↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/72

第四十七話 魔王軍の料理長を倒したら、食堂を任された

魔王軍第一厨房は、戦場だった。

「野菜が足りん!」

「鍋が焦げた!」

「皿を洗う人員がいない!」

怒号が飛び交い、煙が天井に溜まっている。

俺は入り口で立ち尽くした。

「……敵の本拠地に来たと思ったら、給食センターだった」

バルザックは腕を組んだ。

「勇者よ。これが我が軍の現実だ」

「料理勝負の前に片づけろよ!」

大鍋では、黒い塊が煮えていた。

隣の台には切りかけの根菜が山積み。

床には水がこぼれている。

レイグが顔をしかめた。

「これで兵士が戦えるのか」

「戦えるとも! ただし食後は全員、顔色が悪い!」

「駄目だろ!」

俺は厨房の責任者たちを集めた。

「まず動線を分けよう。食材の搬入、下処理、調理、配膳、洗浄。全部同じ通路を通るから詰まるんだ」

バルザックは目を丸くした。

「そんなことを考えた者は初めてだ」

「誰か考えろよ!」

ユウマが紙に簡単な図を描いた。

元王子は食材の帳簿を確認し、無駄な廃棄が多いことに気づく。

「ここを変えるだけで、必要な食材が減る」

「お前、王子より経理向きじゃない?」

「それは褒めているのか?」

スライムたちは食器の洗浄を手伝った。

ただし、食器に直接触れた後は必ず熱湯で仕上げる。

ピカウルフは厨房の外で見張り役。

中へ入れると肉を狙うからだ。

「わふ!」

「駄目。お前は後で食べろ」

バルザックは大鍋の火を調節する役になった。

「炎将なのに火加減を弱くしろだと!?」

「強火だけが料理じゃない!」

「……深い」

「普通の話だよ!」

厨房を改善するにあたり、最初に反対したのは古株の料理人だった。

「勇者の言うことなど聞けるか!」

包丁を握ったまま、俺を睨む。

「分かる。俺も敵の厨房に口出しするのは変だと思う」

「なら帰れ!」

「でも、床の水で転んだら危ないだろ」

その瞬間、後ろで若い料理人が滑った。

がしゃん。

皿が割れる。

全員が黙った。

「……ほら」

古株は渋い顔をした。

「分かった。床だけは直そう」

それが最初の一歩だった。

次は鍋の配置。

大きな鍋を全部同じ場所に並べると、料理人が互いの邪魔をする。

「汁物は左、焼き物は右。洗い物は出口の向こう」

俺が言うと、バルザックは首をかしげた。

「なぜそんな細かいことを?」

「ぶつかって料理をこぼしたら、誰も得しないから」

「なるほど……戦術だな!」

「厨房の話だよ!」

ユウマは余った食材の記録をつけた。

「昨日は根菜が三袋も傷んでますね」

「使う順番が決まっていないからだ」

元王子が指摘する。

「古いものから使う。それだけでも違う」

「王子様、詳しいですね」

若い料理人が驚いた。

「王宮の台所は見たことがある」

「働いたことは?」

「……ない」

「じゃあ今日から働いてください」

元王子は固まった。

俺は笑いを堪えられなかった。

「王族の初アルバイトだ!」

結局、元王子は配膳係を手伝った。

皿を持つ姿が妙に上品で、兵士たちが緊張する。

「そんなにかしこまらなくていい」

「い、いえ、なんだか貴族の方に似ているので」

「……よく言われる」

俺は吹き出した。

一方、レイグは食材運びに駆り出された。

「俺は剣士だぞ」

「力持ちだろ」

「それはそうだが」

ゲイルは黙って重い鍋を運んでいた。

「お前は文句ないの?」

「鍋は斬りかかってこない」

「比較対象がおかしい!」

夕食のあと、若い兵士が空の皿を持ってきた。

「おかわり、ありますか?」

古株の料理人は、少し照れたように笑った。

「あるよ。今日はたくさん作ったからね」

その声を聞いて、俺は嬉しくなった。

戦場で敵を退けたときとは、別の種類の勝利だった。

ただ、厨房の改善が魔王軍を元気にしてしまったことには、後から気づいた。

「これ、敵の戦力強化じゃない?」

俺が呟くと、ユウマが笑った。

「平和的な侵略ですね」

レイグは頭を抱えた。

「だから最初に止めたかったんだ」

食堂の壁には、兵士たちの要望を書いた紙が貼られた。

『汁をもう少し多く』

『硬いパンを柔らかく』

『たまには甘いもの』

俺は最後の一枚を見て笑った。

「どこの世界でも同じだな」

バルザックは真剣に頷く。

「甘味は士気に関わる」

「急に軍事用語にするな!」

元王子は紙を一枚追加した。

『食事の時間を守る』

それを見た料理人たちが拍手した。

小さな決まりでも、守れば誰かの一日が楽になる。

昼には、食堂へ温かい煮込みと柔らかいパンが並んだ。

兵士たちは警戒しながら一口食べた。

「……うまい」

「今日の飯、どうした?」

「食べても腹が痛くならないぞ!」

「そこが評価基準!?」

食堂には久しぶりの笑い声が広がった。

バルザックは目を潤ませていた。

「我が軍の兵士が、こんなに幸せそうに……」

「なら最初からこうしろ!」

そのとき、食堂の奥から拍手が聞こえた。

黒い制服の女魔族が立っていた。

肩には銀色の階級章。

「見事なものね、しゃもじの勇者」

「……誰?」

「第二四天王直属の監察官よ」

空気が変わった。

彼女はバルザックを見た。

「魔王軍の厨房に勇者を入れるとは、随分と大胆ね」

バルザックは胸を張った。

「料理人に敵味方はない!」

「あなた、四天王でしょう」

「料理長でもある!」

監察官はため息をついた。

「上層部から伝言。勇者一行は、次の関所へ進むことを許可する。ただし――」

彼女の視線がゲイルへ向く。

「そこの剣士は、必ず同行させなさい」

ゲイルの顔から表情が消えた。

「……誰の命令だ」

「あなたなら、分かるでしょう」

女は薄く笑った。

「第二四天王、研究監督官ゼルガの命令よ」

ゲイルの手が剣の柄に触れた。

俺は思わず口を開いた。

「……おい、まさか知り合い?」

ゲイルは短く答えた。

「知っている」

それだけで、食堂の温かさが遠のいた気がした。

バルザックは俺の肩を叩いた。

「勇者。食事が必要なら、いつでも来い」

「敵地で行きつけの食堂ができた!」

ユウマが笑った。

「悪くない旅ですね」

でもゲイルだけは笑わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。