第三話 モリオカとツバメ
背中越しに、硬く冷たい感触。
モリオカは、寝心地の悪さから目を覚ました。
場所は、倉庫のような狭い一室。
しかし、窓が設置されており、目まぐるしい車や建物の照明が覗ける。
「よぉ、起きたか。」
聞きなれない声に、モリオカの身体は警戒態勢に突入する。
「おいおい、敵じゃないから落ち着けって。」
両掌を突き出して、『まぁまぁ』と言わんばかりの仕草をとっているのは、旅人のツバメだった。
「荒野に倒れていたお前を、俺が運んで治療したんだ。」
「治療……?」
モリオカは、負傷していた部分を軽く手でなぞる。
「本当だ……」
「……信じてくれるか?」
ツバメは得意げな顔でそう言うが、モリオカは半信半疑といった表情だ。
「目的はなんだ」
モリオカの問いかけに、ツバメが答える。
「道中で轟音を聞きつけたのでな。これでも俺はヒーローなんだ。」
言って、ツバメが腕にはめたブレスレットを軽くなでる。
「その身なりでヒーローだと?冒険者(注1)や旅人(注2)の方が似合っていると思うが。」
「あぁ、旅人さ。旅人であり、ヒーローでもある。」
モリオカがため息をつく。
「めちゃくちゃだ……」
外からクラクションの音が聞こえる。
二人の視線は、自然と窓の方へ向かった。
「外が騒がしいようだが、ここはどこなんだ?」
ツバメが、少し考える仕草をしてから答えた。
「確か……日本の渋谷、とか言ったか。」
「ここ、渋谷だったのか!?」
渋谷。それは、世界で最も治安の悪い都市だ。
日本はかつて、第一次英雄時代を担ったヒーローの多くに本拠地を置かれていたため、その分敵対組織の発生率も高かった。
その影響あってか、日本の中でも特に渋谷は、最強クラスの組織が、善悪共に存在しているのだ。
そんな渋谷に連れてこられてしまったモリオカは、焦燥を隠すことができなかった。
「こんなところにいて大丈夫なのか!?早く撤退しないと、ギャングとかが――」
そう言うモリオカの心を煽るように、辺りに爆発音が響いた。
「ほら見ろ!噂のギャングのご登場だっ!!急いで逃げるぞ」
「お前、ほんとに日本政府お抱えのヒーローかよ……ほら、出動だ。」
「冗談じゃない!俺の任務はアースの討伐だし、出身も日本ではないんだ!!」
ハッキリ言ったモリオカだったが、響き渡る轟音と人々の悲鳴には、耳をふさぐことも憚られたのであった。
こもっていたビルの屋上に上って状況を確認した二人は思わず息をのんだ。
あちこちで爆発のような現象が見られ、交通網も混乱し、人々は逃げまどっている。
まるで大災害が起こった後の様だった。
ツバメが呟いた。
「こんなん、ギャングのやんちゃというより無差別テロの域じゃねえか……」
しかし、戦況を確認している二人は、ひとつ見落としていた。
――人知れず渋谷を駆け回る、一人の男の存在を……
〈注意〉
1.冒険者・・・ライトノベルやRPGのカルチャーに影響されて始まった、悪人や凶暴な動物を狩る職業。
2.旅人・・・その名の通り旅を生業とするもの。道中で出会った人のお手伝いで路銀を稼いで世界をめぐる人々の総称。冒険者も旅人のカテゴリーに分類される。




