異界の聖女と、一つ屋根の下の誘惑。――朝起きたら幼馴染が布団にいました
王立騎士団と魔導士団。
二つの頂点を跪かせた俺を待っていたのは、平穏で、けれど心臓に悪い王都での夜だった。
「一緒にお風呂入る? 背中、流してあげてもいいよ?」
「スーちゃんのえっち。もっと触りたいなら……いいよ?」
加速するセシルの誘惑と、俺の壊れかけの防衛線。
この居心地の良さに溺れてしまいそうな自分を、俺は必死に律し続ける。
――美月。
俺は、君に会うためにここまで来たんだ。
だがその頃、俺の「美月」は、別の男にエスコートされながら、俺に似た面影を探していた。
再会の秒読みが始まる。
演習場の喧騒が遠ざかる中、特別席の最上段では、華やかな法衣に身を包んだ「彼女」が席を立とうとしていた。隣に寄り添うのは、第一王子・エドワード。彼は慈しむような手つきで彼女をエスコートし、その背中を優しく支えている。
検分を終え、心地よい疲労の色を見せていたゼクスは、その二人の親密な後ろ姿に気づくことはなかった。
「……ミヅキ、顔色が悪いようだが? あの少年の剣に当てられたか?」
王子の優しい問いかけに、美月――この国で「異界の聖女」として崇められる彼女は、微かに首を振った。
「いえ……。ただ、あの構えが少し、故郷の知人に似ていただけです。でも……まさか、ね。私がこの世界に来てから、もう一年……。彼は、ここにはいないのですから」
彼女の瞳には、かつての世界への断ち切れない未練と、同時にこの一年、孤独な自分を支え続けてくれた隣の男への、確かな信頼が宿っていた。
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その日の夜。
王都の一軒家では、昼間の騒動が嘘のような静かな時間が流れていた。
「はい、スーちゃん! 今日は頑張ったから、リクエスト通り鳥のフライ多めだよ!」
セシルが鼻歌まじりに運んできた料理は、専門店のそれよりも食欲をそそる香りを放っていた。ゼクスは「ありがとう」と口にしつつも、食後はいつものように庭で魔力を練るトレーニングの後に木刀を振るい没頭する。
そのひたむきな様子を隣で同じように魔力を練るトレーニングをしながら見守るセシルの眼差しは、どこか完成された新婚家庭の妻のようでもあった。
素振りを終え、心地よい汗をかいて庭から戻り、セシル特製ドリンクを飲んでいると。セシルがぱたぱたと駆け寄ってくる。
「スーちゃん、お風呂沸かしておいたよ」
「ありがとう、セシル。助かるよ」
「そうだ!……ねえ、スーちゃん。一緒にお風呂入る? 背中、流してあげてもいいよ?」
上目遣いで、頬を林檎のように赤らめながらとんでもないことを言う幼馴染に、ゼクスは飲んでいたドリンクを吹き出しそうになった。
「ぶっ……! 馬鹿なこと言うな! 」
「えー、減るもんじゃないのに。じゃあ、せめて一緒の布団で寝る? 怖い夢見たら可哀想だし」
冗談めかしたセシルの誘いを、ゼクスは顔を真っ赤にして撥ね退ける。
そんなやり取りさえ、ゼクスにとっては「明日から学院で美月を探す」という希望があるからこそ笑って流せる、平穏な前夜祭に過ぎなかった。
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翌朝。
カーテンの隙間から差し込む朝日に目を覚ますと、掌に驚くほど柔らかで、確かな温もりを伴った感触を覚えた。
「……あっ……」
耳元で響いたセシルの艶っぽい声に、ゼクスの思考は急激に覚醒する。視線を落とせば、そこには自分の布団に潜り込み、あどけない顔でこちらを見つめるセシルの姿があった。
「な、な、なんでセシルがここに……!?」
「スーちゃんのえっち。けど、もっと触りたいなら触っていいよ……?」
混乱するゼクスの質問には一切答えず、またしても心臓に悪いことを口にする。
「いやいや、だからなんで俺の布団に……約束が違うだろ!」
「えへへ……スーちゃん、かわいい! 顔、真っ赤だよ?」
くそっ、またしてもからかわれたのか。本当にセシルは俺を翻弄するのが好きで困ったものだ。ゼクスはバクバクと暴れる心臓を抑え、逃げるようにベッドから這い出した。
セシルの用意してくれた、温かな朝食を二人で囲む。
昨日から始まった、王都での二人きりの暮らし。――お世話されっぱなしで申し訳ないとは思うのだが、驚くほど居心地がいい自分に気づいてしまう。
(俺は、美月を探さなきゃいけないのに……)
入学式まであと一週間。
美月との再会を願う一方で、ゼクスはセシルとの甘やかな共同生活に、無自覚な胸の昂りを感じていた。
第14話をお読みいただきありがとうございます。
ゼクスさん、完全にセシルさんの手のひらの上ですね。
お風呂の誘いに、まさかの添い寝(強行突破)。
鈍感なゼクスも、流石にこの距離感にはタジタジです。
しかし、一方で「聖女」として崇められる美月の隣には、第一王子の姿が。
この一年、彼女を支えてきた王子の存在は、再会を願うゼクスにとって大きな壁になる予感がします。
セシルの深い愛(と執着)に包まれながら、ゼクスは美月に辿り着けるのか。
そして美月は、ゼクスの正体に気づくことができるのか。
次回、いよいよ入学式への準備が始まります!
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