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「パパったら、余計なことを」──独占を望むセシルと、王都へ惹かれるゼクス。

「……異界の者達が、元の世界へ帰っていったという伝承もね」

 

 復興作業の合間、ハンスが何気なく口にした言葉。

 それは、この世界に絶望していたゼクスの心に「美月と共に帰れるかもしれない」という、消えない残り火を灯した。

 

 王都へ戻る理由。その大義名分が強まる一方で、ゼクスの独占を願うセシルは、父の言葉がもたらす波紋に静かな殺意を抱く。

 

 時を同じくして、敗走した帝国では禁忌の力が目覚めようとしていた。

 狂喜する皇帝の前に現れたのは、王国と同じ「異界の門」。

 

 新たな召喚の光が、美月とゼクス、そしてセシルの運命を、さらなる混沌へと引きずり込んでいく──。

 復興作業はゼクスの規格外の活躍もあり、急速に進んでいった。

「さすがゼクスだ! 世界一強い男だよ!」

 瓦礫を紙屑のようにどかし、崩れた壁を瞬く間に修復していくその姿に、村人たちは惜しみない賞賛を浴びせる中、休憩の合間にハンスがそっとゼクスに歩み寄った。


「そういえば、王都の、実は私達夫婦のかつての住まいにあった魔術書の山……きっと読むだろうと思っていたが、まさかあのレベルの術を使えるとは驚いたよ。……だが、少し魔力量が足りなかったようだね。君が常時使っている『あの魔術』が、足枷になっているんじゃないかな?」


「……そう、かもしれません」

 ゼクスは、自身の身体能力を常時二倍に引き上げている術式を思い、静かに頷いた。

(これを解けば、魔力不足に陥ることはないかもしれない。だが、常に死の危険があるこの世界で、これからも鍛え続けなきゃいけない。そうそうあんな局面は存在しないし…… 夜の訓練時だけ限定するか? 危ない日だけ解いて温存するか?いや、そんな予測ができるのか……?)

 思案するゼクスの横で、ハンスは独り言のように続けた。


「あの本の山には興味深い本も多かったよ。私の先祖の手記やおとぎ話……。その際、国に現れた『異界の者達』が世界を救い、後に元の世界へ帰っていったという伝承もね。とはいっても、王都の公式な歴史書からは、ある時期を境に消されてしまった内容だ。魔族の存在を秘匿する為に王族ですら忘れ去った古い伝承だと思う」


 その瞬間、ゼクスの鼓動が跳ね上がった。

(……異界の者達? 帰れる……? 美月と、元の世界へ帰れるのか!?)それは、絶望に沈んでいたゼクスの魂に火を灯すと同時に、彼を再び王都へと誘う。

 けれど、必死に記憶を掘り起こすが、王都のあの家にそんな記述の本はなかったはずだ。

「……そんな書物はなかったはずですが。俺もすべてのタイトルは目を通したつもりでした」


「ふむ……あったと思うのだが。まあ、王都の図書館にも、あるかもしれないね。君のその力も巻き込まれるかもしれない」


 ハンスはそれ以上追求せず立ち去ったが、ゼクスの心には消えない「残り火」が灯ってしまった。

(もし、俺も一緒に帰れるなら……)


 その背中を、セシルがじっと見つめていた。

(……パパったら、余計なことを。これじゃあ、スーちゃんは必ず王都へ戻ってしまう。スーちゃんが私のものになる時間が、遠のいちゃうじゃない……)


 ───


 一方、撤退を余儀なくされた帝国軍のラミルとバレルは、かつて『シャドウ・ハウンド』が蹂躙した王国側の前哨基地を抜け、自国の拠点へと辿り着いていた。


「申し訳ありません。私のせいで、何一つ成果を上げられず……」

 深々と頭を下げるラミルに対し、バレルは苦々しい表情で首を振った。

「作戦を失敗したのは我だ。辺境の守りに、あれほどの手練れが二人もいようとは。ラミル、貴様が対峙した者は?」


「……恐らく、治癒師と報告されていた少女かと。外見は酷似していましたが、その魔力と技は……」

「ゼクスの傍にはいつも治癒師の少女が控えていると言っていたな。よもやその少女が、治癒だけではないとは。貴様は今回の情報を必ず帝都へ伝えよ。奴らは、もはや一村の自警団レベルではない。我は引き続きこの基地を守護しよう」


「はっ……御意に」

 ラミルの声には、得体の知れない「脅威」への戦慄が混じっていた。あの時、自分を圧倒した少女の冷淡な瞳。あれは「守るための魔術」ではなく、ただ愛する者以外を排除するための「純粋な暴力」だった。


 だが、敗北の影を振り払うかのように、帝都は狂熱に沸き立っていた。

 冷徹な皇帝が、光り輝く巨大な石碑を仰ぎ、高らかに笑い声を上げる。

「見よ! 我が国の『異界の門』が、ついに覚醒した! これで我が帝国も、異界の勇者を呼び出せるぞ! ははは、はははははっ!」


 王国に現れた聖女・美月。そして、その影で躍動するゼクス。

 対抗しうる最強のカードを手に入れた帝国の欲望が、再び世界を塗り替えようとしていた。

眩い光を放つ石碑は、新たな犠牲者を召喚するための供物台か。あるいは、美月とゼクスをさらなる泥沼へと引きずり込む、運命の歯車か。帝国に灯る「希望」が、暗雲漂う世界を不気味に照らし出した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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