第33話 寮祭⑥
「ありがとうございました!」
最後のゲストが見送られ、ついに寮祭が幕を閉じた。
その余韻に浸る間もなく、後片付けが始まる。
衣装部は朝以上に、戦場のような忙しさになった。
まずは45リットルのゴミ袋をキャスト一人ずつに渡して、衣装一式を放り込んでもらい、そこから衣装部メンバーが一つ一つ確認して、元の箱へ梱包していく。
今日中には終わらないのは承知の上で、残った分は明日以降へ持ち越しだ。
ほどほど時間が経ったところで、打ち上げを兼ねた夕食会が始まるため、食堂へ向かった。
メニューは、職員のはからいで打ち上げ特別仕様だった。
ハンバーガーとポテト、数種類のジュースが入った大きなペットボトルが各テーブルに並ぶ。さらに小分けのお菓子まであった。
実行委員は、部門ごとのテーブルに固まり、それ以外は自由だった。
全員が集まると、四方と木曽が前に立ち、それぞれ短い挨拶と感謝を述べた。
そして、
「『オリジンズ・ラブ in 城青』成功を祝して、乾杯!」
四方の掛け声と共に、寮生が一斉に紙コップを掲げた。
「いやでも、衣装なくなったときはほんと終わったと思いましたよ〜」
衣装班のテーブルで、二年生の一人が笑いながら言う。
「あれマジで焦ったよな」と周りが口々に返し、笑いが広がった。
それぞれが、今日のハプニングや裏話を思い出しながら、和やかに盛り上がっていた。
途中で数人が、「あ、四方先輩だ」と姿勢を正した。
どうやら四方は、木曽と手分けして各テーブルを回っているらしい。
國弘はどきりとして、空いている席を確認した。幸い、空席は自分の席から遠い。多分四方はあそこに座るだろう。
予想通り四方は、その空いていた椅子に腰掛け、紙コップを軽く持ち上げると。
「衣装部、本当にお疲れ様! あの世界観が形になったのは、皆の力があったからだよ」
とねぎらいの声をかけた。
「てか、悔しいけど四方先輩が一番キマってましたよ!」
「オープニングのとき、女子から悲鳴あがってましたもん」
衣装部のメンバーが口々に言うと、周りの二年も笑いながら頷く。
四方も「ちょっと恥ずかしかったんだけどね」と苦笑いして肩をすくめた。
そのあと、ふっと言葉が途切れた。
誰が次に話すかを探るような、短い沈黙。
「俺ずっと気になってたんすけど……」
それを破ったのは、二年の福田という寮生だった。
「四方先輩って、男が好きなんですよね?」
瞬間、テーブルの和やかな雰囲気が一気に凍りつく。さっきまでの笑いが、嘘みたいに止まった。
――今、それ訊くこと?
多分、テーブルにいた誰もがそう思った。
「まあ、そうなるのかな?」
四方は相変わらず、平然とした様子で認めた。
「じゃあ、今の寮生とかとも、そういう……エロいことしたいって思うんですか?」
「福田アウトー」
隣に座っていた二年生が慌てて口を挟むが、その声もどこか弱い。
「何? 興味あるの?」
四方は真顔で、福田にそっと身を乗り出した。
福田は四方の顔を見て、慌てて両手を激しく振る。
「ないないない、ないです! やばい、目がマジなんすよ、こえーっす!」
福田の大げさな反応にも、周囲は笑っていいのかわからない、という困惑が滲んだ。
四方はふっと身を引いて、冗談めかして満面の笑みを浮かべた。
「まー、もうちょっと大人になってから、またおいで?」
「え、俺、振られたんですか? それはそれで、なんかショック……」
「なんでだよ!」
誰かが鋭くツッコみ、ようやくテーブルに笑いが起きた。
――大人になってから
國弘は、一人頭の中で、四方が言った言葉を反芻した。
自分は四方の言っている大人の基準に当てはまるだろうか。多分、違うと思う。
「じゃあ、次のテーブル行くね」
四方は紙コップを持って立ち上がり、さらりと微笑んで去っていった。
四方の姿が遠ざかると同時に、わずかな安堵の空気が広がった。
「福田、お前勇気ありすぎだろ。マジ焦った」
隣の寮生がため息まじりに言う。
「いや、実際どうなのかなって思うじゃん? 四方先輩に変な目で見られたって話、たまに聞くし……」
「ぶっちゃけ、四方先輩ならアリだよな」
「きっも」
國弘がさりげなく佐伯の方を確認すると、彼はうんざりした顔で、一人黙々とポテトをつまんでいた。
言葉が飛び交うなか、誰かがぽつりと言った。
「……でも、普通に話すといい人だし、もうちょい喋っとけばよかったな」




