↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/72

第三十七話 王国の防衛会議に、しゃもじを持って参加した

王城の軍議室は、朝から殺気立っていた。

大きな地図を囲み、将軍たちが次々に報告する。

「北方国境に魔王軍の先遣隊を確認!」

「西の街道にも魔物の集団が!」

「兵糧は三週間分しかありません!」

俺は隅の椅子に座り、しゃもじを膝に置いていた。

「……これ、俺が参加していい会議?」

「勇者なんだから当然だろ」

レイグが答える。

「でも、軍の偉い人たちが全員こっち見てる」

「しゃもじを持ってるからな」

「そこ!?」

王が席につくと、室内が静かになった。

「国境の敵は十万に達する可能性がある」

ざわめきが広がる。

王国軍は三万。

しかも、全員を北方へ動かせるわけではない。

将軍の一人が言った。

「籠城して援軍を待つしかありません」

別の将軍は首を振る。

「城壁は古い。大型魔物の突撃に耐えられない」

「なら先制攻撃だ!」

「兵力差を見ろ!」

言い争いが始まった。

俺は地図を見た。

北方には川があり、その先に城壁と倉庫がある。

道は二本。

山道と平地の街道。

「……あの」

誰も聞いていない。

「すみませーん」

まだ聞いていない。

「しゃもじの勇者から提案がありまーす!」

全員が一斉に振り向いた。

「その名乗り方、やめろ!」

レイグが小声で怒る。

俺は地図の川を指さした。

「敵が来る前に、橋と道を整えませんか」

将軍が眉をひそめる。

「橋を?」

「壊すんじゃなくて、こっちが使いやすくする。補給が遅れたら戦う前に負けるでしょ」

ユウマが横から補足した。

「城壁の補強と避難路の整備も必要です。カイのスライムなら短時間で可能です」

元王子が頷く。

「物資を一か所に集めず、複数の倉庫に分散させよう。襲撃を受けても全部は失わない」

レイグは地図の山道を示す。

「ここに偵察隊を置く。敵の進路が分かれば、少ない兵で迎撃できる」

ゲイルが静かに言った。

「大型魔物は俺が止める。ただし、長時間は無理だ」

将軍たちの表情が変わっていく。

「……戦う前の準備か」

「そうです」

俺は頷いた。

「勝つためには、まず負けにくくする。俺のしゃもじ、そういうの得意なんで」

王が初めて笑った。

「面白い。採用しよう」

会議は一気に動き出した。

工兵隊は城壁へ。

補給隊は倉庫へ。

村々には避難計画が伝えられた。

俺たちは北方の城塞都市へ向かった。

到着した城壁は、想像以上に傷んでいた。

「……これ、押したら倒れない?」

「押すなよ!」

レイグが叫ぶ。

スライムを壁の隙間へ送り込み、石材のずれを整える。

砕けた部分は周囲の石と密着させ、表面を滑らかにした。

工兵の親方が目を丸くする。

「石を積み直さずに補修した……?」

「応急処置です。ちゃんと点検してください」

「分かってる。だが、これで時間が稼げる!」

次は水路。

水が詰まっている場所をスライムで掃除し、城内へ水が届くようにする。

次は倉庫。

床の湿気を取り、穀物が腐らないようにする。

「……俺、勇者だよな?」

「立派な土木担当だ」

ユウマが笑った。

「転職先が増えた!」

夕方、城壁の上で休んでいると、姫がやってきた。

王国軍の訓練を担当するため、北方へ派遣されたという。

「カイ。兵たちの様子を見たか」

「疲れてるな」

「戦う前から怯えている者もいる」

俺は城壁の下を見た。

若い兵士が、震える手で槍を磨いていた。

「……しゃもじで心も整えられるかな」

「無理に整える必要はない」

姫は言った。

「怖いままでも、隣に仲間がいれば立てる」

俺は頷いた。

「じゃあ、まず飯だな」

「また飯か!」

「腹が減ると余計に怖いだろ!」

その夜、俺たちは兵士たちと同じ食堂で食事をした。

スライムが食器を磨き、ピカウルフが子どもたちを笑わせた。

少しだけ、空気が軽くなる。

だが翌朝。

北方の空に、黒い旗が現れた。

見張りの鐘が鳴り響く。

「敵軍、接近!」

俺はしゃもじを握り直した。

「……よし。整える準備はできた」

レイグが剣を抜く。

「今度は戦う番だ」

俺は首を振った。

「いや。まだやれることがある」

城壁の下で、スライムたちが一斉に跳ねた。

城塞へ向かう途中、俺たちは街道で荷車の列に追いついた。

避難する家族たちだった。

小さな女の子が、荷車から顔を出す。

「勇者様、魔王軍は来るの?」

俺は答えに迷った。

「……来るかもしれない」

女の子は唇を噛む。

「怖い」

「俺も怖い」

「勇者様も?」

「うん。でも、怖いから準備するんだ」

俺はスライムを一匹、荷車の横へ呼んだ。

「こいつ、荷車の車輪が壊れたら直すの手伝えるんだぜ」

ぷるん。

女の子は少し笑った。

「じゃあ、勇者様も気をつけてね」

「ああ。お互い無事に帰ろうな」

その約束が、俺の背中を押した。

軍議が終わると、王は俺だけを呼び止めた。

「カイ。お前は、なぜ魔物を殺さずに済ませようとする」

俺は少し考えた。

「最初に会ったスライムが、敵じゃなくなったからです」

「それだけか」

「はい。最初に殴って倒してたら、今の仲間はいなかった」

王は静かに頷いた。

「……その考え方が、戦場でも通じるとよいな」

「通じない相手もいると思います」

俺は正直に答えた。

「でも、試す前から諦めたくないです」

王はしばらく俺を見ていた。

「頼む。民を守ってくれ」

俺はしゃもじを持ち上げた。

「できることは、全部やります」

その夜、俺は補給隊の手伝いもした。

重い袋を運んでいると、兵士が驚いた顔をした。

『勇者様がこんな仕事を?』俺は笑った。

『勇者でも腹は減るし、飯がなきゃ戦えないだろ』兵士たちは笑い、荷物を運ぶ手が少しだけ速くなった。

スライムも袋を運ぼうとして転がった。

俺は思わず笑った。

『無理するな、お前たちは明日が本番だ』

夜の食堂で、若い兵士が俺に尋ねた。

「勇者様は、怖くないんですか」

俺は即答した。

「怖いよ」

兵士は目を丸くした。

「……勇者でも?」

「しゃもじ一本で十万の軍隊と戦えって言われて、怖くないやついる?」

兵士は思わず笑った。

「でも、逃げないんですね」

「逃げたいときはある。でも、逃げたら困る人がいるから」

俺はスープを一口飲んだ。

「それに、一人じゃないしな」

近くではレイグが剣を磨き、ユウマが地図を広げ、元王子が補給の計算をしている。

ゲイルは黙って窓の外を見張っていた。

兵士は小さく頷いた。

「……俺も、仲間と一緒なら頑張れそうです」

「頑張りすぎるなよ。生きて帰るのが一番だから」

兵士は少し迷ってから尋ねた。

「城壁が破られたら、勇者様はどうします?」

「逃げ道を作る」

「戦わないんですか?」

「戦うよ。でも、逃げる人を守るのも戦いだろ」

兵士は手元の地図に、避難路を一本書き足した。

俺はそれを見て、少しだけ安心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。