第26話 準備②
数日後、寮祭実行委員の全体顔合わせと、係分けが行われた。
実行委員会は、装飾部・広報部・マネジメント部・衣装部など、いくつかの部門に分かれて活動する。
各部門のリーダーは、ほとんどが寮会のメンバーで、あらかじめ決められていた。
リーダー以外については、寮会で振り分けてもよかったが、個人の希望をとる、という方針になった。
もっとも、定員を超えた部門は、抽選だ。
佐伯は寮会メンバーではなかったが、三年生であり、かつ去年の寮祭でも中心的に動いていた経験者として、衣装部のリーダーを任された。
そしてその弟である國弘も、自動的に衣装部へ配属された。
ひとまず各部門のリーダーごとに散らばり、希望者は各部門のリーダーのもとに集合することになった。
國弘は佐伯の近くで、「衣装部」とマジックペンで書かれた紙を掲げる。
けれど、装飾部やマネジメント部の前には人だかりができていくのに、衣装部の前だけは誰もいない。
最初こそ興味本位で近づいてくれる生徒もいたが、仕事がほぼレンタル品の管理で、クリエイティブ要素がないとわかると、「他見てきます」と言われてしまう。
そうして、人が寄りつかない部門、という空気ができてしまうと、なんとなく誰からもスルーされてしまう。
そんな中で、こちらに向かってくる影があって、おや、と思ったら、木曽だった。
もちろん衣装部希望者ではない。
彼は副寮長として、全体のまとめ役の仕事がある。
「佐伯、お前こいつの兄貴なんだろ?」
木曽は、國弘を一瞥することもなく、佐伯にだけ向けて言った。
「まあな」
佐伯は鬱陶しそうに返事をした。
「どういう風の吹き回しだよ? なんで一年? 二年でお前の弟になりたいやついくらでもいたろ。佐々木とか必死だったじゃん」
「あー、俺馬鹿嫌いだから」
何気なしに発されたそれを聞いて、心がざらりとした。
佐伯だって、当たり前に人を評価している。
でも、普段は表に出てこないそれを垣間見てしまうと、自分も天秤に載せられているようで不安になった。
少なくとも、自分は今のところ馬鹿ではないらしい。でもこれからは?
「こいつは違うのか?」
木曽が、そこで初めて國弘を見て、顎で示した。
「知らん」
その雑な返答に、木曽は肩をすくめた。
「まあお前が手伝ってくれるなら、俺も心強いわ。しっかりやれよ」
そう言い残して、去っていく。
國弘は、木曽が十分離れたのを確認して佐伯に話しかけた。
「木曽先輩って、佐伯先輩には普通に接するんですね」
「なんのことだ?」
「木曽先輩、四方先輩には当たりが強いって言ったじゃないですか。てっきり、佐伯先輩にもそんな感じなのかと思って」
「俺は色々と無関係だから、当たり強くされる理由がない」
「じゃあ佐伯先輩は、四方先輩と木曽先輩の間に何があったか、知ってるんですね?」
長らく抱えてきた疑問の答えが、今わかるかもしれない。そんな期待がかすめた。
けれど佐伯は少しだけ考えてから、
「だいたい予想は付くけど、詳しくは知らん」
とだけ言って、どこかに行ってしまった。
(その予想とやらを教えてくれよ)
そんな気持ちで見つめる國弘の視線の先で、佐伯は抽選で漏れただろう生徒何人かに声をかけていた。
しばらくして、五人の生徒を引き連れて戻ってきた。
最終的に、衣装部は七人になった。
國弘と佐伯を除けば、全員が二年生だった。
抽選漏れの寄せ集めで構成されたメンバーの顔には、どこかやる気のなさが滲んでいる。
佐伯はそれには構わず、リーダーとして軽く自己紹介してから、仕事の内容を説明し始めた。
「衣装部の役割は、簡単に言えば、キャスト全員分のスーツを用意すること。
そのために、レンタル会社のリサーチ、採寸、キャストの保護者へのレンタル依頼、受け取りと返却、なんかが仕事になってくる。
要するにガッツリ裏方。正直、派手さはない」
沈黙するメンバーを見回して、佐伯が続けた。
「でも俺は、衣装部が各部門の中で一番重要だと思ってる。
装飾もマネジメントも、どうやったって学生のイベントの範囲を出ない。
けど衣装だけは本物だ。実際キャストが着て動いているのを見たら、俺達が寮祭を盛り上げたんだ、って実感すると思う」
その言葉に、ぼんやりしていた空気が引き締まっていく。
「リスクもある。失敗すれば弁償だってあり得る。だから――ちゃんと責任を持ってやっていこう。やりがいは絶対あるし、後悔はさせない」
佐伯の声には、迷いがなかった。
熱意も感じるのに、どこか冷静で、地に足がついていて安心感がある。
これが、リーダというものなのか、と、國弘は素直にそう思った。
企画も考えられるし、やる気もあって、リーダーもできる。
四方や木曽と確執があったわけでもない。
じゃあなんで、佐伯は寮会を離れたのか――疑問は深まるばかりだった。




