第四十話 勇者パーティーの旅路②
勇者パーティーが出揃い、パーティー練度を上げるためアルガトラム国内の魔物掃討に明け暮れる日々が始まってから数週間。パーティーとしてはまだまだ駆け出しで、ようやく連携の何たるかがわかって来た頃。
とある洞窟に住み着いたという大型の獣型の魔物を狩るべく、俺たちは初の大物を相手に、大立ち回りを繰り広げていた。
「アレクは遠距離から魔物の誘導! ライオットは目標ポイントまで魔物が移動したら足止め! フィオナに支援魔法をかけて貰ったら、俺とティオで切り込む! 足を狙って動きを完全に封じるんだ! そうすりゃライオットの大魔法で片が付く!」
「「「「了解!」」」」
ハヤトは積極的に指示を出すようになったし、俺たちはそんなハヤトの指示を従順に受け入れている。それが最適解だと思っていたし、実際にそれで戦果が上がっていたから。
しかし、この時の魔物は強くて。これまで上手く行っていた立ち回りが通用しなかった。
「ダメだ、ハヤト! こいつ、硬過ぎるよ! うちの武器じゃ歯が立たない!」
「くっそ! こっちもだ! ライオット! 足止めはいつまでできる!?」
「こっちはいつまででも大丈夫だけど……! 攻撃が通じないなら下手に接近しない方がいいんじゃないか?」
俺の考えでは、ハヤトとティオが攻撃の手を止めて離れてくれれば、並行詠唱で大魔法を使うという手もある。俺は今までそうして来なかったのは、そういう判断や行動を求められて来なかったからで。
仲間を守るためなら、持てる力の全てを使う覚悟はある。
「それじゃあ、どうやってこいつを始末するって言うんだ!」
ハヤトはどうにも功を焦る節があるので、俺としてはそこが気がかりだ。でも、彼は能力も高いし、大勢に慕われるカリスマも兼ね備えている。そんな彼を失うようなことになれば、王国の尊厳にも関わるので。俺は、独断で魔法を使うことにした。
相手がいかに大きく硬かろうと、あくまで生物であり、呼吸が必要であることに変わりはない。
それを阻害するだけで勝てることは、実は最初から分かっていたのだけど……。
俺は巨大な水球を魔物の顔を覆うように発生させ、同時に土魔法で魔物の足元を覆い、動きを封じる。あとは、ただ待つだけ。
土魔法で足止めされたまま、魔物は呼吸ができなくなり、そう長い時間を要することなく、静かに息を引き取った。
「これでいいだろ? ハヤト。無事討伐完了だ」
俺は我ながらいい仕事をしたと、満足していたのだけど。肝心のハヤトは驚き、惑い、不満そうで。
最終的に舌打ちをしてから、こう言った。
「……魔物は討伐した。時間はかかるだろうが、証として首を持ち帰る。皆それでいいな」
誰も反対する者はいない。もちろん俺も。
けど、何故ハヤトが不満そうにしていたのか、俺にはわからず。
それが、将来的に自身の破滅へと繋がることを、この時の俺はこれっぽっちも予想していなかった。
それからの魔物討伐周りは、それこそ事務的に行われた感じで。
ハヤトの指示では勝てない魔物も増えて来たこともあって、最終的に俺一人が活躍すると言う構図が増えて行った。
アレクが矢を射る前にファイアボールで魔物を蹴散らしたし。ティオが接近する前にライトニングボルトで敵を打ち払った。
ハヤトが作戦指示に専念できるように、フィオナが回復魔法を使うまでもないように。
全ては、いざという時に皆が素早く役割をこなせるようにするためだと、そう信じて疑わず。
俺はパーティーに貢献できていると満足に浸っていたけど、周囲の気持ちには気付けていなくて。それが原因で、少しずつ、パーティー内に発生していた溝は、その大きさと深さを増して行っていたのである。
それが爆発したのは、最初に大型の魔物を倒してから、半月が経過した頃。
ある晩、町で食事をしている席で。ここのところ苛立ちが目立っていたハヤトが、俺に食って掛かった。
「おい、ライオット。どういうつもりだ?」
「……どういうつもりって、何のこと?」
「とぼけんなよ! お前の魔法の使い方についてだ!」
そう言われても俺には理解が及ばない。
俺にとって今までの魔法の運用は、全て師匠から教わった通りに実行しているだけで。言わば修行の賜物。それを披露したからと言って文句を言われても、何故文句が出るのかが、俺には理解できないのである。
「ちょ、ちょっと落ち着いてくれよ!? 何だって言うんだよ!? 俺の魔法、何か悪いところがあったか!?」
「ああ、あるさ! 何でお前ばっかり手柄を上げてるんだよ! 俺たちはパーティーだ! お前の個人戦じゃあない!」
その点はその通りだと、俺も思っている。しかし、実際問題として、ハヤトやアレク、ティオの攻撃が通じないケースが出て来たのが事実。それを俺が補うのだって、パーティーの在り方としては正しいはずだ。
「パーティー戦だから、皆がピンチの時に、俺が代わりに力を振るってるだけだろ!? それの何がいけないんだ!?」
「何もかもだよぉ! 勇者は俺で、俺のための勇者パーティーだ! お前が一番目立ってどうする!」
何故そういう理屈になるのか。俺には理解できない。
足りない部分を補うための仲間であり、そのためのパーティーであるはずだ。それなら、味方が苦戦していたら手を貸すのが道理。それを間違いだと言われたら、俺だって腹が立つ。
「誰が目立つとかの話じゃないだろ! 俺たちは勇者パーティーなんだから! 魔物を倒してパーティーとしての練度を上げて、いずれは魔王討伐のための旅に出る! そういう話だろうが!」
「それはそうだが、そうじゃぁない! 勇者パーティーの中心は勇者である俺だろって、そう言ってるんだよ! それが、実際はどうなってる!? お前だよ、ライオット! お前だけが、一人だけ、手柄を独占してる!」
何を訳の分からないことを言っているのかと、俺は頭が痛くなる思いだった。誰が目立っているとか、誰が手柄を立てたとか。そんなことは問題じゃないはず。
俺たちの使命は魔王の討伐であって、味方同士で張り合うことじゃない。
それを伝えようと言葉を尽くしたが、結局ハヤトには受け入れて貰えず。
「その辺で終わりにしようよ! ここは大衆食堂だし、周りに他のお客さんだっているんだから!」
フィオナの一声で俺は我に返ったものの、ハヤトの方は怒りが収まらないらしく。腹立たし気に席を立ち、イスを蹴飛ばしてから食堂を出て行ってしまった。
「あ、おい! ハヤト!」
俺はそんな彼の行動が許せず、思わず声を張り上げ席を立ったけど。それをフィオナに制止されてしまい。何とか衝動を飲み込んで、やや乱暴に、すとんと席に腰を下ろす。
「私が行って宥めて来るから、みんなは先に宿に帰ってて」
そういうフィオナに任せ、俺たち三人は会計を済ませて、それぞれ別々に宿に帰った。
そこからの俺の転落は、割と早かったと思う。
段々と仲を取り持ってくれていたフィオナが俺に対してそっけなくなり。ハヤトの肩を持つようになった。
アレクとティオも俺には適当な相槌しか打たなくなり、パーティーの結束は俺を除いてのみ深まって行っている様子。
それでも俺は与えられた役割を果たそうと、みんながピンチになる度に魔法を使ったし、それによって浴びせられる罵詈雑言にも耐え続けた。
どうしてこんなことになってしまったのか。俺には全く理解が及ばない。
(俺たちは勇者パーティーなんだぞ!? 仲違いしてる場合じゃないだろ!)
そんな俺の内心は、結局誰にも伝わることはなく。
いつしか夜に俺の部屋に来なくなったフィオナの心配をしつつ、きっと今もハヤトの荒立った気持ちを宥めているのだろうと、自分に言い聞かせて。なかなか眠れない、長い夜を過ごし続けた。
決定的な事件が起こったのは、それから一カ月くらい経った頃。
勇者パーティーとして魔物退治の旅を始めてから、初めての誕生日を迎えようとしているフィオナに、どんなプレゼントを贈るべきかと悩んでいた。そんな秋口のことだった。
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