第三話:村、だいたい整う
第三話:村、だいたい整う
「……で、たぶんの勇者様」
年配の男――たぶん村長が、腕を組んで俺を見る。
「その……仲間たちで、何ができるんだ?」
疑い半分、期待半分。
まあそうなるよな。
俺は後ろを振り返る。
スライムたち、ぴょこぴょこ。
ピカウルフ、尻尾ぶんぶん。
「……たぶん、色々できる」
「またたぶんか」
信頼ゼロである。
とりあえず、村を見て回ることになった。
畑。
家。
井戸。
そして――
「水、濁ってるな」
井戸の水が、うっすら濁っている。
「最近な……」
村長が顔をしかめる。
「飲めんわけじゃないが、腹を壊すやつも出てる」
なるほど。
序盤クエストだ。
「スラ」
ぷるん。
俺は一匹を指差す。
「これ、いけるか?」
スラは井戸を覗き込み――
ぴょん、と飛び込んだ。
「おい!?」
村人がざわつく。
しばらくして。
ぼこっ。
ぼこぼこ。
水面が揺れる。
そして――
ぴょこん。
戻ってきたスラは、
なぜか透明度が増していた。
「……ん?」
井戸を覗く。
透き通っている。
さっきまでの濁りが、消えている。
「……え?」
村人たちがざわつく。
一人が桶で水を汲み、
恐る恐る口にした。
ごくり。
「……うまい」
「マジで!?」
次々に飲む。
「ほんとだ、全然違う!」
「冷たく感じるぞ!」
なんでだよ。
スラが、どや顔っぽく揺れた。
「……浄水したのか?」
ぷるん。
肯定。
「お前、そんな機能あったのかよ」
次。
畑。
「作物の育ちが悪いんだ」
農家のおっちゃんがため息をつく。
土は硬い。
水はけも悪そうだ。
「スラ、行けるか?」
ぷる。
数匹のスライムが、畑に広がる。
ぬる、ぬるる。
土に染み込む。
「うわ、大丈夫かそれ!?」
数分後。
もこっ。
土が、ふわっと持ち上がった。
見た目でわかる。
柔らかい。
指で触る。
「……なんだこれ」
ふかふかだ。
さっきまでのカチカチが嘘みたいに消えている。
「土壌改良……?」
俺が呟くと――
芽が、ぴょこん。
「早くない!?」
村人総ツッコミ。
スラたちが、満足げにぷるぷるしている。
「なんで成長まで促進してんだよ……」
次。
「……家、傾いてないか?」
村の一角。
ボロい家が、明らかに斜めっている。
「直したいんだがなぁ……」
大工のおっさんが頭をかく。
「材料も人手も足りん」
「ピカウルフ」
わふ?
「押せるか?」
ピカウルフは家を見る。
そして――
ぐっ。
前足を当てた。
ミシ。
「おいおいおい壊れる壊れる」
だが次の瞬間。
スライムたちが集まる。
べちゃ。
壁と地面の隙間に入り込む。
そして――
ぐにゅ。
支える。
ピカが、ぐいっと押す。
ミシ……ミシ……
――ぴたり。
止まった。
真っ直ぐだ。
「……え?」
全員固まる。
俺は壁を叩いた。
コンコン。
安定している。
むしろ前よりしっかりしてる。
「補強までしてる!?」
なんでだよ。
気がつけば――
夕方。
村は、見違えていた。
井戸は清水。
畑はふかふか。
家はまっすぐ。
村人たちは、呆然とそれを見ている。
「……なんだこれ」
村長がぽつりと呟く。
「半日だぞ……」
俺もそう思う。
やったの、ほぼスライムだし。
ピカウルフは犬。
「……勇者様」
村長が、ゆっくりと頭を下げた。
「ありがとう」
周りの村人たちも、次々に頭を下げる。
「助かった」
「これでやっていける……」
「子供たちに安心して水が飲ませられる……」
なんか、めちゃくちゃ感謝されてる。
俺、しゃもじ振り回しただけなんだけど。
「いや、その……」
ちょっと照れる。
「まあ、仕事だから」
カッコつけてみる。
ピカウルフがわふっと鳴いた。
スラたちが、ぷるんと揺れる。
「……調子乗るなよ俺」
その夜。
村でささやかな宴が開かれた。
パン。
スープ。
ちょっとした肉。
「うまっ……」
普通にうまい。
「勇者様、もっと食え!」
「いや十分だって!」
囲まれている。
距離が近い。
めちゃくちゃ歓迎されている。
その時。
昼間の少女が隣に座った。
「ねえ」
「ん?」
「勇者って、戦う人でしょ?」
「まあ……普通はな」
「でもお兄ちゃん、直してるよね」
ド直球である。
「……そうだな」
俺はしゃもじを見る。
「俺のは、そういう勇者らしい」
少女は、にこっと笑った。
「いいね、それ」
……悪くない。
その時。
村の外から、慌ただしい足音が聞こえた。
バタバタバタ。
「た、大変だ!!」
村の男が飛び込んでくる。
「どうした!」
村長が立ち上がる。
男は息を切らしながら叫んだ。
「街道の橋が崩れた!!」
「何!?」
「商人たちが足止めされてる! このままじゃ物資が――」
空気が一変する。
さっきまでの和やかさが消えた。
「……なるほど」
俺は立ち上がる。
しゃもじを手に取る。
ピカが立つ。
スラたちが揺れる。
「次の“整える案件”だな」
村長がこちらを見る。
「……行けるのか?」
俺は肩をすくめた。
「たぶん」
「またたぶんか……!」
でも今度は――
少しだけ、笑っていた。
こうして俺は、
村を救った勢いのまま――
インフラ整備に乗り出すことになった。




