第九話 渋谷のオチバ
窮地を乗り越えたネイチャーは、負傷者を背負いながら無線の向こう側にいる相棒へ声を投げた。
「謎の声の主の正体が気になる。この人たちの安全も考慮して、一度避難所へ行こうと思うが異論はあるか?」
『賛成だ。気配感知のセンサーにも引っかからなかった。何か危ない人物の可能性もあるし、迎え撃つという意味でも避難所へ向かいたい』
「了解した。『フォレストバインド』!」
蔦で作った籠に負傷者を集め、ネイチャーは避難所へと向かった――
避難所へ到着したネイチャーは、先に着いて手招きをしていたアトラスのもとへ向かった。
「よう、緑仮面」
アトラスは、近づいてきたネイチャーを一瞥するとそう言い放った。
「おかしなあだ名をつけるなっ!……というか、強敵がでたそうじゃないか。大丈夫だったのか?」
「なぜお前がそれを……?」
「どこからともなく聞こえた声が言っていたんだ……声の正体を突き止めるためにここに来たんだが」
二人が辺りを見回してみるが、それらしい姿は見当たらない。
その時だった。
ひらりと、一枚の落ち葉がネイチャーの目前に舞い降りた。
「それは、僕のことかな」
「……!!」
つい先ほどにも聞いた覚えがある中性的な声が避難所へ轟いた。
ネイチャーとアトラスが慌てて周囲を見渡すと、そこには黒いパーカー姿で額にゴーグルをつけた青年が立っていた。
「やっぱり、あの時のっ!」
「君が、謎の声の主?」
そんなアトラスとネイチャーの問いかけに、彼は被っていたパーカーのフードを外しながら答えた。
「その通り。僕の名前はオチバ。よろしくね!」
オチバと名乗る青年は、腰に巻いた革のベルトへ、ナイフやロープを無造作に突っ込んでいるところ以外は普通の青年だった。
「対カオス戦では見事な立ち回りだったが、お前もヒーローなのか?」
アトラスの質問に、オチバは少し悩むそぶりを見せたが、それから間もなく口を開いた。
「正確には違うかな。特殊能力もなければ変身もしないし。何よりも、僕が守るのは渋谷の安全だけだからね」
「特殊能力もないって……!?あの強さで、なんの能力も変身もないのか!?」
「ま、まぁまぁ……落ち着いて。というか、ずっと聞きたかったんだけど、君たちは何のためにこの渋谷へ来たんだい?」
「そうだった、本来の目的を忘れるとこだった……俺は――!?」
アトラスがオチバへ改まって向き直ったその時、ズドーン!!という爆発音とともに、爆風が避難所を襲ったのだった。
「またギャングか……最近はやけに動向が激しいなっ!……せっかくだし、君たちもついてきて協力してくれっ!!」
「任せろっ!」
と、アトラスとオチバが夜の渋谷を駆け出すなか、緑の装甲を光らせて立ち尽くす一人の男が、寂しげにつぶやいた。
「勝手に話、進めないで。」




