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美月が悟る、かつての自分の無邪気な残酷さ。過去の幸せが、今の彼女を切り刻む。

「……あれこそが、我が王国の至宝だ!」

 

 野営地に響き渡るエドワード王子の演説。

 それは恐怖を安堵に変える魔法の言葉でありながら、ゼクスを「人」の輪から追放する冷徹な宣告でもあった。

 

 一方で、ゼクスは故郷ベルンシュタイン村へと辿り着く。

 かつての戦友たちの再会に沸く大人たちを余所に、セシルは昏睡する彼を連れ、密室へと引き籠もる。

 

 王都で偶像にされ、村で宝物として監禁される。

 意識を失ったままの少年の周囲で、歪んだ愛の形が完成していく──。

 野営地の中央、即席の演壇に立ったエドワードの姿は、朝日を背負って神々しくすらあった。集められた騎士や魔術師、そして学院の生徒たちの顔には、昨夜の惨劇への恐怖と、正体不明の「力」への疑念が色濃く刻まれている。


「皆、今から王都へ戻るが戻る前に聞いてほしい。皆も不安に思っているだろうことについてだ。昨夜、我々の眼前に現れたあの『銀の竜巻』……。あれこそが、我が王国の至宝、ゼクス殿が放った究極の魔術だ!」


 エドワードの声が朗々と響き渡る。だが、聴衆からは手放しの称賛ではなく、ざわめきが漏れた。

「あんなもの、もし王都で放たれたら……」

「敵味方の区別などつくのか? あれはもはや、魔術ではなく天災だ」


 口々に漏れるのは、身を守るための盾があまりに巨大すぎることへの本能的な「恐怖」だった。群衆の心理は、強すぎる力を「守護」ではなく「脅威」と見なし始めている。


「皆の不安はもっともだ。あの力はあまりに強大すぎる。……だが、案ずることはない!」


 エドワードは力強く拳を握り、聖王子としての完璧な微笑を浮かべた。


「彼は我ら王国の剣であり、盾だ。彼がこの国を守護し続ける限り、我が王国の平和は約束されたも同然。我々はただ、彼という奇跡に感謝し、寄り添えばいいのだ」


「……そうだ。ゼクスがいれば、敵国など恐れるに足りない」

「ああ、彼は僕たちの味方なんだ」


 エドワードの言葉に誘導され、恐怖が「安堵」という名の思考停止へとすり替わっていく。

 その光景を、美月は冷めた瞳で見つめていた。

(……違う。エドワード様は、彼を『人間』の輪から放り出したんだわ。守護者という名の檻に入れ、感謝という名の無関心で蓋をした。涼翔を、孤独に立たせている……!)

 美月は、隣で演説するエドワードの指先に、かすかな震えを感じた。それは歓喜ではなく、獲物を追い詰める猟師の昂ぶり。


(そうだ。ゼクス……君はその強大すぎる力ゆえに、人の中に居場所を失う。君を守れるのは、君を理解できるのは……セシルという名の、愛の檻だけだ。そこで一生、幸せに飼われていればいい)


 演壇の下では、ゼクスのクラスメイトのカイルやミリアが複雑な表情で話し合っていた。

「ゼクスって、本当に……とんでもない奴だったんだな」

「……でもさ、あいつ、普段はセシルにべったりくっつかれて、鼻の下伸ばして幸せそうにしてるじゃない。中身はただの、お人好しな男なんだよね」


 その言葉に、周囲の緊張が少しだけ緩む。やがて、「ゼクスも美少女にイチャイチャされて幸せそうにしてるただの男だ」「毎日一緒に寝てるって言ってたよ! 早く結婚させて魔術師団へ入れてあげて」といった野次が漏れ始めた。


 それは、あの日――美月とエドワードの婚約を、皆が無邪気に祝福していた時と同じような光景だった。


(ねぇ、涼翔。あなたはこんな地獄のような空気の中で、私達にお祝いの言葉を贈っていたの……?)


 美月は今、自分がエドワードによって外堀を埋められている仕打ちと、かつて涼翔に与えてしまった絶望的な苦痛への罪悪感に、押し潰されそうになっていた。心が壊れてしまいそうなほど、その痛みは鋭く、重い。


 ───


 場面は変わり、懐かしきベルンシュタイン村。

 懐かしい風が、故郷に帰ってきた一行を迎え入れた。広場に荷馬車が到着すると、村中が蜂の巣をつついたような騒ぎになる。


「セシル! それにゼクス! 大丈夫なの!?」

「ハンスさん、マリアさん! セシルちゃんたちが帰ってきたよ!」


 人混みをかき分け、セシルの両親であるハンスとマリア、そしてゼクスの両親であるバルトロとミラが駆け寄ってくる。

 魔術師団副長として一行を率いていたエレノアは、出迎えた面々を見て、驚きに目を見開いた。


「ハンス、それにマリア!? ……嘘でしょう、こんなところで隠居してたの?」


「おやおや、エレノアじゃないか。相変わらず騒がしい女だね」

 ハンスが苦笑いしながら答える。かつての戦友たちの再会。村の人々と共に、心配そうに荷馬車を覗き込んでいた。


「また、魔力枯渇かい? やはり、あの山の向こうで見えた銀の竜巻は、この子の仕業なんだね?」


 ハンスの言葉に、エレノアは呆れたように肩をすくめた。

「ええ、とんでもない化け物よ。あの子何者なの?」


「ゼクスは文字通り神童だったよ。一歳で歩き、話し、魔術を使った。そして毎日毎日、飽きもせず血の滲むような努力を続けていた異端児だった」


 大人たちが旧交を温めようとしたその時、セシルが冷ややかに、だが断固とした口調で話を遮った。


「パパ、エレノア様。そんなことより、立ち話はやめて。……スーちゃんを早く、ちゃんとしたベッドで休ませてあげたいの。パパ、ママ。またスーちゃんを家でお世話していいよね?」


 セシルの瞳には、久々の再会を喜ぶ色など微塵もなかった。彼女の意識にあるのは、無防備に眠るゼクスの安否……そして、彼を誰にも触れさせたくないという強烈な保護欲だけだ。


「もちろんよ。セシル、あなたも疲れているでしょう。さあ、家に入りなさい」

 マリアの優しい言葉に促され、セシルは満足げに頷く。


「……ありがとう、ママ。さあ、行きましょう、スーちゃん。ここなら、もう誰も邪魔しないわ」


 村の静寂の中、ゼクスはセシルの家に運び込まれていく。

 それは安らぎの始まりのように見えて、外界から隔絶された「甘い監禁」の幕開けでもあった。閉ざされた扉の向こう側で、セシルが浮かべた微笑みは、蜜のように甘く、そして底なし沼のように暗い。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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