↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/72

第五十五話 勇者を召喚した王国にも、秘密があった

魔王城へ向かう前に、俺たちは王国へ連絡を送った。

元王子が持っていた通信石を使う。

青い光が灯り、王宮の会議室が映し出された。

「……父上」

元王子が言うと、王様の顔が現れた。

『無事だったか』

「はい。ですが、聞きたいことがあります」

元王子は図書塔の記録を見せた。

『原初調律器』

その文字を見た瞬間、王様の表情が変わった。

「……知っていたんですね」

長い沈黙。

やがて王は頷いた。

『すべてではない。

だが、その道具が世界の均衡に関わることは知っていた』

俺は思わず声を上げた。

「じゃあ、なんで俺に渡したんですか!」

王は目を伏せた。

『召喚の儀式が、その道具と反応したからだ』

「反応?」

『本来、勇者には剣が与えられるはずだった。

しかし、お前が現れたとき、祭壇にあった古い道具が光り、手元へ移った』

俺はしゃもじを見下ろした。

「……自分で選んだってこと?」

『そう考える者もいた』

ユウマが身を乗り出す。

「では、召喚の目的は魔王討伐だけではなかった?」

王は答えなかった。

その沈黙で十分だった。

レイグの声が低くなる。

「王国は、世界の異常を知りながら、民に隠していたのか」

『混乱を避けるためだ』

「混乱を避けるために、俺たちを危険に送り込んだ?」

俺は言ってから、自分の声が震えていることに気づいた。

王は顔を上げた。

『……そうだ。

余は、お前に真実を伝えなかった』

部屋が静かになった。

元王子は拳を握りしめていた。

「父上。俺たちは、何度も命を落としかけました」

『分かっている』

「分かっていたなら、なぜ」

『世界の崩壊を確信できなかったからだ。

古い記録しかなく、魔王の情報も不確かだった』

俺は息を吐いた。

王の言い分にも、分かるところはある。

確証のない話で国中を騒がせたくなかったのだろう。

でも、だからといって、何も知らされないまま戦うのは違う。

「……俺は、怒ってます」

俺ははっきり言った。

王は頷いた。

『当然だ』

「でも、今は怒ってる時間がない」

俺はしゃもじを持ち上げた。

「知ってることを全部教えてください」

王は側近に合図し、古い文書を運ばせた。

そこには、数百年前の召喚記録があった。

『世界の均衡が崩れるとき、調律器は異界の者を選ぶ』

俺は目を丸くした。

「異界の者って、俺?」

『おそらく』

「なんで異世界から?」

オルドが答えた。

「この世界の魔力に染まっていない者なら、流れの偏りに引きずられにくいのでしょう」

ユウマが頷く。

「だからカイさんは、魔物を支配せずに整えられるのかもしれません」

俺は少し考えた。

「……じゃあ、俺が特別なんじゃなくて、外から来たから?」

レイグが笑った。

「十分特別だろ」

「そうかな」

「少なくとも、しゃもじを武器にする勇者は他にいない」

「それはそう!」

通信石の向こうで、王が深く頭を下げた。

『すまなかった。

これからは隠さぬ』

元王子は静かに言った。

「なら、王国の研究者を集めてください。魔王の方法とは別の道を探します」

『承知した』

王宮からは、研究者だけでなく工兵たちの協力も申し出があった。

北方城塞で貯水池を直した親方が、伝令を通じて言ってきたのだ。

『魔力のことは分からんが、支柱なら作れる』

俺は思わず笑った。

「頼もしいな」

元王子も頷いた。

「魔法だけで世界を救う必要はない」

ユウマは図面に支柱の位置を書き込んだ。

「物理的に安定させられる部分もありそうです」

ゲイルが言った。

「なら、俺は運ぶ」

レイグは肩を回した。

「俺も力仕事ならできる」

俺はみんなを見た。

「なんか、世界の修理って工事みたいだな」

ユウマが笑う。

「しゃもじ勇者の本領発揮ですね」

「工事の勇者じゃない!」

オルドから借りた記録には、空の亀裂が広がる速度も書かれていた。

俺は数字を見て顔をしかめた。

「……難しいな」

ユウマが横から覗いた。

「一日ごとに、少しずつ悪化しています」

「じゃあ、のんびりしてられない」

「はい。でも、焦って失敗するほうが危険です」

俺は頷いた。

急ぐことと、雑にやることは違う。

それだけは、忘れないようにしよう。

通信石を切ったあと、元王子はしばらく黙っていた。

「……父上を責めたかったわけじゃない」

俺が言うと、彼は首を振った。

「責められて当然だ」

「でも、王様にも事情があったんだろ」

「事情があっても、隠してよいことと悪いことがある」

元王子は窓の外を見た。

「俺は王族だった。民を守るとは、正しい答えを持っていることだと思っていた」

「違うのか?」

「分からないことを、分からないと伝える勇気も必要なのかもしれない」

俺は少し考えた。

「……それ、難しいな」

「そうだな」

二人で笑った。

ユウマが通信石の記録を確認していた。

「王国の研究者が協力してくれるなら、資料を共有できますね」

「魔王軍と?」

レイグが眉をひそめる。

「はい。敵同士でも、同じ問題を調べることはできます」

ゲイルは静かに言った。

「ただし、研究所のような実験は二度とさせない」

「もちろん」

ユウマは頷いた。

「実験には、本人の同意と安全確認が必要です」

俺はしゃもじを掲げた。

「じゃあ、俺も勝手に人を整えないようにする」

レイグが笑った。

「今さらか」

「今さらでも大事だろ!」

その夜、王国から追加の資料が届いた。

古い召喚陣の図面。

調律器の記録。

そして、王様の手書きの短い手紙。

『帰ってきたら、すべて説明する』

俺は手紙を折り畳んだ。

「……帰らないと、文句も言えないな」

元王子が頷いた。

「そうだ。必ず帰ろう」

窓の外には、魔王城の灯りが見えていた。

あそこへ行けば、また何かが変わる。

怖くないと言えば嘘になる。

でも、仲間がいる。

それだけで、少しは前へ進めた。

通信が切れた。

俺は長く息を吐いた。

「……なんか、疲れた」

ユウマが笑う。

「魔王に会う前に、王様と喧嘩しちゃいましたね」

「喧嘩じゃない。説明を求めただけだ」

レイグが肩を叩いた。

「よく言った」

俺はしゃもじを見つめた。

最初から、ただの武器じゃなかった。

そして、俺たちの旅も、最初から魔王討伐だけじゃなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。