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最強魔導士の星婚《ステラリガーレ》~異世界から召喚された勇者に恋人を奪われた上にパーティーを追放されたけど、英雄エルフを嫁にしたら最強超えて究極になった~  作者: 源朝浪
第一部・第四章 それは世界を紡ぐ我らが賜る星の祝福

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第四十七話 魅了の義眼

 しかし、いつまで経ってもウィルテイシアは何も口にしない。


 雰囲気から、確かに魅了にかかっている状態なのはわかるのに、何故かハヤトの言葉に従おうとしないのだ。


 これにはハヤトも首をかしげている。恐らく、今までにこの魅了を使われた女性は、すぐに彼にかしずいたのだろう。


「……何だ? まだ、魅了の効果が馴染んでないのか? 精神力が強い相手には、完全に効果が出るまで時間がかかるって話だったか。めんどくせえなぁ~」


 誰かから伝え聞いたかのような、ハヤトの口振り。


 しかし今の俺にとっては、そんなことはどうでもいいことだった。


 もしかしたら、ウィルテイシアは心の奥底で魅了の効果に抵抗しているのかもしれない。そんな淡い期待が首をもたげる。


 が、そんな期待も、ハヤトの次の言葉で崩されることになった。


「……まぁ、いいや。せっかくだから、またライオットの泣き面を拝んでやろうと思ったが、どうせ生きていられても邪魔だし、目障めざわりなだけだからなぁ」


 ハヤトがこちらに視線を送り、にやりと笑って見せる。


「命令変更だ、ウィルテイシア! ライオットを殺せぇ! いたぶる必要はないぃ! 一撃で、確実に命を奪えぇ! その後でたっぷりと可愛がってやるからよぉ!」


 それを聞いたウィルテイシアの身体が動く。恐らく精神面ではなく、肉体面への魅了効果がそうさせているのだろう。


 それは、そのまま俺自身の死に直結する動作。俺の前まで来たウィルテイシアが剣を振り上げる。


「楽しみだなぁ~! なぁ、ライオットぉ! お前の死体のすぐ横で、そのエルフを抱きまくるんだぁ! フィオナなんかよりずっといいぃ! こんないい女を俺にくれてありがとうよぉ! ライオットぉ!」


 ハヤトの笑い声が耳触りに響く。


 今この瞬間。彼女は何を考えているのだろう。


 その瞳に、俺は写っていない。妖艶(ようえん)な笑みを浮かべで、でもこちらに対してはどこまでも無感情に。それこそ、俺をそこらの羽虫程度としか認識していないかのような。


 ハヤトに命令されたから、それに従う。ただそれだけの、無機質な行為。


(くそっ……。俺があの時もっと上手くやれていたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに……)


 何かできることがあったはずだ。こんな結末を迎えないために。


 しかし、今更足搔(あが)いたところで何が変わる訳でもない。そもそも、ウィルテイシアの心が俺から離れてしまったのなら、生き長らえることにどれだけの意味があるのか。


(もう、いいのかな……)


 もう疲れた。


 想い人を二度もハヤトに奪われ、残ったのは全てを失った情けない男が一人。泣きじゃくる気力、怒り叫ぶ気力も湧かないほどに、心身が疲弊し、思考もろくに回らない。


 終わる。


 この命が。


 俺の旅が。


 何者にもなれず。


 何も成し遂げられない。


 ちっぽけで、どうしようもない、愚かな男。


 その命の灯が、今まさに、(つい)えようとしている――。


(……終わりたく、ない)


 やはりダメだ。


(この身体(からだ)が、心が、魂が。生きたいと。彼女を愛し続けたいと――)


 でも、この状況を打破する手段は思いつかず。


 どうしようもなく無力な俺は。


 覚悟が決まらないまま、グッと目を閉じた。


(ウィルテイシア! 俺は、君と――!)


 けど、その瞬間はいつまでも訪れなくて。


 ふと目を開き、彼女の方に視線を送ると。


 彼女は、剣を振り下ろす途中の動作で止まったまま、静かに涙を流していた。


「……ウィルテイシア?」


 俺が声をかけると、妖艶な笑みを浮かべたまま。それでも、確かに彼女の声で、俺の名を呼ぶ。


「ライ……オッ……ト……」


 恐らく、彼女が正気に戻った訳ではない。現に彼女は必死に剣を振り下ろそうとしている。だが、振り上げた手は小刻みに震えるばかりで、振り下ろされる気配はない。


 彼女の身体(からだ)が、心が、魂が。


 俺を殺すことを拒絶しているのだと。


 そう思ったから。


「ウィルテイシア!」


 ならば俺にできるのは。そんな彼女を抱きしめることに他ならず。


 剣を振り上げた体勢のままの彼女を、胸の内に抱き寄せた。


「ライオット……。私は……」


 混乱しているウィルテイシア。


 頭では俺を殺そうという意思に変わりはないのだろう。


 しかし、自分の中にある何かが。それを拒んでいるということを。


 彼女は今、これでもかと思い知らされている。


「私は、どうして……」

「いいんだ、ウィルテイシア。君は何も悪くない。悪いのは俺だ。ハヤトの策に気づけなかった、俺が悪い……」


 身動きが取れずに硬直する彼女の身体を、俺は思いきり抱きしめ。そして――。


 彼女の唇に、初めて。


 そっと、触れるようなキスをした。


「おい! 何してくれてやがんだ、ライオットぉ! そいつはもう俺の女なんだぞぉ!」


 ハヤトの怒号が飛ぶ。


 それでも俺は、彼女から離れてやらない。


 今の彼女がそれを望んでいなくても。


 俺は、俺の意思で、彼女を愛し。それを彼女に伝えるんだと。


 それだけを考えて。


 そっと唇を離し、そのまま彼女に伝えた。


「ウィルテイシア。俺は、君を愛してる……。他の誰かじゃダメなんだ。君だから。君をこそ。俺は愛して。だから――」


 彼女が正気でないことを承知の上で。それでも俺は彼に問う。


「君の本音を、俺に聞かせてくれ……」


 俺が口にしたその言葉に、彼女は全身の硬直をほぐし、そっと剣を下ろすと。


 彼女の方から、そっと俺の唇にキスをして。


 たぶんそれが、彼女の答えに他ならず。


 そして――。


 俺を力いっぱい突き放すと、そのまま剣を逆手に持ち替えて。自らの胸を、一息に突いた――。


「ウィルテイシア!」


 慌てて声をかけるが、もうことは済んだ後で。


 彼女の心臓は、既に剣で貫かれている。


 もう、助からない。


 崩れ落ちる彼女の身体からだ


 俺は再び彼女を抱きとめ。


「ライオット……。私は――」


 彼女の最後の言葉を聞く。


「私も、貴方(あなた)を……愛している。私のとっての愛とは……、貴方(あなた)そのものだ……」


 そうして。


 彼女の手は、力なく。


 ぱたりと地に落ちた。


「……ウィルテイシア?」


 どうして。


 どうしてこうなった。


 何で彼女が死ななければならない。


 俺を生かすためには、そうするしかなかったのだと。


 ハヤトの魅了が解けないから、彼女は自らを殺すことでしか俺を救えなかったのだと。


 それがわかっていても、俺は。


 彼女にだけは、俺を置いて行かないで欲しかったのに……。


「くっそ! 何だよ! せっかく、最高にいい女を手に入れたと思ったのに! どうしてこうなる!」


 ハヤトの声が、耳障りに響ていた。


 彼が何を言っていたとしても興味はないのに。


 たぶん俺に向けられている恨み節を。


 聞き続けなきゃいけないなんて。


 よりにもよって、こんな状況で。そんな――。


(ああ、ウィルテイシア。君がそれを選ぶって言うのなら――)


 だから俺は、こうするしかない。


 ウィルテイシアの胸から剣を引き抜き。その切っ先をそのまま自分の胸に当てる。


「俺も君と同じ場所に行くよ……。こんなことをしても、君は喜ばないだろうけど……」


 ハヤトの声が遠くなる。


 たぶん気にならなくなったんだ。


 それくらい。俺がウィルテイシアに夢中ということで。


(ごめん、ウィルテイシア。約束、守れなかった……)


 降り始めた雨が目にしみるけど。


 それも、もうじき気にならなくなるだろうから。


(今、君の隣に行くよ……)


 自らの胸に、彼女に剣の切っ先を当てる。


 淡く光を放った刀身は冷たく、そのままでいたら凍り付いてしまいそうなほどだったけど。


 その心配はない。


 何故なら、俺が事を済ませるのに、そこまで時間はかからないから。


「ウィルテイシア……。せめて死後の世界では、君と一緒に、永久(とこしえ)に――」


 そうして、俺は――。


 自らの胸を貫いた。

読んでいただきありがとうございます。


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