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第23話 企画①

 木曜日の放課後。


 図書館二階の個室の並ぶ通路は、以前来た時よりも部屋が埋まっているらしく、あちこちから話し声が漏れていた。


 一つ一つ、扉のガラスの透明部分から中を覗いていく。


 その中の一つに行き当たり、思わずぎょっとして息を止めた。


 四方が、一人で座っていた。


 彼は椅子に腰かけ、前に見たように、カバーのかかった文庫本を読んでいる。

 佐伯はまだ来ていないようだった。


 つまり、このまま入れば――二人きりだ。

 これは、佐伯の禁じた、四方に近づく、ということになるのだろうか。

 というか佐伯のことを差し置いても、今二人きりになることは躊躇してしまう。


 佐伯のことを待っていようかとも思ったが、四方がガラス越しに自分の存在に気づいていたら、それはそれで気まずい。


 数秒考えた後、國弘は思い切って入ることにした。


「……お疲れ様です」


 四方も顔を上げて、「お疲れ様」と返してくれた。その声に、ほんのわずかに張りつめた気配があった。


 とりあえず斜め向かいに腰掛け、鞄からノートやペンケースを取り出して机に置いた。


 密室に二人きり。


 しばらくどちらも、喋ろうとしなかった。

 以前のような、軽い雑談で間をもたせる心の余裕が、國弘にはない。


 (佐伯先輩まだかよ……)


 いっそ、このまま沈黙でもいいのかもしれない。

 そう思いかけたときだった。


「この間のことだけど……」


 反射的に、國弘の肩がびくりと跳ねた。

 戸惑いのまま、彼の顔を見る。

 あのことに関しては、一切触れないでもらえないか、とすら思っていたのに。


 しかし、四方から向けられた視線は真剣だった。


「悪いことをしたと、思ってる。もう、あんなことは絶対にしない。本当に、ごめん」


 いつになく緊張しているような声だった。


「あ……いえ、そんな……」


 そう返したけれど、言葉は形にならなかった。

 あの夜の記憶がよみがえって、頭の奥がひりつく。


 でも同時に、真摯に謝っている様子が胸を打った。


「俺は……本当に大丈夫です。気にしてませんから」


 國弘はなるべくしっかりとした口調を心がけて言った。


 そういえば図書館の個室で、前に同じような会話をした気がする。


 ――嘘でしょ。


 その時は、そんな風に返された。

 そして今も、『気にしていない』など嘘だということは、四方にだってわかるはずだ。

 けれど彼は、少しばつの悪そうな、それでもほっとしたような笑みを浮かべて言った。


「ありがとう」

 

 その一言で、この先、あの出来事は無かったこととして、世界は進んでいくのだ、ということが決まった気がした。


 それでいい。そう思う。


 あの夜から、四方との関係を、以前の単なる先輩と後輩には戻すことはできない気はしているが、それも、もう今更だった。


 扉をノックする音がして、こちらの返答を待たずに、扉が開いた。


「悪い、待たせた」


 佐伯が、部屋に入るなり机にリュックを置き、手に持っていたプリントを四方と國弘へ一枚ずつ渡した。


「企画、考えてきた」


 その口調に迷いはない。


 パソコンでタイピングされた、整った文字。

 國弘は、その紙の上部に大きく打たれた企画名を見て、思わず読み上げてしまった。


「おりじんず……らぶ……?」

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