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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の婚約を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は君の幸せをただ願う─  作者: 一斗
世界の理、女神の悪戯編

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暴発の私怨、縫い付けられる敗北

 ──張り詰めた沈黙が、耳をつんざくように痛い。


 宮内大臣の先導のもと、重厚な扉を潜ったゼクスは、隣に立つセシルの細い腰にそっと手を回したまま引き寄せていた。

 掌から伝わる彼女の体温だけが、この異常な空間における拠り所だった。

 居並ぶ近衛兵たちの鋭い眼光が、一斉にゼクスへと突き刺さる。

 謁見の間に漂う空気は、まさに『殺意の坩堝るつぼ』だった。


 玉座に鎮座する皇帝の傍らには、冷徹な眼差しを崩さない皇帝の参謀。

 王国軍に討たれた副長バザレクの仇を討たんと、今にも剣の柄を叩き割りそうなほどの手力でゼクスを睨みつける、騎士団長ダルム。

 前回の作戦には不参加だったものの、底の知れない魔力をその身に湛え、値踏みするようにこちらを観察する魔術師団副長、イレイア。

 背後に控えるハロルドとバレルが素早くダルムの横へと並ぶが、彼らがもたらした「和平の兆し」など、この場の熱量にかき消されようとしていた。


 そして──何よりも異常な存在感を放っていたのが、溢れ出すほどのおぞましい殺気を隠そうともせず立ち尽くす、拓真だった。

 その隣では、指導役であるラミルが、暴発寸前の彼をいつでも抑え込めるよう、氷のような視線でゼクスの動向を注視している。


(拓真……美月をあんな目に合わせたお前は、絶対に許せない。だが、今は……)


 ゼクスは拓真の姿を一瞬だけ視界に収めたが、すぐに視線を正面へと戻した。

 今は私怨を果たす場ではない。

 最優先すべきは、この不毛な戦争を終わらせることだ。

 ゼクスはセシルと共に、一歩、また一歩と、皇帝の前へと歩みを進めていく。


 だが、そのゼクスの『大人の対応』こそが、拓真の精神を完全に崩壊させる引き金となった。


(……見もしない。奴は、俺を見ようともしない……!)


 拓真の脳裏に、数日前に皇帝から突きつけられた、残酷なまでの厳命が反芻していた。

『──ゼクスと再び相まみえたとしても、帝国最強のカードである貴様であっても、もう二度と戦うな』

 その言葉は、優しさでもなければ、戦略的な制止でもない。

 拓真にとっては、「お前は、涼翔に絶対に勝てない」と、再びこの世界から、絶対的な敗北の烙印を押されたのと同義だった。

 プライドを粉々に砕かれ、居場所を奪われ、世界の全てに拒絶されたような果てなき怒りと絶望。それが、自分の正面まで歩いてきておきながら、まるで路傍の石ころのように自分を視界から排除したゼクスの態度によって、ついに限界を迎えた。


「ああああああああああああっ!!」


 皇帝の厳命など、今の拓真の耳には届かない。

 狂ったように咆哮をあげながら、瞬時に『フィジカルアップ』を三倍へと跳ね上げ、ゼクス目掛けて突撃した。

 流れるような動作で抜かれた剣が、鋭い銀光となって迫る。

 常人の目では捉えることすら不可能な、誰も追いつけない、まさに一瞬の隙に放たれた絶技。

 攻撃が決まった──拓真は勝利を確信した。


 しかし。


(──見えているぞ、拓真)


 ゼクスが周囲に張り巡らせていた風魔術──『ウィンドセンス』は、拓真が筋肉を弛緩させ、踏み出そうとした指先のわずかな動きすらも、事前にすべて予知していた。


 拓真の剣が届く、その前に。

 ゼクスはセシルの腰に回していた腕に、グッと瞬時に力を込めて合図を送る。

 呼吸を合わせる必要すらない。

 セシルがその意図を察して身体の力を抜き治癒をかけ始めた瞬間、ゼクスは彼女の身体を滑らかに「お姫様抱っこ」の形で抱え上げた。


(フィジカルアップ四倍)


 ドン、と空気が爆ぜるような錯覚。

 次の瞬間、勝利を確信して突っ込んできた拓真の目の前から、ゼクスとセシルの姿は、まるで最初からそこに存在していなかったかのように、完全に消失した。


 だが、さすがは帝国の精鋭たちだった。拓真が突撃した気配を察知した瞬間、すでに次の手が打たれていた。


「 止めろおおおーーーっ!!」

「なっ、馬鹿者が!! 止めろっ!!」

「拓真殿!駄目です!」


 そして、好機と見た魔術師団副長イレイアの手によって、空間を埋め尽くさんとする無数の『アイスジャベリン(氷槍)』が放たれたのと完全に同時──ハロルドとバレル、そしてラミルの、肺を絞り出すような絶叫が謁見の間に響き渡る。


 あまりの速度の差。

 拓真の突撃は慣性を制御しきれず、完全に空を切った彼の身体が、凄まじい速度のまま前のめりに崩れる──その瞬間だった。


 超加速の世界の中、ゼクスが放った冷徹な一撃が、拓真の左足首を正確に踏みつけ、一瞬にして粉砕した。


「が、あッ……!?」


 激痛と、支えを失った身体が床の上を無様に転がる。そして、拓真の突撃に合わせた、完璧な同時波状攻撃。だが、ゼクスにとっては、それすらも見えていた。


(──『ファイアボール』)


 ゼクスが迎撃のために放った爆炎が、降り注ぐ無数の氷槍を空中で正確に捉え、爆音と共に一瞬で蒸発させ、相殺する。


 凄まじい水蒸気が立ち込める中、ゼクスは床の上を転がる拓真へと視線を向けた。次の瞬間、ゼクスの魔力が謁見の間の強固な床へと流れ込む。


 ガガガガガガッ!!


 地響きと共に、床の石材から直接、強靭な『鋼鉄』の拘束具が文字通り造り出され、のたうち回りながら治癒が完了した拓真の胴体を、彼が立ち上がろうとする寸前、容赦なく床へと縫い付けた。

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