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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の結婚を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は別の女性にすべてを世話される─  作者: 一斗
侵攻の足音。揺れる誓いの行方編

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85/90

呪いの残影、宿命の剣

「──お前の剣は、ムカつく奴を思い出すんだよ!」

 

 エドワード王子への死の拳が振り下ろされる直前、超精密な水弾の射撃と共に、王国の守護神・ゼクスが回廊へと降臨した。

 即座に美月とエドワードを土壁の向こうへ隔離し、一人で襲撃者と対峙するゼクス。しかし、その男の顔を見た瞬間、ゼクスの記憶が激しく揺さぶられる。そこにいたのは、前世の中学時代に対峙した宿敵・大久保の面影を残す男だった。

 

 ゼクスが構えた、美しく真っ直ぐな「上段の構え」。

 その滑らかな軌道に、拓真の脳裏には「優勝してもなお、須藤が出ていればと囁かれ続けた」という、前世の行き場のないドス黒い逆恨みが蘇る。

「……その目、気に入らねぇな。終わりだ。王子様」

 拓真の拳が、死神の鎌の如き速度でエドワードの顔面へ振り抜かれる。

 だが、その拳が届く直前、拓真は全身の肌が総毛立つような危機感で後ろへと飛び退いた。


 直後、彼がいた位置と拳の軌道上を、数発の水弾が正確に貫く。エドワードの鼻先をかすめるほどの精密な射撃だった。

「美月……!」

 壁を背に現れたゼクスの視界に、血を流して壁にめり込み倒れる美月と、彼女を守ろうと刺客と対峙していていたエドワードの姿が映る。


「エドワード様、美月を頼みます!」

 ゼクスは短く叫ぶと、風魔術でエドワードを奥へと押し流した。間髪入れずに土石の壁を生成し、二人を戦場から物理的に隔離する。

「……あ、あぁ。任せてくれ」

隔離される寸前、エドワードは唇を噛み締めながらも、かつてない安堵を覚えていた。


「ひゅぅー。歯応えのありそうな奴が来たじゃねえか」

 あまりの手際のよさに拓真が拍手しながら獰猛に笑った。その姿を正面に捉えた瞬間、ゼクスは記憶を激しく揺さぶられていた。


 そこに立っていたのは、中学三年の県大会決勝で対峙した、大久保の面影を色濃く残す男だった。

「大久保……なのか?」

 思わず口を突いて漏れたその名に、拓真の顔から獰猛な笑みが消え、両目が見開かれる。

「そのなりで俺を知ってるだと? てめぇ何者だ。日本人には見えねぇが……」


 ゼクスは足元に落ちていた剣を拾い上げる。

(日本人なら、元いた世界の人間なら……なおさら許せない。彼女をあんなボロボロにした報いは受けてもらう)

 ゼクスは牽制のアクアプレッシャーを散弾状に、そして雷を纏わせて連射する。

「うおっ、痺れるねぇ……!」

 拓真は致命傷を避けながら、自己治癒とフィジカルアップを併用してじりじりと距離を詰めてくる。その肉体は、破壊と再生を繰り返しながら、まるで怪物のように肥大化した殺意を撒き散らしていた。


 ゼクスは『ウィンドセンス』で拓真の動きを先読みし、ストーンニードルを放つ。拓真がそれを上空へ回避するが、その着空点には既に、ゼクスが設置した『エクスプロージョン』が牙を剥いていた。


――凄まじい爆炎が、拓真の肉体を完全に飲み込む。

 だが、立ち込める黒煙を強引に引き裂き、全身を瞬時に治癒し終えた拓真が狂ったように飛び出してきた。

「今のは効いたぜ。意識を持っていかれるところだった」

 拓真が腰の剣を抜く。ゼクスもまた、一切の迷いなく、剣を――天に向けて真っ直ぐに、美しく、上段に構えた。


「その構え……王国にそんな流派があるのか? おもしれぇ」

 激突する二つの刃。三倍の身体強化を纏う拓真に対し、ゼクスは二倍の強化と先読みでいなしていく。金属音というよりは、爆鳴に近い衝突音が回廊に響き渡る。


(……凌がれる? 全部完璧にいなされてやがる。こいつ、この滑らかな剣の軌道……あの忌まわしい、須藤涼翔の剣にそっくりじゃねえか……ッ!!)

 拓真の脳裏に屈辱の記憶が蘇る。中学最後の県大会。決勝で敗北した記憶が。

 全国大会で必ずぶっ潰してやる。そう思っていたのに、奴は全国大会に出てこなかった。

 そして優勝した俺に周りが口々に言った言葉。

 ――須藤が出ていたら、優勝したのは須藤だったかもな。


 俺は優勝したのに、優勝していなかった。俺の栄光はずっと未完成のままとなった。

 推薦で入った高校一年の時の大会も、須藤は全国大会に出てこなかった。

 風の噂で怪我の後遺症のせいで、以前のように剣を振れなくなったのだとか聞いたが、そんなのは関係なかった。

 あいつのせいで⋯⋯。

 優勝してもなお「須藤が出ていれば」と囁かれ続けたあの日々。

 行き場のない逆恨みが拓真の剣を荒ぶらせていた。


「死ね! お前の剣は、ムカつく奴を思い出すんだよ!」

 がむしゃらな連撃。それは技ではなく、呪いに近い暴力だった。

 ゼクスは上段の構えを崩さず、そのすべての暴威を紙一重で見事なまでにいなし続け、隙を突いては足元や死角から魔術を織り交ぜて凄絶な反撃を繰り出す。

 普通の人間なら一歩も動けなくなる程の致命傷を、ゼクスは浴びせ続けていた。

 しかし、どれだけ肉体を裂き、骨を砕こうとも、拓真の『自己治癒』のチート能力がそれを強引に繋ぎ止め、獣のような執念で連撃を補い続けてくる。気絶させることすら叶わない。


(……異世界召喚者のチート能力か。これだけやっても倒れないなんて)


 ゼクスは内心で舌打ちした。本来ならば、さらに距離をとり、広域魔術や高火力の連撃魔術を浴びせて拓真を近づかせずに完封することも可能かもしれない。

 だが、今は安易に距離を離すわけにはいかない。


 拓真の狙いは元より、動けない美月やエドワードのはずだ。もし自分が距離を取れば、この獣のような男は即座に標的を変え、土壁の向こう側へと突っ込んでいくかもしれない。

 一歩も引けない。二人を盾にするような、そして美月を再び危険に晒すような戦い方は、涼翔としての、そしてゼクスとしての矜持が、絶対に許さなかった。

 ゼクスは、あえて拓真の暴力的な間合いに踏み込み続けることを強いられ続ける。


(……長期戦になれば、治癒ができない俺の方が不利か)

 ゼクスは、血に飢えた拓真の双眸を見据え、さらに深く剣を構え直した。

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