第3話 寮会③
「寮会の定例会議を始めます」
四方が、寮会メンバー全員が席についたことを確認し、司会者として全員に向かって言った。その後は、共有スペースの使い方の確認、苦情や、掲示物の指示など、連絡事項を共有していく。
一通り話し終えて、メンバーから他に連絡事項があるか確認する。誰も手を挙げるメンバーはいなかった。
特にイベントごとなどがない時期、寮会のやることはとても少ない。
それでいて定例会は毎週あるので、ほんの五分、十分で終わってしまう時もザラだ。
左隣に座る、國弘と同じ一年生代表の河野も、退屈そうにシャーペンを弄んでいる。
四方寮長が一呼吸おいて、「ここから今日の本題なんだけど――」と仕切り直す。
「今日から、寮祭の企画について、検討していきたいと思う」
「きたっ」と、向かいの二年生三人が座る席の方から、小さく声があがったのが耳に入ってきて、國弘は、なんだろう、と首を捻った。
「一年生は、今回が初めてだから、念のため説明すると……」
四方は國弘の気持ちを察するようにそう言いながら席を立ち、ホワイトボードの前まで移動した。
それからパキッ、とマジックの蓋をとる音が気持ちよく響き、ホワイトボードの上の方に大きく『寮祭』と書いた。
「寮祭は、他の学校で言うところの、文化祭、っていう扱いでいいと思う。寮会が主催する、一年間で一番大きなイベントなんだ」
四方は続けて、「とはいっても――」と、息を漏らした。
「条件はいろいろと厳しい」
説明しながら、ホワイトボードに箇条書きでマジックを走らせていく。
「開催期間はたった『一日』、『完全招待制』で、『予算は寮全体で十五万円以下』。『現金、金券などの取扱いは禁止』」
聞いていくうちに、國弘の描く文化祭像からどんどん離れていく。
「うちは受験に特化した進学校ということもあって、学校側はできるだけ規模を抑えたいらしい。イベント事に励むより勉強しろ、っていうのが本音かな」
なんというか、実に城青らしい。
國弘はホワイトボードに並ぶ、“厳しい条件”達を改めて眺める。
寮会が主催といっても、この条件を考えれば規模的にも小さく、そこまで気負うイベントではない、ということなのかもしれない。
「ちなみに去年の企画は――ホストクラブだった」
國弘は一瞬、おおよそ進学校にふさわしくないワードに耳を疑った。
一方で、二年生の三人はなにやら思い出を噛みしめるかのように、何度も強く頷いている。
「すごく盛り上がったんだ。安いグラスで、形だけのシャンパンタワーを作ったり、シャンパンコールを練習したり。シャンパンと言っても炭酸水だったけどね」
普段抑圧された生徒達が、悪ノリして楽しんでいる様子が目に浮かぶ。楽しそうだなと思う一方、なんだか自分たちが主催すると思うと想像がつかなかった。
「今年も去年みたいに、皆で盛り上げられるように頑張ろう」
四方が皆に向かってそう締めくくると、二年生の表情がいっそう輝いたのがわかった。
彼らは去年の寮祭をその目で見ている。よほど楽しいものだったのだろう。
「今後の流れなんだけど、寮生たちの意見も知りたいから、アンケートを実施しようと思う。アンケート用紙を、書記の日高に用意してもらっているから、一年生と二年生はこの後取りに来て。今日明日には配布して、来週の定例会議までに回収してほしい」
それを聞いて、一年生と二年生達が頷いた時だった。
「アンケートとか、マジで時間の無駄だろ」
急に機嫌の悪そうな低い声がして、皆の視線が声の主に集まった。
今まで議長席の隣で押し黙っていた三年の副寮長、木曽だった。
「結局、去年もパッとしない案ばっかりで、別の案を寮会で用意しただろ。結果的にそれが成功だったわけだけど。ホストクラブなんて、アンケートなんかじゃ、ぜってー出てこねぇ案だった」
さっきまでの高揚した空気が一転して、急に張り詰める。一人の不機嫌は、あっという間に会議室を支配した。
「それでも、僕は皆の意見を知るべきだと思う」
四方が淡々とした口調でそう反論すると、木曽が、フンっと鼻を鳴らした。
「寮生全員、去年以上の盛り上がりを期待してる。そのために、四方。全部お前にかかってんの、忘れるなよ。それこそ、『伝説の寮長』になれるように、なぁ?」
木曽が挑発的な笑みを浮かべて四方を見た。
「そうだね」
四方はそう呟いただけだったが、瞳は今まで見たことのないほど冷たく、國弘は自分に向けられたわけではないその視線にゾクリとした。




