第二十五話:空席の正体と、クセの強い新入り
「名前は――」
一瞬の間。
全員の視線が、外套の人物に突き刺さる。
その男は、ゆっくりとフードに手をかけた。
そして――外す。
現れた顔を見て。
「……普通だな」
しゃもじ持ちの勇者が、即答した。
レイグが呆れたように言う。
「第一印象をそれで片付けるな」
遊び人ユウマは、目を細める。
「いや、“普通すぎる”のが逆に怪しい」
確かに。
特徴がない。
印象に残らない。
どこにでもいそうで――どこにもいない顔。
なのに。
空気だけが、妙に重い。
その男は、静かに口を開いた。
「俺は――ゲイル」
元王子の表情が、わずかに動く。
「ゲイル……?」
どこかで聞いたような響き。
だが、記憶に引っかからない。
ゲイルは続ける。
「職業は……一応、剣士だ」
「“一応”ってなんだよ」
「状況による」
即答。
遊び人ユウマが小さく笑う。
「めんどくさそう……」
レイグが一歩前に出る。
「目的は」
ゲイルは答えず。
ほんの少しだけ視線を横に流し――
空席を見る。
「そこに座るためだ」
「理由が雑!!」
しゃもじ持ちの勇者が叫ぶ。
だが。
次の一言で、空気が変わる。
「……あの女武道家に借りがある」
静寂。
元王子の目が、鋭くなる。
「姉さんに?」
ゲイルは小さく頷く。
「昔、一度だけ助けられた」
そして。
「だから――今度は俺が返す」
遊び人ユウマがぽつりと呟く。
「もういなくなったメンバーのパーティを相手に、か?」
「だからここに来た」
レイグが短く言う。
「理屈は通っているな」
「通ってるか??」
しゃもじ持ちの勇者が即座に否定。
スライムが、ぷるんと震えた。
(なんか納得)
元王子は少しだけ考え――問う。
「……強いのか?」
一拍。
ほんの一瞬だけ。
ゲイルは間を置いてから答える。
「そこそこ」
遊び人ユウマが肩をすくめる。
「一番信用できない言葉だ」
レイグの手が、剣にかかる。
「試すか」
「構わない」
「朝からバトル始まった!!」
しゃもじ持ちの勇者の叫びが、空気に弾かれる。
――次の瞬間。
世界が、薄くなる。
レイグが踏み込む。
剣が走る。
速い。
だが。
ゲイルは、消えたように見えた。
交差。
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
そして――止まる。
沈黙。
レイグの剣は、空を切っている。
ゲイルの刃は――
いつの間にか、レイグの喉元にあった。
誰も、動けない。
レイグが、小さく息を吐く。
「……強い!なるほどな」
「え、何が!?」
しゃもじ持ちの勇者が取り残される。
ユウマが笑う。
「当たりだな」
元王子は、静かに頷く。
「……決まりだ」
「え、採用!?」
ゲイルは何も言わない。
ただ。
ゆっくりと、空いていた席に座る。
ギィ――
椅子の軋む音が、やけに大きく響いた。
スライムが跳ねる。
ぷるん!(なんか増えた)
しゃもじ持ちの勇者
「正規勇者より強くなかった?見間違いかな……」
遊び人ユウマがぼそりと言う。
「これでバランスは……いや、余計崩れたな」
レイグが短く返す。
「いつものことだ」
しゃもじ持ちの勇者はゲイルをじっと見る。
「お前さ」
「絶対なんか隠してるだろ」
ゲイルは少しだけ考えて。
あっさり言った。
「まぁな」
「認めた!!」
元王子が立ち上がる。
「行くぞ」
「北の山岳地帯――魔物の異常発生だ」
ゲイルも立ち上がる。
「ちょうどいい」
「何が」
遊び人ユウマの問いに。
ゲイルは、静かに答えた。
「借りを返すには――」
わずかな間。
「強いやつがいる方がいい」
風が、通り抜ける。
もう、空席はない。
だが。
そこに座った“何者か”の正体を、
まだ誰も知らない。
そして――
その“借り”が、どれほど重いものかも。




