第三十九話 勇者パーティーの旅路①
師匠の下を出て独り立ちしてから数カ月。
一応黒魔導士を名乗ることができるようになった俺は、白魔導士として成長した幼馴染――フィオナとともに、アルガトラム王国の王都へとやって来ていた。
「すっげぇ~! ここが王都か~!」
「ちょっとライオット! あんまりきょろきょろしてないでよ! 田舎者だと思われるでしょ!?」
こういう時に体裁を気にするのは、女性だからなのだろう。俺からすれば、見慣れない装束や物に溢れている王都は、まさに宝箱のようなもの。
いろいろと見て回りたくなるのは当然だし、実際、何もない辺境の村で育ったのだから、田舎者なのは避けようもない事実な訳で。
「とにかく! 物見遊山の前に、王城に行かないと! 勇者パーティー選抜の申し込み期間終了ギリギリなんだから!」
「あ、そうだった! 悪い悪い……」
俺は苦笑いを浮かべながら、ぷりぷりと俺に説教をするフィオナを眺める。
俺と同じ黒髪なのに、彼女の肩下くらいの長さの髪はしっとりとしていて艶があり、光が当たると頭頂部に天使の輪のような輝きが宿るのだ。
それがまたきれいだから、俺はついつい眺めてしまう。
「修行中はほとんど会えなかったけど、フィオナの髪は、やっぱり綺麗だよな」
そう言って、俺は彼女の髪に触れた。
手触りもよく、日々の手入れの気合の入れ具合が窺える。
「ちょ、ライオット……。人前でそういうの……。やめてよ……」
嫌がって見せるが嫌がってはいない。それは彼女の顔を見ていればよくわかる。要するに人前でなければ構わないということなので、あとで二人きりになったら、存分に合えなかった時間を埋めるとしようではないか。
となれば、善は急げ。
早く勇者パーティー選抜の受付を済ませて、彼女との久しぶりの再会を祝う場を設けよう。きっとフィオナも喜んでくれるに違いない。
そういう訳で、俺とフィオナは連れ立って王城へと出向き。案内に従って場内の一画へ。
申し込み締め切り最終日も近いと言うのに、申し込み志願者は多く、会場はごった返していた。
「こりゃすごいな。こんなに人がいるところなんて初めて見た……」
「そりゃ~、国中から腕に自信がある人たちが集まってる訳だし? そうなるのも当然なんじゃない?」
言っているフィオナだって、その人の波の踊らされ、見かけは借りてきた子猫のようになっている。
そんなフィオナを雑踏から守ろうと、俺は彼女を腕の内に抱き寄せ。待機列の最後尾と思われる場所に移動した。流石にこれだけ人が多いと移動するのも一苦労だけど。そこは頭と魔法の使いようというもの。
この人数で蒸し暑くなった会場内で、少しでも涼を取ろうとする人垣を。氷属性を混ぜた風魔法で、ほんの少し誘導してやる。
すると徐々に、人垣は自然と涼しい方へと流れ、列までの道が開いた。
「ライオット……。その、ありがとう……」
「これくらいお安い御用だよ」
抱き寄せたフィオナは、何故だか少しもじもじとしていたけど。嫌がってはいない様子なので、問題なし。そのまま列に並び、自分たちの順番が回って来るのを待つ。
見渡す限りの人なので、流石に時間はかかったものの。何とか登録を終わらせた俺たち。あとは数日後に控えているという選抜試験でいい結果を出すことができれば、晴れて勇者パーティーの一員という訳だ。
そして、選抜試験当日。
どうやら試験内容は、申込者同士の模擬戦で判断されるらしく。俺は同じ黒魔導士と思われる男性と対峙していた。
「それでは両者、構え!」
相手が杖を構える。が、魔力の動きはまるで感じられない。
いや、正確には感じているのだけど、その魔力量はあまり少なくて、俺からしたらないのも同然。
模擬戦とは言え、本当に「相手にはやる気があるのか?」と疑いつつ、俺は雑に右手を差し出した。
「……始めぇい!」
模擬戦のルールは簡単。相手に「参った」と言わせたら勝ち。ただし殺傷能力が高過ぎる攻撃は禁止とする。と言うもの。
国王立ち合いの御前試合でもあるので、ガチの殺し合いをさせたくはないのだろう。そんなぬるい模擬戦で、本当にそれぞれの能力を正しく見極められるかは、甚だ疑問ではあるけど。
相手の黒魔導士が放ったのは、サンダーボルト。雷の玉を相手に飛ばす、雷撃系魔法の初歩だけど。その威力は弱過ぎて。俺からすれば意味がわからないほど。
俺はその雷撃を、魔法で迎撃するのではなく。魔力を込めた拳で、明後日の方向に弾き飛ばした。
「……ええっと、審判! 確認だけど、魔法の威力は今くらいに抑えないといけないのかな?」
「……え? ああ、いや。そこまでは言っていない。あくまで殺傷能力が高過ぎるとこちらが判断した場合に、減点対象になるだけだ……」
「殺傷能力が高いってどのくらい?」
「それはそのままの意味で汲み取ってもらうしかない。相手を殺してしまう可能性がある魔法は厳禁だ」
少し考える。
相手のサンダーボルトは、素手で弾けたくらいなので。当たったところでちょっと痺れるくらいだろうし。そう考えれば、もっと威力の高い魔法は使っても大丈夫はず。
(相手を殺さないようにって……。これから魔王を討伐しに行こうって言うのに、殺さない程度の魔法でどうやって戦力を測るんだか……。まぁ、威力が高過ぎても減点だけなら、多少強めに行ってもいいか)
とりあえず相手に倣って、サンダーボルトを放つことにする。
込める魔力は中の下くらい。これなら相手が死ぬようなことにはならないだろうと。俺はこの瞬間まで、心の底から信じて疑わなかった。
俺の手から放たれたサンダーボルトは、結果防がれることとなる。相手の黒魔導士ではなく、異世界から召喚されたと言う勇者――ハヤト=キサラギの手によって。
一瞬の静寂。
その場にいた誰もが息を飲み、場を静観することしかできていない。
唯一彼、ハヤトを除いては。
「おい、お前。殺傷能力の高過ぎる魔法は禁止されていたはずだが?」
「……え?」
何を言われたのか、俺はわからず。思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
これは後から知ったことだけど。俺の師匠は世界最強として名高い『滅尽』の二つ名を持った魔導士で、俺が思っていたような無駄に能力の高い残念美女ではなかったらしい。
そんな物騒な二つ名を持っていると知っていたら、俺は彼女の門下には入らなかっただろう。おかげで家事炊事雑用係と修業を兼任させられた上に死にかけるなど、散々な目に遭ったのだから。
「今のお前の魔法の威力は常軌を逸していた。何故こんな高威力の魔法を放った」
「……高威力? いやいや! 今のはちゃんと加減したって! あれくらいなら当たっても死なないだろ?」
「……お前は何を言ってるんだ? あの威力の魔法を喰らったら、死ぬだろ。普通に」
「……へ?」
言っていることの意味がよくわからない。
何故なら、俺は師匠からあれの百倍以上の威力の魔法を、散々浴びせられて来たのだから。
「おい魔導士ども! お前らの中で、こいつよりも強い魔法が使えるやつはいるか!」
俺はその声に釣られて、控えの魔導士たちを見たけど。誰もが首を横に振るか、俯くかで。誰も、俺の方を見ていない。
「そう言うことだ。選抜試験は終わりでいいだろう? こいつ以上の魔法戦力は、この場にはいない。終了だ! 散れ散れ!」
結局、勇者の介入で、選抜試験は有耶無耶のまま終わり。俺が勇者パーティの魔法戦力として王城に招かれることが決まった。
別会場で選抜試験に臨んでいたフィオナも、選抜を通過し勇者パーティー入りが決まったということで、あとで二人で個人的な祝勝会を開こうということになったのだけど。まずは王城の夜会に出て欲しいと言うことで、その場は着慣れない貴族服を着させられ、ろくに食事もできない接待を受けることとなった。
勇者の周りには貴族令嬢や王女様がまとわりついていたので、俺は大して話ができなかったけど。
これが、俺と勇者ハヤトとの出会い。これから先の破滅に通じる、最初の一歩で。俺にとって一番晴れやかで、輝かしい道を歩んでいた、まさにその瞬間だった。
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