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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第三十四話 魔王軍の実験体を助けたら、魔物の軍団ができた

施設の非常口を開けると、冷たい山の空気が流れ込んできた。

「よし、順番に出ろ!」

俺の声に、スライムたちが整列する。

狼、鳥、小さな角獣。

助け出した魔物たちは怯えながらも、少しずつ外へ進んだ。

「おい、数が多すぎるだろ」

レイグが言う。

「最初は十匹ぐらいだったよな?」

「奥の部屋にもいたんです」

ユウマが答える。

「ざっと百二十」

「百二十!?」

「それから、まだ奥にも」

「やめて! 数えるの怖い!」

スライムたちは檻から出た魔物を包み、歩けない個体を運んでいた。

俺はしゃもじを握り、黒い筋が強い個体から順番に調律していく。

しかし、三十匹ほど終えたところで視界が揺れた。

「……あれ?」

足がふらつく。

ゲイルが俺を支えた。

「限界だ」

「まだ全然残ってる」

「お前が倒れたら、残りも救えない」

レイグが言う。

「一度外へ出す。安全な場所で休ませろ」

元王子は地図を広げた。

「この先に古い採石場がある。屋根付きの倉庫も残ってるはずだ」

「よし、そこを仮の避難所にしよう」

俺たちは魔物の行列を連れて山道を下った。

鳥は肩に止まり、狼はピカウルフの後ろを歩き、小さな獣たちはスライムの上に乗っている。

「……なんか移動動物園だな」

「動物園に魔王軍の実験体はいないだろ」

「そういう問題じゃない!」

採石場の倉庫は埃だらけだった。

「掃除するぞ!」

俺が叫ぶと、スライムたちが一斉に広がる。

床の砂、壁の苔、古い蜘蛛の巣。

あっという間に倉庫がぴかぴかになった。

「……便利すぎる」

元王子が呟く。

「王城にも欲しい」

「姫に相談してくれ」

「姉さん、掃除より訓練に使いそうだな」

容易に想像できた。

魔物たちを休ませ、傷を洗い、持っていた食料を分けた。

だが、問題があった。

「食べ物が足りない」

ユウマが荷物を確認する。

「全員分だと、一日も持ちません」

「じゃあ、山の中で食べられるものを探すか」

「魔物の餌を人間が探すのか?」

「助けた以上、放っておけないだろ」

ゲイルが立ち上がった。

「俺が行く」

「一人は禁止」

俺が言うと、ゲイルは少しだけ笑った。

「……覚えている」

結局、ゲイルとレイグが周囲を偵察し、ユウマと元王子が近くの集落へ協力を頼みに行った。

俺は倉庫に残って魔物たちを見守る。

一匹の小さな狼が、恐る恐る俺に近づいてきた。

「どうした?」

狼は鼻先をしゃもじに押し当てる。

銀の線が、淡く光った。

「……またか」

狼の黒い筋が薄くなる。

俺が何もしていないのに。

「お前、少し自分で整えたのか?」

ぷるん。

横にいたスラが跳ねる。

「……スラ、お前が教えた?」

ぷるん、ぷるん。

どうやらそうらしい。

俺は驚いた。

今まで、スライムは俺の命令に従うだけだと思っていた。

でも、違う。

こいつらは見て、覚えて、自分で考えている。

「……すげえな」

俺はスラの頭を撫でた。

「お前ら、俺がいなくても助け合えるんだな」

スラは誇らしげに震えた。

夕方、ユウマたちが戻ってきた。

集落の人々は最初こそ魔物の群れに驚いたが、事情を聞いて食料と毛布を運んでくれた。

ノルの姿もあった。

「父ちゃんは?」

少年が聞く。

俺は答えに詰まった。

「まだ見つかってない。でも、探してる」

少年は唇を噛んで頷いた。

「……お願いします」

その声が胸に残った。

夜。

俺たちが焚き火を囲んでいると、遠くの山で青い光が立ち上がった。

今までより、ずっと太い。

ゲイルが戻ってきて言った。

「中央槽が動いた。第八が目覚める」

「……第八って、どんなやつなんだ?」

「俺の代わりに作られたものだ」

ゲイルは焚き火を見つめた。

「命令に従うことだけを教えられた、戦うための存在」

俺は立ち上がる。

「なら、最初に教えることがあるな」

「何を?」

「命令を聞かなくてもいいってこと」

ゲイルは焚き火の向こうを見つめた。

「命令がなくなっても、どう生きればいいか分からない者もいる」

「それなら、まず明日の朝飯を選んでもらおう」

「……朝飯?」

「最初の自由が、世界の運命じゃ重すぎるだろ」

ゲイルは一瞬目を丸くし、それから小さく笑った。

「……確かにな」

レイグがため息をつく。

「お前らしいな」

俺はしゃもじを肩に担いだ。

「ただし、殴ってくるなら避ける。俺は痛いの嫌いだから!」

焚き火の向こうで、スライムたちが一斉に跳ねた。

倉庫の外では、ピカウルフが見張りをしていた。

助けた狼たちは彼の周りに集まり、まるで隊長の指示を待っているようだった。

「ピカ、お前いつから隊長になった?」

わふ。

「返事だけは立派だな」

一匹の狼が俺の手を舐めた。

以前なら牙を向けていたはずの魔物が、今は人の温かさを求めている。

「……こいつら、これからどうするんだろう」

ユウマが言った。

「山に帰れる個体もいるでしょう。でも、人に慣れすぎたものは保護が必要ですね」

「じゃあ、村の人と相談しよう」

「簡単には決まらないですよ」

「分かってる。でも、助けたあとが本番だろ」

俺はピカウルフの背中を撫でた。

「こいつだって、最初はただの敵だったんだから」

村人の一人が、避難所の入口で足を止めた。

「魔物を助けるなんて、本当に大丈夫なのか?」

俺はすぐには答えなかった。

「絶対に安全だとは言えません。でも、今はみんな弱ってます。少なくとも、ここで見捨てることはできない」

村人は不安そうに倉庫を覗く。

すると、小さな角獣が水桶を倒しかけ、スライムが慌てて支えた。

その光景に、村人は思わず笑った。

「……人間の子どもと変わらんな」

「そういうところもあります」

俺が言うと、村人は毛布を一枚差し出した。

「これ、使ってくれ。余りものだが」

「ありがとうございます!」

小さな協力が、少しずつ増えていった。

倉庫の隅で眠る小さな獣を見て、俺はようやく息をついた。

誰かに命令されず、安心して眠れる。

それだけでも、ここへ来た意味はあった。

ゲイルも同じ光景を見つめていた。

俺は魔物たちの寝息を聞きながら、明日もこの静かな時間が続くようにと願った。

避難所では、思いがけない問題も起きた。

角獣が倉庫の扉を食べ始めたのだ。

「おい! それ食い物じゃない!」

角獣はもぐもぐと木片を噛んでいる。

ユウマが首を傾げた。

「木を食べる種類なんでしょうか」

「だったら山に木がいっぱいあるだろ!」

レイグが角獣を外へ連れ出そうとするが、頑として動かない。

そこで俺はスライムを使い、倒木から柔らかい部分を分けてみた。

角獣は一口食べると、嬉しそうに鼻を鳴らした。

「……好みがあるのか」

「生き物ですからね」

ユウマの言葉に、俺は頷いた。

実験体という番号ではなく、一匹ずつ違う生き物。

その当たり前のことを、忘れちゃいけない。

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