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語るに落ちた嘘。――聖女は少年の「隠しきれない真実」に確信を得る

「剣のことなんて、一言も聞いていないのに」

 

 彼女の冷ややかな一言が、俺の頭を殴りつける。

 平穏を願うあまりの焦燥。嘘を塗り固めようとして、自分から正体を晒すような真似をしてしまった。

 

 右下を見る癖。上擦る声。

 十五年という月日は、俺を「最強」にしたけれど、彼女の前での「不器用な嘘つき」という本質までは変えてくれなかった。

 

 俺を救い出そうと腕を引くセシルと、俺を逃がすまいと抱き寄せる王子。

 夕闇の校門で、俺たちの「仮面」は音を立てて崩れ落ちたんだ。

「……ミヅキ様。このような場所で、一体なんの御用でしょうか」


 ゼクスは努めて事務的な声を絞り出した。だが、隣にいるセシルの指先が、肉に食い込むほど強く彼の腕を握りしめている。その無言の圧力が、彼の冷静さをじわじわと削り取っていく。三ヶ月という平穏な月日が、彼の警戒心を鈍らせ、同時に「見られている」という意識を肥大させていた。


「どうしても……確認したいことがありまして。エドワード様には内緒で、一人で来ました」


 「内緒で」という言葉が、ゼクスの心臓を嫌なリズムで跳ねさせた。一人で来たということは、公務ではなく、彼女個人の執着だということだ。今日も演習場で、あの熱を帯びた視線を背中に浴び続けていた不快な記憶が蘇る。逃げ場を塞がれるような感覚に陥り、ゼクスは美月の瞳から逃げるように、焦燥のまま言葉を吐き出した。


「……ミヅキ様。何度聞かれても、私の剣は独学です。それ以上にお話しすることはありません。失礼します」


 食い気味に言い放ち、逃げるように足早に去ろうとするゼクス。その声は上擦り、視線は右下の地面を這うように泳いでいた。最強の魔術師としての威厳など微塵もなく、そこにはただ、嘘を隠し通そうとして自爆する、不器用な少年の残骸があるだけだった。

 その背中に向けられた美月の視線が、凍りつくような鋭さを帯びたことに、彼は気づかなかった。


(……まただ。視線を合わせず、右下の方を見て話す。昔、私に嘘をつく時と全く同じ癖。それに……私はまだ、『剣』のことなんて一言も聞いていないのに)


 図星を指された子供のような、あまりに稚拙な反応。その「隠し事がある」と宣伝しているも同然の無様な背中を見て、隣を歩くセシルは心の中で絶叫していた。


(……スーちゃんのバカぁ!! 藪蛇どころか、自分から蛇の口に頭を突っ込んでどうするのよ!)


 美月は「確認したいことがある」と言っただけで、具体的な内容はまだ口にしていなかった。それなのに自分から「剣」の話を持ち出すのは、あまりに不自然だ。動揺がそのまま「私は涼翔です」という答えになってしまっている。かつて、不都合な真実を大人たちに隠そうとした時と同じ仕草――皮肉にも、その下手な嘘こそが、彼女にとっての「真実」を証明していた。


 セシルはすぐさま足を止め、ひきつりそうな顔を完璧な「お世話係」の微笑みで塗りつぶし、美月へ深く頭を下げた。


「……申し訳ありません、ミヅキ様。ゼクスは今日は疲れているようでして。支離滅裂なことを言ってしまい失礼いたしました。……ね、スーちゃん?」


 セシルはゼクスの腕をさらに強く引き寄せ、所有権を主張するように体を密着させる。


「せっかくお越しいただいたのに心苦しいのですが、私達は失礼いたしますね。ミヅキ様も、あまりお一人で出歩かれては殿下がお探しになられるでしょうし。……あ、ちょうどお迎えが来たようですよ?」


 セシルの視線の先、学院の建物から血相を変えて走ってくる影があった。


 美月は、去りゆく二人の後ろ姿を――特に、逃げるように背中を丸め、どこか自信なさげに歩くゼクスの後ろ姿を、穴が開くほど凝視していた。その歩法、さっきの言動、そして嘘をつく時の仕草。すべてが記憶の中の「彼」と完全に重なり、最後のピースがカチリと音を立てて嵌まっていく。


「美月! ここにいたのか!? 一体、ゼクス君になんの用なんだ。勝手にいなくなったら困ると言っただろう!」


 息を切らして駆け寄ってきたエドワードが、いつになく荒い口調で美月を責める。普段の余裕ある王子としての仮面が剥がれ、そこには剥き出しの独占欲が浮かんでいた。


「……ごめんなさい、エドワード様。ゼクスさんに、どうしても確認したいことがあったものですから」


「そうだとしても、何かあってからでは遅いんだ。君は……君は私の側にいればいい。他の男に現を抜かすな」


 エドワードの瞳に宿る、愛ゆえの、暗く歪んだ執着。美月の肩を抱き寄せる彼の指先には、独占欲という名の冷たい力が籠もっていた。

 だが、彼に強く抱き寄せられた美月の瞳に灯った確信の火は、もはや誰にも消すことはできなかった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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