第29話 寮祭②
「つ、疲れたー」
國弘は、部屋の脇に置かれた長机の椅子に腰を下ろし、項垂れた。
キャストは、なんとか全員をホールに送り出すことができた。
この後の國弘の仕事は、一応一年生として身なりを整え、必要があればヘルプで現場に入れるよう待機することだ。
だが衣装部としての本格的な仕事――衣装の回収と返却準備は夕方まで始まらない。
なくなった衣装は、見つかった。
ネクタイは梱包材をまとめた箱に紛れ込んでおり、衣装一式は倉庫代わりに使っている部屋の片隅で、他の段ボールに埋もれていた。未開封のまま見落とされていたのは、管理リストに記載漏れがあったからだった。
リストを担当していたのは二年生の誰かだが、佐伯は犯人探しをしなかった。見つかった以上、それ以上追及する意味はない――そういう判断なのだろう。
「お疲れさまでーす」
衣装部で別室のヘアメイクを担当していた日野という生徒が、その手伝いをしていた衣装部の二人とともに部屋に入って来た。
彼らは適当に、入口近くの長机の椅子に腰掛けた。
日野は寮祭の実行委員のメンバーではなかったが、普段から奇抜な髪型や寮内で許されるギリギリのファッションは目立っていて、そのセンスを見込まれて、衣装部が直々に当日のヘアメイク担当として抜擢したのだった。
「トウジョ、人気すぎて抽選になってたらしいですよ」
日野がそう佐伯に声を掛けると、佐伯は、心底ホッとしたような表情をした。
「去年の前評判もあるし、結構話題になってたっぽいからな。ほんと、良かったよ」
「俺達もそろそろ着替えていいっすか?」
衣装部の一人が、また佐伯に尋ねた。
「ああ。でも日野は着替える前に、國弘のヘアメイク頼めるか」
佐伯がそう言うと、皆の視線が一斉に國弘へ向く。
國弘の思考が一瞬止まった。
(――キャスト? 俺が?)
初耳だった。
一年生でキャストは基本的にないことになっていたから、戸惑うのは当然だ。
「コイツ一年ですよね? ヘルプですか?」
日野が確認した。
「いや、キャスト。俺のシフト二個入ってるんだけど、疲れてるから一つこいつに出てもらおうと思って」
「いやでも……」
國弘自身からも、そんな躊躇いの言葉が漏れていた。
一年生の自分がだなんて、恐れ多い。
「木曽と四方にはもう話通してあるから」
「ま、そういうことなら」
日野はそれを聞くと、國弘のもとにやってきた。
「あ、でも衣装どうするんですか?」
「こいつ自分の分レンタルしてるから」
「うわ、一年のくせにちゃっかりしてんなー」
日野はさっきの騒動の時、この部屋にいなかった。だから國弘が念のため予備を用意していたことまでは知らないのだろう。ひどく驚いたようだった。
「いや、それは保険で――」
「悪いけど、トウジョ枠ではない。期待してたらすまんな」
佐伯は訂正を許さずに言う。
「期待してないです!」
「はいはい。じゃあやりますよー」
日野に、頭をワッシャワッシャとかき回される。
「はい、手出して。これファンデね、鏡見て、頬を中心に適当に塗って、伸ばして」
メンズメイク、というのだろうか。
あまりこういうことをしたことがなくて、國弘はぎこちなく、言われた通り頬から伸ばしていく。鏡に映る自分の顔の肌色が明るくなって、変じゃないか不安になってくる。
「國弘」
呼ばれて顔を向けると、佐伯はニヤリとしてこちらを見ていた。
「お前は最初からこの企画に関わってた。せっかく衣装あるんだし、その目で直接見てこいよ」




