。

「でも、やってみないと分からない」

魔王は長く沈黙した。

「……お前は、あまりに楽観的だ」

「そっちは悲観的すぎる」

「世界の終わりを見たことがあるか?」

「ない!」

「ならば――」

「でも、誰かの自由がなくなるところは見た!」

俺はゲイルを見た。

「それを、もう一度やりたくない」

魔王の表情が揺れた。

会議が終わるころ、魔王は俺のしゃもじを見つめていた。

「……それを、怖いと思ったことはないか」

「ありますよ」

俺は即答した。

「最初は変な武器だと思ってましたけど、今は世界を壊せるかもしれない道具ですから」

「なら、なぜ持ち続ける」

「置いたら、誰かが勝手に使うかもしれない」

魔王は黙った。

俺は続けた。

「それに、こいつのおかげで仲間ができたんです」

スラがぷるんと跳ねる。

「……そうか」

魔王は少しだけ笑った。

「私も、昔はその道具を恐れていなかった」

俺は思った。

道具を怖がることは、悪いことじゃない。

怖いからこそ、使い方を考えられる。

会議の途中、研究者の一人が小さな模型を持ってきた。

木の輪に、色の違う糸が何本も巻かれている。

「これが現在の世界の魔力循環です」

研究者は一本の糸を引っ張った。

ほかの糸が絡まり、輪の一部が歪む。

「一つを直すと、別の場所へ負担が移ります」

俺は首をかしげた。

「じゃあ、全部を同時に引っ張れば?」

研究者は苦笑した。

「それが固定案です」

「……駄目なやつか」

「安定はします。ただし、動けなくなります」

ユウマが模型を受け取った。

「引っ張るんじゃなく、支える場所を増やしたら?」

彼は机の上に小さな木片を置いた。

輪の外側を、何か所かで支える。

すると、糸を強く引かなくても形が保たれた。

「……おお」

俺は思わず声を上げた。

「これ、いいじゃん!」

魔王は模型を見つめた。

「支える者が必要だ」

「そうですね」

元王子が頷く。

「しかも、支える位置は各地で異なります」

ゲイルが言った。

「強制すれば、また同じことになる」

「なら、頼めばいい」

俺が言うと、魔王は眉をひそめた。

「世界中の者へ?」

「うん」

「そんな簡単に協力すると思うか」

「簡単じゃないから、話し合うんだろ」

レイグが笑った。

「お前、王様より面倒なことを言うな」

「王様じゃないから言えるんだよ!」

研究者たちは模型を囲み、議論を始めた。

一つの糸を緩める。

別の糸を支える。

小さな輪が、少しずつ元の形へ戻っていく。

俺はそれを見ながら思った。

世界の修理も、もしかしたらこういう地味な作業なのかもしれない。

大きな魔法を一発撃つより、ずっと面倒で、ずっと時間がかかる。

でも、そのほうが俺にはしっくりきた。

「……よし。まずは小さく試そう」

俺が言うと、魔王は頷いた。

「それならば、許可しよう」

そのときはまだ、誰も知らなかった。

小さな実験でも、世界全体へ影響が広がることを。

会議は結論が出ないまま終わった。

俺は廊下へ出て、深く息を吐いた。

「……魔王と喧嘩しちゃった」

ユウマが笑う。

「史上初かもしれませんね」

「褒めてないだろ」

「半分くらいは」

その夜、魔王から一枚の地図が届いた。

『調律器の実験を許可する。

ただし、安全を確認すること』

俺は地図を見つめた。

「……意外と話が通じるんだな」

レイグが言った。

「だからこそ、油断するな」

俺は頷いた。

世界を直す方法は、まだ見つかっていない。

でも、少なくとも話し合う扉は開いた。

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