第四十四話 対勇者パーティー戦
俺が放った大量のファイアボールを無力化したのは、意外にもアレクだった。彼は俺のファイアボールの全てを、その弓の連射速度だけで迎撃して見せたのである。
(なるほど。これは骨が折れそうだ……)
以前の彼なら、ここまでの芸当はできなかったはず。どうやってその力を得たのかはわからないけど。仮に偶然手に入れた力だったとしても、使いこなすには相当の修練が必要だと思われる。どちらにせよ彼の努力なしに取得することは叶わなかったはずだ。
と、俺の背後で何かが動く気配。俺は咄嗟に杖を背中側に回し、予期せぬ襲撃を防ぐ。
「このやり口はティオか。アレクの方に気を取られてる隙に近づいたってことだろ? その辺の連携も、以前とは比べ物にならないな!」
ティオは俺の言葉には何も返さず、舌打ちだけして、溶けるように姿を消した。
(流石の隠密能力だ。以前よりも速いし見えにくい)
彼女の実力もまた、アレク同様桁違いに上がっている。この二人でこれなら、勇者ハヤトはいかほどのものなのか。あの手柄にうるさいハヤトのこと。二人よりも弱いということはないだろう。
しかし、流石に俺狙いであることが見え過ぎだ。
ウィルテイシアには目もくれず、俺だけを狙って攻撃を繰り出して来ている。だからこそ、俺としては対応しやすいのだけど。
(ウィルテイシアだいぶ怒ってたからな~。放っておいたら痛い目見ると思うぞ?)
相手を気遣ってしまうのは、俺の悪い癖。どうせボコボコにするつもりなのだから、黙って相手を引き付けておけばいいのに。
気分を切り替えるためにウィルテイシアの方を見れば。彼女はハヤトと一騎打ちをしていた。
フィオナの支援を受けながら、単騎でウィルテイシアと戦っているハヤト。彼女を相手に、よく立ち回れていると言えるだろう。しかし、そこは伝説の大英雄と駆け出し勇者。そこには簡単には埋められない差があり、徐々にウィルテイシアの優勢が際立ってくる。
「おい、フィオナ! もっと身体強化をよこせ! 全然足りないぞ!」
「やってるわよ! 目いっぱい! これで足りないなら、そいつとは戦わない方がいいって!」
フィオナの方は、ウィルテイシアの実力に気付き始めている様子。しかしプライドが高いハヤトは、それを受け入れられずにいるらしい。
実際、ハヤトの攻撃は掠りもしない。対するウィルテイシアは徹底的にはハヤトの剣を狙い撃ちして、右腕の疲労の蓄積を図っていた。あれだけの衝撃を受け続ければ、そう遠くない未来に、ハヤトは剣を持っていられなくなるだろう。
「バカ言うな! ウィルテイシアとか言ったか!? 美人な上にこれだけ強いなら、絶対に手に入れたい! パーティー戦力としてはもちろん! 夜はその高圧的な態度をへし折って、従順な雌に仕立ててからたっぷり楽しませてもらいたいぜ! あ~クソ! ムラムラしてきた! おいフィオナ! さっさと終わらせて一発やるぞ!」
本当に。欲望に素直な男だ。ハヤトは実力者ではあるが、真の強者と呼ぶには人格が欠落している。そういう輩は、ウィルテイシアは好かないだろうし。何を言ったところで彼女が耳を貸すことはないだろう。
「私のこの身は魂の根底から足の先、髪の毛一本に至るまでライオットのものだ! 貴様のような下賤な輩に触れさせるものか!」
案の定、ウィルテイシアの逆鱗に触れている。そんなに怒らせてどうするというんだ。自分が不利になるだけだろうに。
その瞬間。耳に届く、アレクの俺を呼ぶ声。どうやらよそ見をしていたのが気に入らなかったらしい。視線をそちらに向けると、流星のような矢が俺の頬を掠めた。頭を傾けて回避しなかったら、顔面の中心を射抜かれていたところだろう。
続く二射、三射も、俺を射抜かんと飛んで来るが。威力を高めた結果として、より真っ直ぐに飛ぶようになった矢の軌道は、はっきり言って読みやすい。来るとわかっていれば、タイミングを合わせて直撃を避けてしまえばいいだけ。流石にこの威力と速度では、完全な回避は難しいけど。
はっきり言って、直撃さえしなければ死なないし、他に注意するべきこともある。どちらかと言えば、この状況ではそちらこそを警戒するべきで。
不意に耳に届いた風切り音。それを聞き逃さず、音の方へと杖を伸ばす。するとそこにはティオがいて、その刃が俺届こうとしていたところだった。
「……気配の遮断は上手いのに、詰めが甘いのは相変わらずだな?」
少し前までパーティーを組んでいた訳だし。彼らの特技を生かそうと俺は必死に支援のための動きを考えていたのだから。そこから逆算すれば、対抗手段を考えることも容易な訳で。
結局のところ、彼らが俺たちを倒すには圧倒的に準備不足。いくら実力を上げようが、想定内なら敵ではない。そもそもこの再会が偶然だったのだから、そこは仕方ないかも知れないが。
「ほら、そこに足を踏み出すんだろ?」
ティオが俺の魔法を警戒して飛び退こうとしたタイミングで、俺は後方にファイアボールを置いてやった。
距離を取ることに意識を集中していた彼女はそれに反応できず、ファイアボールを左足で踏み抜いて爆発。その爆風に吹き飛ばされる。
(死なない程度に威力は抑えてるけど。少なくとも、しばらくの間、左足は使い物にならなくなっただろう)
爆発の衝撃で意識を失ったのか。吹き飛ばされた際で倒れているティオに、起き上がって来る様子はない。まずは一人、と考えていいだろうか。
「どうする、アレク。まだやるか?」
俺は純粋に投降しろと言いたかった訳だけど。彼は違う意味に捉えたらしい。
アレクの形相が一層鋭くなる。これは、何と言うか。ただ仲間をやられただけの反応には見えない。もっとこう、親しい相手がやられたという事実に憤慨しているかのよな。
(あ、そうか。アレクとティオっていつもつるんでたけど。そう言うことか……。はいはい。たぶんきっかけはその場の流れで、とかだったんだろうけど……。なるほどね……)
自分の恋人が目の前でやられたら、誰だって気が気ではないだろう。そういう人情が、どうやらアレクにもあったらしい。しかし、それなら――。
(俺がどういう思いだったか、あの時察してくれても良かったんじゃないか?)
怒りと言うより、不満が溢れて。俺はつい強めの魔法を用意してしまう。
具体的には、師匠が使っていた最大火力の魔法の、一段階下の魔法。空間全体に魔力を流すのは、魔王軍の軍勢に対してやったことと同じだけど。今回刻むのは睡眠の術式ではない。天を駆け、地を穿つ、神鳴る一撃。その名は――。
「ライトニングゲイザー!」
簡易詠唱による術式の簡易化で、瞬時に生み出された神の一撃たる落雷は。大地を穿つだけでなく、そのまま地を走り、広範囲をその衝撃で覆いつくす神鎚となる。
当然回避方法はなく。防ぐこともできない。必殺とまでは行かないけど。確実に深いダメージを与える、攻撃色の強い魔法だ。
いかにも口惜しげな様子だったが、アレクもまた地に伏す。これでこちらの戦闘は終わり。あとは……。
「ウィルテイシア、やり過ぎてないといいけど……」
彼女はあれで戦闘狂とも取れる一面も持っているので。もしかしたら勢いで相手を殺してしまいかねない。
仮にそうなったところで、相手が相手だし。俺が心を痛めるようなことではないけれど。それでも。
その怒りの矛先が、かつて愛した幼馴染に向かうのは避けたいと、そんな風に思ってしまい。
しかし、振り返った先で見たのは、信じられない光景だった。
「おい、ハヤト。何、してんだよ……」
ウィルテイシアが突き出した剣の先。本来であればハヤトを貫くはずだったその一撃は、盾によって防がれていた。他の何でもない、フィオナと言う名の、肉の盾によって。
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