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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の婚約を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は君の幸せをただ願う─  作者: 一斗
世界の理、女神の悪戯編

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二人の来訪者、重なり合う記憶

「──『それから、私はしんちゃんの魔術指導を担当する先生になった。それまでしんちゃんは、王国から熱烈に勧められていた王女様との婚約を、色々な大人の事情で断り切れずにいたみたい。けど、その婚約をきっぱりと破棄して、私と正式に元通りの恋仲になってくれた』

『王国は、異界の勇者と、史上最強の王国筆頭魔術師の婚姻という少し早とちりだけど嬉しい特大のビッグニュースに、お祭り騒ぎで沸き返った』」


 セシルのどこまでも滑らかで愛らしい朗読が、過去に確かに存在した恋人たちの、華々しい勝利の歴史を紡いでいく。

 絶望に打ちひしがれている美月とゼクスをよそに、核心の部分は今か今かとはやる気持ちを抑え王族たち、あるいは幹部や貴族たちは黙って聞いていた。


「『当時、王国は帝国との泥沼の戦争の真っ最中だった。けど、私としんちゃんが前線に出れば負けるはずがない』

『私たちは、帝国側に現れていた転移者も、まとめて完膚なきまでにボコボコにしてやった。そのまま二人だけで帝国の首都まで一気に攻め立てて、無理やり休戦協定を結ばせてやったのだ』

『王国の上層部は「なぜ帝国を滅ぼして支配下に置かなかった!」って五分五分の協定にめちゃくちゃ怒っていたけれど、私もしんちゃんも、他国を支配するだの縛るだの、そういうことは大嫌いだった。だから、断固として「ダメなものはダメ!」って二人で突っぱねたら、王国側も最後は青い顔をして諦めてくれた』」


「へ、陛下……っ! こ、ここの記述も、すべて一致いたします……!」


 静まり返る謁見の間に、ふたたび大臣の悲鳴のような絶叫が木霊した。

 大臣は、古い歴史書の一ページを狂ったように指差しながら、ガタガタと全身を震わせている。


「帝国側の歴史書には『異界の者シンイチローと王国筆頭魔術師マルルの介入により、帝都が壊滅の危機に瀕した』と……! にもかかわらず、直後に不可解な、対等な休戦協定が結ばれたとあります……! 手記も、この歴史書も、どちらも本物の可能性が……!」


「……なんという、ことだ」


 玉座に腰掛ける国王の顔からも、完全に血の気が引いていた。

 王国の本来使えぬはずの治癒を使うことのできる家に伝わる、門外不出だった手記。それが、帝国の歴史の最大の空白を完璧に埋めていく。

 もはや、これが紛れもない「本物の歴史」であると、認めざるを得なかった。

 目の前にいるセシルという少女の先祖は、かつてこの世界を文字通り二人だけで変革した、神に等しい怪物だったのだ。その血を引くセシルへの畏怖が、広間の大人たちの間に静かに伝染していく。


 手記の朗読は、美月とゼクスを置き去りにしたまま、急速にその濃度を増していく。


「『──それから、私たちに本当の幸せが訪れた。私はしんちゃんと正式に一緒に暮らし始めた。朝から晩まで、ずーーっとしんちゃん一緒♡』」


「あ……」

 セシルは突然、はっとしたように朗読を止め、その白い頬をポッと赤く染めてみせた。恥ずかしそうに両手で手記を少し隠し、上目遣いで国王やゼクスを見つめる。


「あの……ちょっとだけ、ご先祖様としんちゃんという方の、ラブラブな日々の出来事がこれでもかっていうくらい細かくたくさん書かれているので……その、恥ずかしいので、ここは少しだけ飛ばしますね?」


 ふふっ、とセシルは可憐に微笑む。その仕草は、どこからどう見ても、恋物語の惚気話に照れている純真無垢な少女そのものだった。

 周囲の貴族たちはその愛らしさに一瞬だけ絆され、また聖女が感情移入して涙を溢しながら俯いて泣いている様子を、聖女も年頃の女の子なのだなと、微笑ましく思っているなか──セシルはその美月を視界の端に捉え続けた。


 しかし、その様子をエドワードは激しく睨みつける。

(そんなに、ゼクスとの今の関係に不満なのか?私の手を取ったのはお前の選択でもあったというのに……!)


 浅い呼吸を繰り返す美月。

 手記の中の二人が甘やかな同棲生活を送れば送るほど、今の自分と涼翔の冷え切った、それでいてドロドロとした執着にまみれた関係が惨めに浮き彫りになっていく。

 美月は己の胸元を涙で濡らしながら、その場に崩れ落ちそうなほどの精神的拷問に耐えていた。


 セシルの胸の奥で、再び極上の暗い歓喜が弾ける。

(そう、その顔。もっと苦しみながら聞きなさい。──でも、ここからが、あなたの本当の断頭台)


 セシルはあざといほどに可憐な笑顔を張り付けたまま、冷徹にページをめくり、声のトーンをわずかに落とした。

 手記の文字が、幸福の絶頂から、急激に暗黒の深淵へと沈んでいく。


「『幸せな日々が崩れた。十六歳になって少し経った、ある日。北の断崖絶壁の、人が決して立ち入ることのできないはずの山の向こうから、突如として二人の人間が現れた。彼らの到来によって緊急で招集された謁見の間で、私たちはその謎の二人と対峙した』」


 謁見の間──。その単語が響いた瞬間、現在の謁見の間の空気が、ピリッと凍りついた。過去にマルルたちが立っていた場所と、今、自分たちが立っている場所が、手記を通じて重なり合う。


「『衣服も、文化も、私たちの知るどの国とも違うその二人は、信じられないことを口にした。──自分たちの故郷が、凶悪な「魔族」の軍勢によって襲撃され、滅びかけている、と。このままでは人類そのものの存亡に関わる、どうか力を貸して協力してほしい、と。必死に我が国の国王様に頭を下げて直訴しているそのうちの一人は、どうやら向こうの国の王族らしかった。……そして』」


 セシルは一度、言葉を区切った。

 その場にいる全員が、ごくりと息を呑む。

 セシルの視線が、ゆっくりと、獲物を完全に捕らえた蛇のように美月の瞳へと固定された。

 どこまでも澄んだ、けれど冷酷な断頭台の刃のような声が、美月の息の根を止めるためのを読み上げ続ける。


「『──そして、残りの一人は、私たちと同じ世界から聖なる者として新しく召喚されたという人間だった。その人もまた……しんちゃんや帝国の転移者と同じように、この世界には存在しないはずの「治癒の魔術」を、当然のように使いこなしていた──』」


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