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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第四十八話 第二の四天王が、ゲイルの過去を知っていた

第二の関所は、城というより研究所だった。

白い石の壁。

細い窓。

扉には何重もの鍵。

俺は入り口で足を止めた。

「……ここ、嫌な感じがする」

スラたちも静かだった。

いつものぷるぷるがない。

ゲイルは先頭を歩いている。

背筋は伸びていたが、握った拳が白くなっていた。

「無理なら、引き返してもいいぞ」

俺が言うと、ゲイルは首を振った。

「ここへ来るために、旅を続けた」

「……分かった」

レイグが剣の柄を確かめる。

「なら全員で入る」

中は冷たかった。

通路の両側にガラスの容器が並び、青白い液体が揺れている。

空の容器にも番号が書かれていた。

ユウマが一つを覗く。

「……人間の形をした跡があります」

俺は目をそらした。

「研究って、こういうことなのか」

ゲイルが小さく言った。

「ここでは、名前を呼ばれなかった」

「じゃあゲイルって名前は?」

「逃げたあと、自分で決めた」

俺は彼を見つめた。

自分で決めた名前。

それだけで、どれほど大切なものか分かった気がした。

「いい名前だな」

ゲイルは少し驚いた顔をした。

「……そうか」

「うん。覚えやすいし、強そうだ」

「理由が軽い」

「褒めてるんだって!」

ゲイルの肩が硬くなる。

「……命令核」

俺は聞いた。

「何だ、それ」

「俺の身体に埋め込まれた、命令を強制するものだ」

「取れないのか?」

「取ろうとした者はいた」

「どうなった?」

ゲイルは目を伏せた。

「……俺を助けた女武道家が、壊しかけた。でも完全には消えなかった」

俺は息を呑んだ。

彼が姫に借りを返したがっていた理由が、少しだけ見えた。

「じゃあ、今度はみんなで壊そう」

レイグが頷く。

「そのために来たんだろう」

ユウマは小さな工具を取り出した。

「物理的に外せる部分なら、僕も手伝えます」

元王子も言った。

「姉さんが守った命だ。ここで奪わせない」

ゲイルは一人ずつ顔を見た。

「……なぜ、そこまで」

俺は肩をすくめた。

「仲間だから。それ以上、理由いる?」

ゲイルは何も言わなかった。

でも、ほんの少しだけ笑ったように見えた。

その直後、奥の扉が開き、ゼルガの声が響いた。

「美しい友情だね。実験の邪魔にならなければ、私も感動したのだが」

俺はしゃもじを握り直した。

「こっちは感動させるために来たんじゃない!」

ゼルガの目が冷たく光った。

「なら、結果で示してもらおう」

奥の扉が開いた。

「おかえり、試作第七号」

白衣を着た魔族の男が立っていた。

細い眼鏡、穏やかな笑み。

だが目だけは笑っていない。

ゲイルが剣を抜いた。

「ゼルガ」

「名前を覚えていてくれたとは嬉しいね」

ゼルガは手を広げた。

「魔王軍第二四天王。研究監督官。そして君の生みの親、とでも言おうか」

「親?」

俺は思わず声を上げた。

ゲイルは低く言う。

「違う。こいつは俺を作った」

ゼルガは肩をすくめる。

「言い方の問題だ。君の肉体には、人間の素質と魔族の魔力循環を組み合わせた。対勇者用の最高傑作になるはずだった」

「はずだった?」

「命令に従わなかったからね」

ゲイルの剣先が震えた。

「お前たちは、何人を犠牲にした」

「数は重要ではない。成果こそが重要だ」

その言葉に、俺の胸が熱くなった。

「重要だろ」

ゼルガが俺を見る。

「何だい?」

「数じゃない。ひとりひとりだ。勝手に実験に使って、成果で片づけるな」

ゼルガは興味深そうに目を細めた。

「なるほど。君が例の調律器の持ち主か」

「しゃもじの勇者だ」

「奇妙な肩書きだね」

「こっちも好きで名乗ってない!」

ゼルガは机の上に小さな金属片を置いた。

「第七号。君が逃げたとき、これを置いていったね」

ゲイルの目が細くなる。

「……あれは」

「命令核の外殻だ。壊しても、中枢は残る」

俺は言った。

「だったら、中枢も壊せばいい」

ゼルガは微笑んだ。

「それをすれば、彼の命も危ない」

言葉が胸に刺さった。

ゲイルは静かに剣を握った。

「それでも、俺は戻らない」

俺は彼の横へ立った。

「命を賭ける前に、別の方法を探そう」

ゼルガは鼻で笑った。

「時間があるといいね」

ゼルガは壁の装置に触れた。

通路の奥で金属音が響く。

鎧をまとった兵士たちが現れた。

北方城塞で戦った、あの黒い兵士に似ている。

「対調律兵装、第四型。君の能力を調べるために改良した」

俺は息を呑んだ。

「……あれ、ここで作ってたのか」

「そうだ。そして試作第七号を回収する」

ゼルガが指を鳴らす。

ゲイルの首筋に、黒い紋様が浮かび上がった。

「……ぐっ!」

ゲイルが膝をつく。

レイグが前へ出た。

「何をした!」

「古い命令を呼び起こしただけだ。彼の身体には、まだ私の設計が残っている」

ゲイルは歯を食いしばった。

「……俺は、戻らない」

「君に選択権はない」

俺はしゃもじを握りしめた。

その言葉が、どうしても許せなかった。

「あるだろ」

ゼルガが首をかしげる。

「何?」

「選ぶ権利だよ。ゲイルは俺たちと来るって決めた。お前の道具じゃない」

俺はスラを呼んだ。

「ゲイル、今からちょっと痛いかもしれない。でも、絶対に置いていかない」

ゲイルは苦しそうに顔を上げた。

「……頼む」

その一言を聞いて、俺はしゃもじを構えた。

ゼルガは静かに笑う。

「試してみたまえ。君の調律が、私の設計に勝てるかどうか」

黒い兵士たちが一斉に踏み出す。

レイグが剣を抜いた。

「カイ、ゲイルを頼む」

ユウマは出口を確認し、元王子は退路に立った。

俺は深く息を吸った。

「……よし」

しゃもじをゲイルの首筋へ近づける。

「人を道具扱いする研究所なんて、まとめて整えてやる!」

だが、触れた瞬間。

しゃもじから、今まで聞いたことのない音がした。

――きぃん。

白い表面に、細い亀裂のような光が走った。

「……え?」

ゼルガの笑みが消える。

「まさか、その反応は……」

ゲイルの黒い紋様が、激しく脈打った。

そして研究所全体に、警報が鳴り響いた。

『原初調律反応を確認。

封鎖手順を開始します』

扉が、次々に閉まっていく。

俺は叫んだ。

「ちょっと待て! 俺、まだ何も壊してないぞ!!」

誰も笑わなかった。

本当の戦いは、ここからだった。

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