第7話 外出②
映画は、原作小説の良さをきちんと踏襲していたが、映像にすると残酷なシーンも際立った。
途中、目線だけ動かして、隣の四方の美しさで気持ちを中和しようと試みたけれど、角度的にも暗さ的にも叶わず、それ以上やると不審者なのでやめた。
エンドロール後に劇場のロビーに戻ると、感想もそこそこに、この後の予定についてお互い探るような空気が生まれた。
「門限まで時間あるし、どっかでお茶しよっか?」
國弘も快諾し、二人で近くの店をスマホで探す。
が、この近くに丁度良い場所はなかった。
國弘は思い切って提案することにした。
「よかったら桂野に行きませんか? あそこならカフェとか、ファミレスもあるし……」
乗ってきた電車で、学校方面に数駅戻った所にある桂野という駅は、ここら辺とは違い、もっと栄えている。
大きな駅ビルがあり、まわりの飲食店も充実していて、城青生が「外で遊ぶ」と言うときは、ほとんどその桂野駅周辺だった。
四方はしばらく「うーん、そうだねぇ……」と考えていたが、やがて「そうしよっか」と微笑んだ。
駅に向かう途中で、自分が四方に、ごく普通に接していられることに気づく。
空気が合う、というのだろうか。
緊張は消え、純粋に一緒にいる時間が楽しい、と思えている。
國弘は、四方もそうだったら良いなと思った。
桂野の改札を出ると、見慣れた駅前広場があり、休日の夕方ともあって人で賑わっていた。
そこには、城青生と思われるグループもちらほら目についた。
私服だったが、なんとなく同じ匂いがして、城青生ということがわかってしまう。
それは彼らも同じようで、何人かの視線を國弘も感じた。
國弘は広場沿いにある、見慣れた赤い看板を見つけて指差した。
「あそこのファミレスとかどうですか?」
だが四方はそちらを一切見ようともせず、「それよりあっちにしない?」と別の方向を指差した。
四方が示した場所は、大きな交差点を渡った先にある細いビルの二階で、窓ガラスに大きく『喫茶 ノクターン』と装飾的に描かれていた。
格調高い、いかにも大人の喫茶店という感じだ。
國弘はこの桂野駅に何度も来たことがあるが、その店に入るという選択肢を持ったことがなく、なんならその存在にすら気づいていなかった。
國弘があっけに取られているのをよそに、四方はすいすいと交差点を渡っていってしまう。その背中を、慌てて小走りで追いかけた。
急な階段を登って店内に入ってみると、確かに格調高さがあったが、すこしレトロな雰囲気はいくらか親しみやすさも感じた。
高校生の自分がいても、追い払われるほどの場違い、というわけでもなさそうだ。
客は少なく、隅の席では大学生っぽい男性が勉強をしていて、別の席ではワケアリな雰囲気の男女がいる。かと思ったら、奥では五十代くらいの立派な身なりのマダム四人が、優雅に談笑していた。
黒い制服に身を包んだ男性店員に案内され、壁際の四人席に向かい合わせで腰掛けた。
革表紙の薄いメニュー表を開くと、並んだ値段に思わずギョッとした。
(コーヒー1杯、900円!?)
しかもそれは飲み物の中では安い方で、抹茶ラテのような凝ったものは千円を超える。
國弘は自分の家が裕福であるという自覚はあるが、小遣いは正直多くない。
むしろ普通の家より厳しいくらいだ。
今財布にいくら入っているか、思考を巡らせていると、四方が察したように言った。
「ちょっと高いけど、ゆっくり話すにはファミレスよりいいと思って。気兼ねなく長居できるし、絶対座れるし」
確かに、駅の近くのファミレスは長時間席を占拠する者も多く、休日はすぐに座れないことも多い。ここであればいつでも席があるわけだ。
「えっと、先輩は何頼むんですか?」
「僕は、紅茶とチーズケーキかな」
思ったより可愛らしいセレクトに四方を見ると、「ちょっと甘いもの食べたくて」と両肩があがった。
「國弘くんも、何か好きなの頼みなよ。ここに誘ったのは僕だし、ご馳走するから」
「いや、そういうわけには……」
確かに四方は自分より先輩だが、立場は同じ高校生だ。一方的に負担を強いるわけにいかない。
「気にすることないのに」
確か、財布にはあと三千円は残っていたはず。
ケーキセット――普通の紅茶を飲み物に選べば、合計1600円。
同じものを頼んでも払える、大丈夫。
「いやいや、本当に自分で出します。その代わり……」
四方は綺麗な瞳を國弘に向けながら、「ん?」と首を傾げた。
「……また、ちょくちょく誘ってください」
四方は一瞬驚いた表情を見せてから、嬉しそうに笑った。
「もちろんだよ」




