第十四話:覚悟の測り方
夜。
野営。
肉処でもらった肉が、じゅうじゅうと焼けている。
「やっぱ肉だよなぁ!」
しゃもじ持ちの勇者が満面の笑み。
「……落ち着け」
レイグは火の番をしながら言う。
「うまいなこれ!」
しゃもじ勇者が豪快にかぶりつく。
「静かに食え」
レイグが低く言う。
遊び人ユウマは少し離れて座っていた。
そして火を見ていた。
(“命懸けの回数”か……)
さっきの肉処店主の言葉が、頭から離れない。
考えれば考えるほど、重い。
「あの」
遊び人ユウマはぽつりと呟く。
「覚悟ってさ、どうやって測るんだろう?」
二人が少しだけ黙る。
しゃもじ持ちの勇者が肉をひっくり返しながら言う。
「測らねえ!」
レイグ
「早いな」
しゃもじ持ちの勇者
「あるかないかだろ!」
レイグが静かに補足する。
「……近いが、違う」
遊び人ユウマ
「違うのですか」
レイグ
「覚悟は“選んだ結果”に出る」
遊び人ユウマ
「結果?」
レイグ
「逃げたか、立ったか」
火を見つめたまま言う。
レイグ
「それだけだ」
シンプルすぎる。
でも――妙に納得した。
そのとき。
ざわ。
森が揺れた。
「……来るな」
レイグが立ち上がる。
気配は一つ。
重い。
ゆっくり、だが確実に近づいてくる。
現れたのは――
巨大熊。
デカい。
分厚い。
鈍そうでいて、圧がある。
しゃもじ勇者の表情が変わる。
「うわ……これは――」
一瞬、間。
そして、はっきりと言う。
「あれはボスレベルだ」
空気が変わる。
レイグもわずかに目を細める。
「……同感だ。正面は危険だな」
遊び人ユウマはその圧を見ながら感じる。
(王道じゃ勝てない)
しゃもじ持ちの勇者がちょっとだけ真顔。
「これは普通に強いやつだぞ」
レイグは剣を抜く。
一歩前へ。
正面から受ける構え。
(王道だな)
遊び人ユウマ
「俺がやります」
そして――一歩横に出た。
「話してみる」
しゃもじ持ちの勇者
「噂の!」
レイグ
「危険だぞ」
「分かってる」
でも。
(ここでやらないと意味がない)
遊び人ユウマはさらに前に出る。
巨大熊がこちらを見る。
目が合う。
濁っているようで――ちゃんと見ている。
「なあ」
声をかける。
「ここ、通りたいだけなんだ」
沈黙。
巨大熊は唸る。
「……ナワバリ」
巨大熊は爪でひっかく動作をする。
(ダメか)
しゃもじ持ちの勇者
「……やっぱりダメか」
その瞬間。
世界が止まる。
――『選択してください』
・攻撃
・防御
・逃げる
・話す
(またか)
でも今回は違う。
(さっき話した)
(でも通じなかった)
(じゃあ――)
遊び人ユウマは選ぶ。
・逃げる
時間が動き出す。
「逃げよう。みんな走れ!!」
全力で後ろに飛ぶ。
レイグが一瞬だけ驚く。
「なっ――」
巨大熊の鋭い爪が振り下ろされる。
地面が砕ける。
「うおおお!?」
しゃもじ持ちの勇者が転がる。
「判断早ぇな!!」
遊び人ユウマ
「無理なもんは無理だ!!」
レイグがすぐに切り替える。
「後退! 距離を取る!」
三人で下がる。
だが。
巨大熊は追ってくる。
遅いが、止まらない。
しゃもじ持ちの勇者
「どうする!」
レイグ
「正面はきつい」
遊び人ユウマは周りを見る。
川の音。
すぐ近く。
(……いけるか?)
「こっちだ!」
方向を変える。
川へ。
しゃもじ持ちの勇者。
「おい、逃げるだけか!?」
遊び人ユウマ
「違う!」
走る。
足場は悪い。
でも――
後ろで、ぷるん。
「……来てたのかよ」
スライムたち。
整列してる。
しゃもじ持ちの勇者
「今それやる!?」
遊び人ユウマは叫ぶ。
「使わせてもらいます!川まで誘導します!」
レイグが即理解する。
「……沈める気か」
「たぶん浮く!」
「たぶん!?」
川に到達。
流れ、強い。
遊び人ユウマ
「ここだ!」
振り返る。
巨大熊が来る。
その瞬間。
遊び人ユウマ
「今だ!」
ぷるん!!
スライム隊列、一斉発射。
足に絡む。
膝に絡む。
滑る。
「ぐおっ!?」
バランスが崩れる。
しゃもじ持ちの勇者が突っ込む。
「押す!!」
レイグ
「無茶だろ!?」
しゃもじ持ちの勇者
「ノリだ!!」
転びかけた巨大熊の横に滑り込む。
――足を踏み外す。
「うおっ!?」
そのまま体当たり。
レイグが一閃。
「今だ!」
重心が完全に崩れる。
巨大熊――
ドボン。
川へ。
水しぶき。
流れが飲み込む。
沈む。
浮く。
流れる。
遊び人ユウマ
「……流れてった」
静寂。
三人、しばらくその場で止まる。
しゃもじ持ちの勇者が一言。
「……勝った?」
レイグが答える。
「……倒してはいない」
遊び人ユウマも言う。
「でも終わった」
三人で川を見る。
もういない。
ただ流れだけ。
しばらくして。
遊び人ユウマは肩の力を抜いた。
「倒さなくても、終わる戦いはあります。」
レイグがうなずく。
「……そうだな」
しゃもじ持ちの勇者が言う。
「しかも経験値は?」
沈黙。
三人、顔を見合わせる。
――体の中。
少しだけ。
何かが“増えた”感覚。
レイグが言う。
「……入っているな」
「え、マジで?」
遊び人ユウマは少し考える。
「命懸けではあったからな」
しゃもじ持ちの勇者が笑う。
「じゃあアリだな!」
レイグも認める。
「“倒す”だけが条件ではない、か」
風が吹く。
川の音。
遊び人ユウマは小さく呟く。
「覚悟は、測れない」
二人が見る。
「でも」
少しだけ笑う。
「選んだ結果には、出る」
レイグがうなずく。
「……ああ」
しゃもじ持ちの勇者が叫ぶ。
「じゃあ次も適当に選ぼうぜ!」
「雑すぎる」
笑いがこぼれる。
夜が深くなる。
でも。
少しだけ分かった。
この世界は――
思っていたより、自由だ。
倒すか。
話すか。
逃げるか。
混ぜるか。
あるいは――
流すか。
遊び人ユウマたちは火を囲む。
次の選択を、まだ知らないまま。




