第四十三話 ――ウィルテイシアの手記・??????枚目――
これが勇者なのかと、私は絶句するしかなかった。
この凶気に塗れ、汚物が如き言葉を発するこの人間が。勇者として国の誇りと期待を背負い、信じて送り出された強者だと……。
勇者であるなら、英雄であるなら、聖人であらねばならないとは言わないが。
私自身が聖人と呼ばれるには、あまりに戦い方が下劣で。卑怯者とののしられても仕方のない選択をして来たのだから。勇者が聖人君主である必要はないのだと。
そう思っていてさえ。これは、あまりに――。
それにフィオナと言ったか。あの女がライオットを地の底に蹴り落した張本人。信じてられていたのに、愛されていたのに。それを無慈悲に切り捨て、嘲笑った愚か者。
人間にしては、容姿は多少整っているかもしれないが。心がそれに相応し在り方をしているとは限らないのだと。心の底から、そう思わされる。
残りの二人も、風格があるかと言えば。答えは否。
かつての仲間との再会だというのに、その心中にあるのは、取るに足らない小ささの、小汚いプライドでしかなかった。
これがアルガトラム王国の勇者パーティー。これが、かの国で魔王を討伐し未来を切り開くために選ばれし者たち。このような人格の持ち主たちを勇者として担ぎ上げたというのなら。アルガトラム王国とて。例え人間の納める国であったとしても、捨て置く訳には行かないかもしれない。
人の一生は短く、束の間の生の中で、精一杯もがくのだと理解していても。長命種であるエルフの私が介入すべきことではないのだとわかっていても。
私がライオットを想えばこそ。この現状を正すべきなのだと。強く、強く。胸の奥の奥の、更に奥。魂の根源にまで刻み込まれた。
こんな連中のために、ライオットは。あんなにも傷つき、壊れ、肉体が死んでいないだけの亡骸になってしまっていたのかと。胸の底から湧き出た怒りと憎しみが、私の心を黒く染める。
こんなにも誰かを憎いと思ったことはない。殺してやりたいという衝動に駆られたのは、初めての経験だ。
どうしてライオットは、こんな連中の前で平然としているんだ?
いや。平然とできる訳がない。
私が、そこまで見通せていないだけで。彼の心の中の炎は。きっと激しく燃え盛っているのだろう。
彼は真面目で、優しくて、頭が良くて、しかも頑固だから。きっと、誰かに自分の怒りをぶつけようなどとは考えないのかもしれない。
それがどんなに理不尽で、悪意のこもった所業であったとしても。彼は、それが自分に与えられるべき試練で、相手からしたら当然の態度なのだと。そんな風に思っているのだとしたら。
私は。私が、それに否と声を上げるべきだ。
選んだのだから。私は。彼の隣に立つことを。
進もうと誓ったのだから。彼と。いつかの先の、明るく幸せな未来に向けて。
なればこそ。
ここでケリを付けなければならない。
彼を追い詰めた全てを斬り裂き、その残骸を蹴飛ばして。彼の行く道に呪いではなく祝福だけが広がるように。私が。
私が生きて来たのは。全てを失い、絶望の中で手にしたこの力は。きっとこの時のためのもので。
ライオットは私の希望。私の愛そのもの。
であるのなら。彼の障害となり得る全てを、私は殲滅して見せよう。
私は精霊術を使えなくていい。
私自身が、彼を守り、彼の敵を断つ剣であればいいのだ。
例えこの身が滅び、潰えようとも。我が愛に一切の陰りなし。仮にこの身が彼より先に果てたのなら、魂を燃やして、彼の行く先を照らして見せる。
その光が彼を幸せな未来に導くことができるのなら。私はどうなっても構わない。
そう思っていたが。
どこまでも私は弱く。幼稚で。みっともなく。はしたない。
私の想いなど、結局は彼の重しにしかならないと知って。
この魂が、星の胎内に捕らわれてしまった今――。
私にできるのは、ただ。
彼から送られてこの指輪を通して彼を感じ、想い、涙することだけだった。
どうか、貴女よ。
私の代わりに彼を――。
私でない貴女よ。
どうか彼に、私にできなかった、この世の全ての祝福を届ける役目を。
貴女に担って欲しい。
どうか彼を、私の代わりに。
幸せにしてやってくれ。
いつかの世の、いつかの貴女へ
ウィルテイシア=ノールディが贈る
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