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勇者としゃもじの冒険  作者: レモンティー


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第二十一話:山へ向かう王と、しゃもじの荷造り

王城の朝は、妙に静かだった。

あれだけ張りつめていた玉座の空気が嘘みたいに、今はただ「移動の準備」という現実だけが残っている。

「……本当に行くのか」

レイグが淡々と確認する。

王は短く頷く。

「行く」

その横で、しゃもじ持ちの勇者が荷物をまとめている。

「山ってさ、飯ある?」

「あると思ってるのが怖い」

遊び人ユウマが即答する。

「王が直々に移動って、だいぶ異常事態ですね」

元王子は複雑な顔で黙っている。

そして――女武道家。

彼女だけは、ずっと一点を見ていた。

「……本当に、来るんだな」

王が答える。

「当然だ」

短い言葉だったが、重かった。

女武道家は一度だけ目を伏せる。

「なら案内する」

そう言って、背を向けた。


――出発。

王、元王子、レイグ、しゃもじ持ちの勇者、遊び人ユウマ、そして女武道家。

妙な一行が王城を出る。

スライムは当然のように付いてきている。

ぷるん。

「お前はどこでもついてくるな」

しゃもじ持ちの勇者がしゃもじで軽くつつく。

ぷるん!(当然)

レイグがため息をつく。

「もう正式メンバー扱いだな」

遊び人ユウマがぼそっと言う。

「このパーティ、編成がカオスだな……」

――街道を抜ける。

――森を越える。

鎧の音もない。

剣の抜き身もない。

あるのは――気まずさと、家族問題の重さだけだった。

しゃもじ持ちの勇者がぽつりと言う。

「なあ、これさ」

「魔王城より空気重いんだけど」

レイグが即答する。

「黙れ。事実を言うな」

遊び人ユウマは少し前を歩きながら呟く。

「ボス戦前より緊張感あるの、バグだろこれ」

元王子はずっと無言だった。

しゃもじ持ちの勇者が小さくしゃもじを構える。

「なんで俺緊張してんだろうな」

レイグがため息。

「お前が一番関係ないからだ」

「なるほどな!」

納得するな。

そして――

山が見えた。

空気が変わる。

「……ここだ」

女武道家が立ち止まる。

その山は、静かだった。

人の気配は薄い。

ただ風と木と、時間だけがある。

元王子が呟く。

「……こんなところに、姉さんの母さんが?」

女武道家は答えない。

ただ、歩き出す。

「こっちだ」

王も続く。

一歩ずつ。

山道は険しい。

だが誰も止まらない。

やがて――

小さな小屋が見えた。

木造。

古いが、丁寧に手入れされている。

煙が少しだけ上がっている。

生きている証拠。

女武道家の足が止まる。

一瞬だけ、呼吸が乱れる。

「……ここだ」

元王子が一歩前に出る。

女武道家

「母さんは……」

王は何も言わず、ただ見ている。

レイグは静かに周囲を警戒する。

しゃもじ持ちの勇者は小声で言う。

「最終ステージ感あるな」

小屋の扉が、ゆっくりと開いた。

ぎい……

風が一瞬止まる。

そして――

そこに立っていたのは。

一人の女性。

ビアンカ。

静かにこちらを見る。

「……あら」

時間が止まる。

女武道家の声が、かすれる。

「……母さん」

ビアンカはゆっくり目を細める。

「戻って来たのね」

王が一歩前に出る。

「ビアンカ……」

ビアンカは王を見る。

そして――静かに言う。

「遅いわよ」

王は一瞬、言葉を失う。

だがすぐに、低く言う。

「すまなかった」

ビアンカの視線が王から外れ、ゆっくり周囲へ。

そして――少しだけ柔らかくなる。

「……変わったわね」

その一言で、空気が少しだけほどける。


女武道家は動かない。

拳を握ったまま。

ずっと、ずっと。

そしてようやく――

一歩、踏み出す。

「……母さん」

声が震える。

「ただいま」

小さな一言。

でも、確かだった。

ビアンカは一瞬目を閉じる。

そして――

「おかえり」

風が吹く。

山の静けさの中で。

長い時間が、ようやく一つにつながる。

しゃもじ持ちの勇者がぼそっと言う。

「……これ、勝ったの誰だ?」

レイグ

「誰も戦ってない」

遊び人ユウマは、少し笑う。

「でも、終わったな」

元王子は空を見上げる。

「いや……始まった」

王は静かに言う。

「これでいい」

しゃもじ勇者が小声で言う。

「これ……しゃもじ入る隙ないやつだな」

スライム

ぷるん……(よく分からないけど泣きそう)

山の小屋。

魔王よりも遠い場所で。

一つの“戦いじゃない戦い”が、終わった。

そして同時に――

まだ終わっていない何かが、静かに始まっていた。

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