第四話 さすらいのヒーロー
「よし、俺は手前のビルに行く。お前はもう一つ奥のビルを頼んだ」
ツバメの指示に、モリオカは眉間にしわを寄せる。
「二人で一緒に行かないのか……」
と、弱音まで吐く始末である。
「行くわけないだろ。学生ヒーロー(注1)じゃあるまいし。」
ツバメは当然のようにツッコんだが……
「学生ヒーローは避難誘導が主だ!突撃なんてマネはしねえよっ!」
モリオカはツバメの倍くらいの声量で言い返した。
「政府お抱えのヒーローはお堅いなぁ……」
「うるさいなぁ!!奥のビルな、わかったよ!!」
モリオカはそう叫びながら、手早くフォレスフォンを起動して変身を始めた。
「纏着!!」
アーマーを身にまといつつ、ネイチャーことモリオカは足早に現場へ向かってしまった。
「落ち着きのないやつめ……」
ツバメは瞬く間に粒になっていくネイチャーを眺めつつ、懐にしまってある『アトライセンス』に手をかける。
アトライセンス。それは、ツバメがヒーローに変身する際に使用する、地図を模したカード型ライセンスである。
ツバメはトランプを投げる要領でそれを正面に投げ、左腕を前へ突き出す。
やがて、ライセンスはブーメランの如くきれいな弧を描きながらツバメの左腕に装着する『アトラブレス』に装填された。
『ATLAS READY?』
ブレスが発するネイティブ且つハイテンションな音声とともに、ツバメの正面に空中ディスプレイが浮かび上がる。
そこに映し出されていたのは、東京都の地図。
ツバメはその地図が示す渋谷区を軽くタッチした。
「纏着」
途端、空中ディスプレイがアーマーに変形し、ツバメの身体を包んでゆく……
そして、まばゆい発光とともに姿を現したのは、さすらいのヒーロー『アトラス』だった。
燕を模したデザインのアーマーと、取り残された古いマントのコントラストが映えている。
「同時変身……したかったな」
アトラスはそう言い残すと、マントを翻しつつ、屋上の床が落ちるほどの力で地を蹴ってビルへ飛んで行った。
誰もいなくなったかと思われた屋上。
しかし、そこには黒いパーカー姿で額にゴーグルをつけた青年が立っていた。
青年は呟く。
「変身系ヒーローが二人も上陸ねぇ……」
彼の腰には革のベルトに雑にくくられたロープやナイフ、さらにポケットには拳銃。
「加勢、してくれんのかな。」
青年の独り言にこたえるように、静かに吹く夜風が彼のフードを揺らす。
「まぁ、どっちでもいいが」
言うと、彼はフードを深くかぶり、喧騒の中に消えていった。
〈注意〉
1.学生ヒーロー・・・ヒーローを育成する専門学校に所属する学生らの総称。実習として実際に緊急時の避難誘導や地域復興を手伝っている。




