第十話:出発と同行者
朝。
村の門の前。
空気が――少しだけ“雑”だった。
整いすぎた場所にありがちな、あの感じだ。
もう何も起きない代わりに、何か起きそうな気配だけが残っている。
「……ほんとに出るんだな」
レイグが腕を組んだまま言う。
「ああ」
振り返る。
井戸は澄み、畑は整列し、防柵は完璧に機能している。
人も、物も、流れも――全部“収まっている”。
つまり。
もう俺の出番はない。
「じゃあ行くか」
一歩、外へ踏み出す。
その瞬間。
ぴか。
「……来たな」
足元が光る。
当然の顔で並ぶのは――ピカウルフ。
“思いっきり活躍した”みたいな顔してるのが腹立つ。
「お前、いつからそんなポジションだよ」
「ぴか」
そして。
ぷるん。
「……ん?」
後ろから、やけに柔らかい音。
振り向く。
ぷるん。
ぷるん。
ぷるん。
「……増えてない?」
いた。
スライム。
十数匹。
しかも微妙に増えてる。
「なんで増えてる!?」
村人が叫ぶ。
「昨日の味噌だろ」
スライムたちは逃げない。
じりじり寄ってくる。
ついてくる気満々だ。
「魔物はペットじゃねぇぞ!!」
レイグが正論を叫んだ、その瞬間。
ぴか。
ピカウルフが一歩前へ出る。
光る。
すると――
ぷるんっ。
スライムたちが一斉に整列した。
「……は?」
横一列。
間隔、完璧。
丸みまで揃ってる。
「軍かよ」
「なんでだよ!!」
俺は冷静に分析する。
「光に反応してるな」
「生き物の挙動じゃねぇんだよそれ!!」
とりあえず歩く。
ぴか。
ピカウルフが先導するたび、道がわずかに見やすくなる。
その後ろを――
ぷるん。
ぷるん。
ぷるん。
スライム隊列。
統率、完璧。
「……怖ぇよ」
「安心しろ。味方だ」
「その安心が一番怖ぇ!!」
その時。
森の奥。
影が三つ。
「来るぞ」
レイグが剣を抜く。
野犬型モンスター。
唸り声。
低く、速い。
飛びかかる――
その瞬間。
ぷるん!!
スライム、一匹が弾丸のように跳ねた。
顔面直撃。
「ぐえっ!?」
一匹、転倒。
さらに――
ぷるんぷるん!!
連携。
足に絡む。
滑らせる。
動きを止める。
完全に“戦術”。
「……は?」
レイグ、停止。
「拘束してる!?」
「柔らかいからな」
「戦術として成立してるのがおかしい!!」
ぴか。
ピカウルフの光が走る。
敵の動きが、輪郭が、弱点が浮かび上がる。
「見える……!」
レイグ、一閃。
終わり。
静寂。
ぷるん。
スライムたちが戻ってくる。
何事もなかった顔で整列。
俺
「……優秀だろ」
レイグ
「認めたくねぇ!!」
進む。
川に出る。
流れ、速い。
「橋は……ないな」
ぴか。
ピカウルフが光る。
浅瀬が浮かび上がる。
石の配置、流れの緩み、全部見える。
「ナビまでやるのか」
慎重に進む。
その途中。
ぐらっ。
レイグの足が滑る。
「やばっ――」
ぷるん!!
スライム、即座に張り付く。
滑り止め。
「地味に神!!」
さらにもう一匹。
クッション。
衝撃吸収。
「二段構え!?」
無事、渡る。
対岸。
レイグが膝に手をつく。
「……なんだこれ」
「戦力だ」
「サポート特化が強すぎる!!」
スライムたち、満足そうに揺れる。
ピカウルフ、静かに光る。
道を示す。
俺はしゃもじを見る。
少し湿っている。
軽く振る。
その瞬間。
ぴか。
ぷるん。
光と振動が重なる。
空気が――整う。
風が流れる。
音が通る。
遠くの気配が、くっきり届く。
「……これ」
レイグが顔を上げる。
「索敵も兼ねてるのか?」
「たぶんな」
「万能やめろ!!」
でも。
誰も止めない。
もう分かってる。
これは――
使える。
俺たちは並ぶ。
前にピカウルフ。
横に俺。
後ろにレイグ。
そしてその後ろに――
ぷるん隊列。
完全編成。
「……変なパーティだな」
レイグが笑う。
「今さらだろ」
「まあな」
ぴか。
光が道を作る。
ぷるん。
柔らかい足音が続く。
整っていない世界。
でも――
進む準備は、できている。
「行くか」
「ああ」
俺たちは歩き出す。
村の外へ。
完全に。
――整っていない場所へ。




