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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の結婚を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は別の女性にすべてを世話される─  作者: 一斗
侵攻の足音。揺れる誓いの行方編

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79/90

第二王子ライオネルの冷酷な合図。最悪の裏切り者を称える、ボロボロの王国兵。

「……始めよ」

 

 次期国王の座を狙う第二王子ライオネルの冷酷な合図と共に、王国と帝国の全面戦争が幕を開けた。

 火炎と雷光が飛び交い、大地が悲鳴を上げる戦場。王国騎士団長レイヴンや副騎士団長ヴォルフガングらが本物の死線を戦う中、後方に陣取るライオネルだけは退屈そうにそれを見つめていた。

 

 なぜならこの戦いは、彼と帝国軍の間で一字一句まで筋書きの決まった「演劇(八百長)」に過ぎないのだから。

 遮るもののない広大な平地。

 王国軍と帝国軍、それぞれが一度の野営を挟み、ついに互いの姿を肉眼で視認できる距離へと到達した。


 王国側で全軍の指揮を執るのは、第一王子エドワードの兄であり、次期国王の座を激しく狙う第二王子ライオネルであった。彼は馬上で冷徹な笑みを浮かべ、地平線を埋め尽くす帝国の漆黒の軍勢を見据える。その冷え切った瞳には、祖国への忠誠など微塵も存在しなかった。


「……始めよ」


 ライオネルの短く冷酷な合図と共に、両軍の魔術師団による大規模な魔術合戦が幕を開けた。

 張り詰めた静寂を破ったのは、大気を文字通り沸騰させるような魔力の奔流。

 空は一瞬にして火炎と雷光の嵐で埋め尽くされ、着弾のたびに大地が悲鳴を上げて爆ぜる。拮抗する膨大な魔力の圧力によって、戦場の中央は歩を進めれば一瞬で消滅する「死地」と化した。

 だが、前線の兵士たちが恐怖に顔を歪める中、後方に陣取るライオネルだけは退屈そうにそれを見つめる。これは彼と帝国軍の間で、一字一句まで筋書きの決まった「演劇」に過ぎないのだから。


「中央は通れん! 左右に展開せよ!」


 魔術の余波に巻き込まれるのを避けるように、両軍の騎士たちがサイドから進軍を開始する。狙うは敵魔術師団の背後。だが、そこには当然、互いの精鋭が待ち構えていた。

 

「……チッ。シャドウ・ハウンドを失っているはずなのに、これほどの戦力を維持しているとはな」


 左翼を突き進む王国騎士団長レイヴンは、眼前に立ち塞がる巨躯の男を睨みつけ、吐き捨てた。帝国が誇る剛腕将軍、バレル。

 バレルの構えた手から放たれる極大の炎魔術。レイヴンは白銀の剣を一閃させ、迫り来る劫火を真っ向から切り裂いた。その火炎の影から躍り出たバレルと、間髪入れず剣を結ぶレイヴン。


 レイヴンとバレル。両軍のトップクラスによる、一瞬の予断も許さぬ攻防。その周囲では、上層部の八百長など知る由もない名もなき兵士たちが次々と命を散らし、平原は瞬く間に死屍累々の地獄へと塗り替えられていく。


 一方、中央での魔術戦もまた激化の一途を辿っていた。

 王国魔術師団長キュラムと、帝国の魔術師団長ハロルド。精密な魔術制御による撃ち合いは、空間そのものを歪ませるほどの精度で拮抗し、互いの隙を厳しく伺い続ける。


 そして右翼では、副騎士団長ヴォルフガングが本物の死線に喘いでいた。

 帝国の騎士団長ダルム。その重く鋭い剣筋に、ヴォルフガングの防戦は次第に削られていく。金属音を響かせ交錯する剣と剣。火花が散るたび、ヴォルフガングの腕には逃れようのない痺れが蓄積し、死の影がじわじわとその喉元にまで迫っていた。

(……強い。帝国の真の軍事力は、これほどまでだったのか……っ!)

 ヴォルフガングが冷や汗を流し、絶望に染まる中、対峙するダルムは退屈さに内心で毒づいていた。

(……クソ不器用な男め。ライオネル王子との密約があるから、こいつに悟られぬようわざと手加減をして、見栄えの良い拮抗を演出してやらねばならんというのに。下手に力を込めれば一撃で首が飛びかねんぞ)


 帝国側から見れば、王国軍の底は完全に透けて見えていた。

(事前に警戒していた、あの『ゼクス』という化け物は前線に現れていない。……ふん、王国の軍事力など、本気を出せばこの程度か)

 これまで帝国が王国を攻めあぐねていたのは、その未知の戦力が見えなかったからに過ぎない。だが、こうして血の八百長を演じることで、王国の主戦力のほぼ全てをこの前線に引き摺り出し、王都の防衛が完全に空洞化している事実が、面白いくらいに証明されていく。


 ─────


 やがて、太陽が西の空を禍々しく朱く染め始めた頃。

 王国側の魔術師たちの魔力が底を突き、攻撃の手が緩む。その瞬間を、帝国側は見逃さなかった。いや、「見逃さないふり」をする段取りへと入った。


「……王国の魔力が尽きたな。ちょうどこちらも枯渇したようだ」


 帝国軍の指揮官兼魔術師団団長ハロルドは、自らの内に魔力がまだ潤沢に残っているにも関わらず、あえて全軍に撤退の号令を下した。王国側に「互角の戦いだった」と錯覚させ、明日もまたこの場所で兵士たちの命をすり潰し続ける動機を与えるための、冷酷な一時閉幕。


「ふむ、今日のところは痛み分けというわけか。各員、深追いせず引き上げよ」


 ライオネルは、いかにも前線を案じる名将といった風な、芝居がかった声で命じる。

 ボロボロになった王国兵たちは「王子の適切な判断で全滅を免れた」と彼を称え、血に濡れた体を休める。

 だが、兵士たちは誰も知らない。自分たちが命がけで信じている指揮官が、自分たちの命をただの安いチップにして、王都に「狂犬」を招き入れた最悪の裏切り者であることを。


 夕闇に沈む、無防備な王都の方向を見ず据えるライオネルの口元が、誰にも見られぬ闇の中で、密かに、醜く歪んだ。



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