第25話 準備①
翌週の夜、全寮生に向けた寮祭のプレゼンが行われた。
寮の中で一番広い集会室に、私服姿の寮生たちが集まり、床に腰を下ろしていく。
明かりを消し、前方のスクリーンには、例のタイトルが映し出される。
『オリジンズ・ラブ in 城青』
前に立つ四方が、落ち着いた声で企画の概要を説明していく。
説明が進むにつれ、ざわめきが広がり、笑い声や驚きの声が交じり合っていった。
確かな手応えだった。
終わるころには、集会室全体が熱気に包まれていた。
一通り四方のプレゼンが終わると、実行委員の募集に移った。
寮会メンバーだけでは到底まわらない規模になる寮祭は、寮祭実行委員として手伝ってくれるメンバーを募る。
部屋の後方に設けられた長机の前で、何人かの寮会メンバーとともに、國弘も希望者リストを手に持って待機した。
思っていた以上に多くの生徒が残り、列を作って名前を書いていく。
空欄だった表が、みるみる埋まっていった。
リストへの記入が一通り落ち着いたところで、近づいてくる影があった。
「企画、なんとかなりそうだな」
佐伯だった。
「その、お陰様で」
佐伯はおもむろに國弘からバインダーを奪い取り、自分の名前を書き始める。
「佐伯先輩、手伝ってくれるんですか?」
「兄貴を引き受けたからには、一応最後まで見守ろうと思って」
「……兄っていう自覚、あったんですか」
ギロリと睨まれ、國弘は顔をしかめた。
佐伯のこういった雰囲気にも、少しだけ慣れてきている自分がいる。
名前を書き終えて立ち去ろうとした佐伯が、ふと振り返った。
「そういえば条件……」
その言葉で、すぐに思い出す。
条件は二つ。
一つは、國弘が佐伯の弟になること。
そしてもう一つは、四方に近づかないこと。
「――忘れるなよ」
低く、重みのある声だった。
わざわざ念押しするということは、二つ目の方のことを言っているのだろう。
そんなに、自分の弟が四方と噂されるのが嫌なのか。
(それとも、俺のこと好きになっちゃった……とか?)
ありえない、と思う。
条件が出されたのは、寮祭の企画をお願いした時だ。
それまでまともに話したこともなかったのに、あの時点で自分のことを好きだったなんて、不自然だ。
「……言われるまでもないですけど」
実際、最近四方とは必要最低限しか関わっていない。
特に意識しているわけではないが、四方は寮祭で忙しくなってしまったし、國弘から近づこうとしなければ、元からそんなものだ。
「なら、いいけど」
佐伯はそれだけ言って、また歩き出した。
國弘は、遠のいていく背中を、しばらく見つめていた。




