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ベッドを並べる当たり前。呼吸すら奪われるような、純粋で残酷な「執着」。

「……二人揃って登城せよ、との仰せです」

 

 夜更けの王都。

 門をくぐったゼクスとセシルを待っていたのは、国王による「二人同時」の招待だった。

 

 美月の目の前で、セシルの隣という立場が公認されようとしている。

 焦燥に駆られるゼクスに対し、セシルはさらに追い打ちをかけるように、彼が眠っている間に重ねていた「既成事実」を嬉々として語りだす。

 

 「添い寝してたけど、やっと、ちゃんと隣で寝られる」

 

 知らない間に心も体も侵食されていた恐怖。

 逃れられない運命の歯車は、ゼクスを美月への背徳感と、セシルの甘い奈落へと引きずり込んでいく──。

 二人が王都の巨大な外壁に辿り着いたのは、夜も深い時刻だった。

 高く聳え立つ石造りの正門はすでに閉じられ、篝火に照らされた門番たちが鋭い視線を街道に向けている。


「止まれ! 夜間の出入りは禁じられている。……何者だ」

 槍を構えた門番の一人が前に出る。ゼクスが歩み寄り、落ち着いた声で答えた。

「ベルンシュタイン村より戻った。……ゼクス、それとセシルだ」


 その名を聞いた瞬間、門番たちの空気が一変した。

「……ゼクス? ゼクス殿か!」

 一人が慌てて手元の書類とゼクスの顔を見比べ、すぐさま槍を引いた。

「失礼いたしました! 国王陛下より、貴殿が到着次第、王城へ通すよう厳命されております。……それと、隣におられるのが治癒師のセシル殿ですね。セシル殿も御一緒にとのことです」


「私も……ですか?」

 セシルが意外そうに目を丸くする。それは演技ではない、純粋な驚きを含んでいた。門番は恭しく頷いた。

「はっ。陛下は、ゼクス殿と共にセシル殿の力も高く評価しておられます。『そしてゼクス殿には相応しい褒美を取らせたい。到着せば二人揃って登城せよ』との仰せです」


「……二人で、お城に」

 セシルが小さく呟き、ゼクスの腕をギュッと抱きしめた。その瞳には、困惑を装いながらも、確かな「勝利」の光が宿っていた。

(……美月様も知ってるよね? スーちゃんだけじゃない、私も公式に『相応しい相手』として陛下に招かれたのよ)


「夜分ゆえ、本日の謁見は叶いませんが、明日の朝一番で迎えの馬車を差し向けます。今夜は以前お住まいだった家でお休みください。陛下の使いが、そちらまで迎えにあがります」


 用意された先導の騎士と共に、王都の静かな夜道を歩く。

 かつて暮らした懐かしい街並み。だが、ゼクスの心は重かった。

「スーちゃん、すごいね。陛下自ら私まで呼んでくださるなんて……。褒美、何をもらうの?」

「特に欲しいものなんてないんだけどな。禁書庫の閲覧権は以前にもらっているし……」

「じゃあ、私も一緒にお手伝いしたいから、私にもスーちゃんと同じ権利――出席免除と閲覧権がほしいな。私が強いのは知ってるでしょ……? だから、お願いしてみてくれない?」

 ゼクスは少し思案し、「そうだな、分かった」と頷いた。その二つ返事が、セシルのための「公的な居場所」を自らの手で広げる行為であることに、彼は気づかずに。


「ありがとー! スーちゃん!」

 弾んだ声と共に、セシルがこれ以上ないほど幸せそうに腕に絡みつく。先導する騎士が、当てられっぱなしだと言わんばかりの「やれやれ」といった表情を浮かべていた。


 そして、セシルがゼクスの耳元に唇を寄せる。

「明日、お城に行けば美月様にも会っちゃうかもしれないね。……でも、お城の人たちの前でも、ちゃんと仲良くしなきゃダメだよ? 特にエドワード様のお父様なんだから。私、スーちゃんのパートナーとして、恥ずかしくないように頑張るからね」


「……ああ、分かっている」

 ゼクスは短く答えるのが精一杯だった。王の招待。それは名誉であると同時に、美月の目の前で「セシルの隣」という立場を公認される、残酷な儀式の始まりでもあった。


 家に入ると、セシルはすぐに慣れた手つきで明かりを灯し、ゼクスのコートを脱がせにかかる。

「さあ、明日は早いんだから、今夜はゆっくり休まないと。スーちゃんの意識がない間は添い寝してたけど、やっと、ちゃんとスーちゃんの隣で寝られる!ベッド引っ付けていいでしょ?」

小首をかしげながら可愛らしく聞いてくるセシル。その瞳には、拒絶など微塵も予想していないような、純粋で残酷な「当たり前」が宿っていた。

「……え?」

(添い寝……? 俺が眠っている間に、そんなことをされていたのか……?)

 嬉々として語られた告白に、ゼクスは凍りついた。そんなことをされていたのかと今更ながらに知り、固まることしかできない。その瞳に込められた熱量に、背筋が凍るような戦慄を覚えた。

自身の知らないところで、どれほど深く彼女の「愛」という名の執着に侵食されていたのかを突きつけられ、ゼクスは呼吸の仕方を忘れたように立ち尽くす。


 窓の外、遠くに見える王城の灯りを見つめながら、ゼクスは逃れられない運命の歯車が回り出したことを確信していた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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