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鮮血さえも凍てつく結晶へ。セシルが守り抜いた、最愛の眠りと静寂。

「……これなら! ヘイルストーム!」

 

 夕闇のベルンシュタイン村に、轟音が響き渡る。

 ゼクスから教わった「精密な魔力操作」は、ただの水に絶対的な圧力を与え、物理法則を捻じ曲げる。

 

 放たれたのは、高圧水流が瞬時に氷へと転じる、死の雹の雨。

 かつての敵、ゲオルクの絶技を凌駕する精度で再現してみせたセシルの魔術が、暗殺者ラミルを完膚なきまでに撃ち抜く。

 

 広場での四対一の死闘、そして二階を巡る攻防。

 嵐のような襲撃が去った後、村に残されたのは、一面の銀世界と、一人の少女の満たされた微笑だった──。

 村の広場では、四対一という数的不利にありながら、バレルがその圧倒的な膂力と劫火で周囲を圧倒していた。

「ぬうっ……!!」

 ハンスの『ヘイルストーム』とエレノアの氷撃、そしてバルトロのアースニードルとオルグの物理的な重圧。それらを強引に切り裂きながら、バレルは内心で舌打ちを漏らす。


(……この村の者共、これほどまでか。ラミルの合図はまだか……!)

「きっと狙いはゼクス。今、襲撃されたら……!」

 対するエレノアが焦りの色を見せる。だが、ハンスは構えながら、静かに、しかし断言した。

「心配ない。セシルがついている。あの子は、私と同じくらい強いよ」


 バレルは眉を潜めた。これほどまでの手練れが、この狭い村にもう一人いるわけがない。……だが、もし万が一それが事実なら、ラミルはすでに敗れ、まもなくこの四人に「五人目」の加勢が来ることになるかもしれない。

 効率的な狩りを信条とするバレルにとって、それは不本意な消耗戦を意味していた。


 ───


 一方、庭園での死闘。

 ラミルは、セシルの放つ暴力的な氷槍の雨を、隠密部隊特有の回避と不可視の刃『ウィンド・カッター』で相殺し続けていた。


「ハァッ、ハァ……!! この、化け物が……!!」

 アイスシールドを咄嗟に展開し、セシルの攻撃を弾き飛ばすラミル。だが、セシルの魔力は底が知れず、限界も見えなかった。


(……ダメ。遊びすぎたわ。早くこいつを「駆除」して、スーちゃんのところへ行かないと)

 セシルは、父ハンスが放つ術の余韻を反芻する。氷を造るのではない。ゼクスから教わった「ただそこにある水」に、絶対的な圧力を与える。


「……これなら! ヘイルストーム!」


「なっ……!」

 ラミルは驚愕する。兄の代名詞とも言える魔術を口にする少女に。

 セシルが両手をかざした瞬間、庭の空気が「バキッ」と悲鳴を上げた。大気中の水分が、目に見えないほどの極小な「水の粒」へと凝縮され、ゼクスの加速を彷彿とさせる超高速で射出される。


「……! 氷じゃない、これはただの『水』――」


 ラミルがその異質さに気づいた瞬間、轟音が庭を支配した。

 放たれたのは、水の密度を極限まで高めた『高圧水流の嵐』。

 だが、それは単なる水ではなかった。射出された超高圧の水流は、大気に触れた瞬間に急激な減圧を起こし、物理現象として『極低温のひょう』へと姿を変える。


 物理的な破壊力を秘めた雹の弾丸が、衝撃波と共にラミルへと襲いかかる。それは、ラミルが誰よりも憧れ、到達できなかった、亡き兄ゲオルクの絶技『ヘイルストーム』そのものへと変貌していった。


「こんな馬鹿な……っ!?」

 兄を殺した少年の隣にいた少女が、水魔術の応用だけで兄の絶技を完璧に再現してみせた。ラミルは絶叫し、死に物狂いでシールドと風刃を重ねるが、セシルの「雹」はそれらを粉々に粉砕し、容赦なくラミルの両腕を撃ち抜いた。


「ぐ、ああああああっ!!」

 両腕に雹が刺さり続け、鮮血が舞う。その紅い飛沫さえも、着弾した瞬間に凍り付き、庭園に不気味な赤色の結晶を咲かせていく。

 庭の一角が瞬時に白い霧に包まれ、晴れた後には一面が銀世界へと変貌していた。ラミルは屈辱と恐怖に顔を歪めながらも、生き残る本能で背後の森へと転がり込んだ。


 ───


 広場で四人を相手取っていたバレルの視界に、遠く、ハンスの家から立ち上がる白い霧と、冷気を孕んだ「銀の輝き」が映る。


「あれは……ラミルが仕損じたか」

 バレルは即座に状況を判断した。これ以上の滞在は「非効率」だ。

 バレルは剣を真上へと掲げ、夜空を赤く染める閃光魔術を放つ。


「引き時だ。……命拾いしたな」

 バレルは劫火を周囲に撒き散らし、目くらましをしながら戦場を離脱する。

 森に隠れていたラミルも、両腕の激痛に耐えながら、憎悪に満ちた瞳で家を振り返り、将軍の後を追った。


 ──嵐が去った。

 残されたのは、衝撃で木々がなぎ倒され、一面が氷に覆われた庭。肩で息をするハンスたち。

 そして、息を切らしながらも返り血を浴びることなく、どこか虚ろで、それでいて満たされた表情のセシルだった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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