第二十三話:姫の離脱と、空いた一席
朝の王城は、妙に静かだった。
いつもなら誰かが叫んでいる。
しゃもじが振られている。
スライムがどこかでぷるんしている。
だが今日は違う。
「……集まってくれ」
爆乳女武道家――いや、今は姫と呼ばれる存在が、静かに言った。
庭。
訓練場の端。
いつもの“集合場所”。
レイグが眉をひそめる。
「どうした」
しゃもじ持ちの勇者は、しゃもじを肩に担いだまま首をかしげる。
「また訓練か?」
遊び人ユウマは、すでに何かを察していた顔だった。
元王子だけが、無言で彼女を見ている。
姫は一度だけ深呼吸して――
言った。
「私、このパーティを抜ける」
一瞬。
本当に一瞬だけ、音が消えた。
しゃもじ勇者
「……え?」
レイグ
「理由は?」
姫は少しだけ視線を落とす。
「王女としての役目ができた」
「この国はまだ不安定だ。外に出てる場合じゃない」
しゃもじ勇者が口を開きかけるが、言葉が出ない。
静寂。
しゃもじ勇者が、ぽつりと言う。
「じゃあさ」
「もう一緒に飯食えないのか?」
姫は一瞬だけ目を丸くして――
吹き出した。
でも、少しだけ優しい顔になる。
「食べには来る」
「ただし王女としてだ」
レイグが小さく息を吐く。
「わかった。」
姫は一歩下がる。
そして、全員を見る。
姫
「……ありがとう」
そして――
踵を返す。
一歩。
二歩。
その背中が少しだけ遠くなる。
スライムが小さく鳴いた気がした。
ぷるん……
ユウマがぼそっと言う。
「……戦力的には痛いな」
レイグ
「それ以上に精神的だ」
しゃもじ勇者はしゃもじを見つめる。
「なんかさ」
「パーティって減るんだな」
元王子は空を見上げる。
「いや」
「増えることもある」
少し間。
ユウマが笑う。
「つまりまた誰か来るってこと?」
レイグ
「やめろ。嫌な予感しかしない」
遠くで、姫が一度だけ振り返る。
そして手を上げる。
それだけ。
言葉はない。
でも、それで十分だった。
空いた席が一つ。
けれど、それを“空席”と呼ぶにはまだ早い。
そこにはまだ、熱が残っていた。
このパーティは、まだ壊れていない。
ただ少しだけ――
形が変わっただけだった。




