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全属性展開――魔導の深淵を見せた俺に、王都は跪く

王立魔導士団副長、エレノア。

 三属性を極めた彼女の「深淵」に対し、俺は静かに告げる。


「一対一ですので、手加減しますね」


それが傲慢か、それとも慈悲か。

 空を埋め尽くす五属性の暴力が、演習場を神話の戦場へと変える。


だが、俺の意識はまだ、頭上にいる「彼女」には届かない。

 俺と同じ全属性を操り、俺と同じ構えを知る女性。

 

 運命の歯車は、爆音を立てて回り始めた。

 演習場を支配していた静寂が、一転して地響きのようなどよめきへと変わった。

 王立騎士団の副長が、辺境から来た十五歳の少年に膝をつかされた――その歴史的な瞬間を目撃した観衆が、総立ちになって騒ぎ立てる。


「……スーちゃん! もう、だから言ったのに!」


 真っ先に駆け寄ったのはセシルだった。彼女は躊躇なくゼクスの右腕を取り、同時に地面に伏したヴォルフガングの背にも手を置く。


「『ヒール』!!」


 まばゆい純白の光が二人を包み込んだ。ゼクスの腕に走っていた、筋肉が焼き切れるような激痛が一瞬で霧散し、筋繊維の断裂が超高速で編み直されていく。

 ヴォルフガングもまた、内臓を揺さぶられた衝撃が消え失せ、活力に満ちていく感覚に目を見開いた。


「……信じられん。これほど高密度の治癒魔法……。まるで、聖女様と同じ力ではないか」


 観覧席から漏れたその言葉が、更なる衝撃となって会場を波及する。

 ヴォルフガングは立ち上がり、痺れた腕をさすりながら、豪快に笑声を上げた。


「ははは! 参った、完敗だ! おい少年、学院など行かずに今すぐ我が騎士団に来い! 特例で千人長から始めてもいいぞ!」


「そうね、彼が騎士団に属すべきなのは、私から見ても明白だわ」


 魔導士団副長のエレノアが、冷徹な仮面をかなぐり捨て、身を乗り出して断言した。

 隣にいたセシルが、不安げにゼクスの袖を引く。


「……スーちゃん。もし騎士団に入っちゃったら……私と、離れ離れになっちゃうの?」


 潤んだ水色の瞳に、捨てられた仔犬のような悲壮感を漂わせるセシル。ゼクスは慌てて彼女の肩を叩き、副長たちに向き直った。


「いえ……。僕はこれでも魔術師を志していますので。学院で学びたいんです」


(……この世界を、そして彼女を守るためには、物理的な剣だけでは足りない。魔術の真理は必要不可欠だ)


「魔術師だと? その剣技を持ってか?」


 エレノアが眼鏡の奥の目を細めた。

「……面白いわ。なら、魔導士としての適性も私が直々に見てあげましょう。三属性を操る私の魔術、防ぎきれるかしら?」


 演習場の空気が再び緊張に包まれる。エレノアは王国でも数少ない「火・水・風」の三属性を極めた手練れだ。

 対するゼクスは、ふっと息を吐き、静かに告げた。


「……エレノア様。一対一ですので、手加減しますね」


「………………なんですって?」


 エレノアの額に青筋が浮かんだ。王都最高の知性と謳われる彼女に対し、これ以上の侮辱はない。

 だが、戦闘開始の合図と共に、彼女はその言葉の「真意」を骨の髄まで叩き込まれることになる。


「ウィンド・センス」


 ゼクスが呟いた瞬間、彼の周囲の魔力が不可視の触手のように広がり、空間そのものを把握し始めた。

 エレノアが放つ死角からの高速火球、足元から突き上げる氷柱、背後を狙う不可視の風刃。そのすべてを、ゼクスは一度も視線を向けることなく、最小限の魔力相殺カウンターで消し飛ばし続けた。


「なっ……!? 全てを読み切っているというの!? そんな馬鹿な多重属性の同時展開……!」


 エレノアの顔が驚愕に染まる。彼女の放つ波状攻撃は、ゼクスという「絶対的な壁」を前に、一滴の飛沫すら届かない。

 ゼクスは余裕の表情を崩さず、静かに問いかけた。


「……もう、いいですか?」


 その直後、演習場は「神の領域」の光景に塗り替えられた。


 エレノアの正面に巨大なトルネードが渦を巻き、頭上には太陽のごときファイアボールが鎮座する。さらに彼女の周囲を、数百というあり得ない量のアースニードルが包囲し、空には紫電を纏うサンダーアローと、凍てつくアイスジャベリンが、文字通り「空を埋め尽くす」ほど待機していた。


 一人で、全属性。それも一個師団に匹敵する、精密かつ膨大な多重並列展開。

 

 帝国特殊部隊を一人で蹂躙した、あの絶望的なまでの「個の暴力」が、今ここに再現されたのだ。


「……あ……、あぁ……」


 エレノアの手から杖が滑り落ちた。魔術の深淵を知る者ほど、目の前の光景が「奇跡」を通り越した「天災」であることを理解してしまった。


「こんなの、こんなのあり得ない! 今までの歴史上でも五属性を扱える者なんて、異界の者しかいなかったのに……!」


 その時。

 特別席の最上段で、一人の女性が欄干に身を乗り出していた。

 漆黒の髪を風に靡かせたその人物――美月は、先ほどの「上段の構え」と、今この目の前で展開されている「ありえない魔術制御」に、激しい動悸を抑えられずにいた。


(……あの上段の構え、そして私と同じ全属性魔術使い……。まさか私と同じ世界からの……。けど、外見も年齢も全然違うし、涼翔じゃないよね……?)


 美月は震える指先を胸に当て、その場に立ち尽くした。

 階下の演習場では、ゼクスが魔術を霧散させ、安堵の溜息をついていた。彼はまだ、最愛の人がすぐ上で自分を見つめていることに、そして彼女が自分を「疑い」始めていることにすら、気づいていなかった。


第13話をお読みいただきありがとうございます。


ついに「全属性使い」としての正体を明かしたゼクス。

騎士団副長に続き、魔導士団副長までもがその実力の前に戦慄することとなりました。


特別席にいた美月に、かつての恋人の面影を抱かせるきっかけになります。


「涼翔じゃないよね……?」


確信のない再会。そして、隣で不安げに袖を引くセシル。

ゼクスを巡る二人の女性の運命が、王都の空の下で交錯していきます。


面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークをいただけますと、ゼクスの全属性展開がさらに派手になります!

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