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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の婚約を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は君の幸せをただ願う─  作者: 一斗
世界の理、女神の悪戯編

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帝都への駿馬、深夜の婚前旅行

 ゼクスは腕の中に視線を落とし、少女の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「セシル。……ここから先は、本当に危険かもしれない。それでも、もし本当に和平が成るかもしれないなら、俺は行きたいんだ。――俺と一緒に、来てくれるか?」


 どこまでも誠実で、セシルの意思を尊重するゼクスらしい問いかけだった。

 問いかけられたセシルは、一瞬だけ驚いたように目を見張ったが、すぐにその端正な顔立ちを、どこまでも愛おしそうな微笑みで満たした。


「うん……っ、もちろん行くよ、スーちゃん。スーちゃんが行くところなら、私はどこへだって付いていくから」


 セシルはそう言って、ゼクスの腕にさらにぎゅっと力を込めて抱きついた。


「でも、本当に危ないかもしれないから……絶対に離さないでね? スーちゃんがこうしてぎゅって力を込めてくれたら、すぐにスーちゃんが動けるようにするから」


 上目遣いで、少しだけ心細そうに、けれど自分を全面的に信頼しきっている少女の健気な言葉。

 ゼクスは「絶対に守り抜く」と心に誓い、その身体を抱きしめ直した。


 だが、その可憐な表情の裏で、セシルは完全に別の打算を働かせていた。


(──やった……! 何日ぐらいかかるのかな? まるで婚前旅行みたい……!)


 大陸の歴史がひっくり返るほどの、極限の緊張感が漂う和平交渉の裏側。そこで少女が胸を躍らせていたのは、国家の平穏などではなく、ただただ愛しい人と密着し続けられるという、あまりにも不謹慎で幸福な未来予想図だった。


 ゼクスはセシルを抱く腕の力をそっと緩めると、バレル将軍へと視線を向けた。その瞳に宿る静かな光は、先ほどまでの優しさとは一線を画す、鋭いものへと変わっている。


「……分かりました。帝都へ向かいます。案内をお願いできますか」


 その言葉を聞いた瞬間、バレルは目に見えて安堵の表情を浮かべ、深く頷いた。


「あぁ、我が責任を持って帝都にいる皇帝の元へと案内しよう」


 バレルはそう応じると、心配そうに遠くからこちらを見つめていた自軍の参謀の元へと歩き出し、ゼクスたちもその後に続いた。

 駆け寄ってきたものの、緊張で顔が強張ったままの参謀に、バレルは低く、重い声で告げる。


「急遽、ゼクス殿を皇帝の元へと連れていき、和平交渉をすることとなった。我らは急ぎ帝都へ向かう。──留守は任せたぞ。といっても、ここは王国との前哨基地だ。今の状況で、王国がゼクス殿抜きで攻めてくる可能性は万に一つもないだろうがな」


 バレルのあまりにも突拍子もない言葉に、参謀は思わず驚愕の声を裏返らせた。


「は? 今からですか!? 夜が明けてからの方がよろしいのでは……って、ゼクス殿を皇帝の元へ!? 将軍、一体何をお考えで! そんな暴挙、下手をすれば将軍の首も危ういかもしれませんぞ!」


「全て承知の上だ。休息は道中でとる。敵兵に囲まれたままの状態では、ゼクス殿も休まらないだろうからな。……それに、ゼクス殿が『個人』としてここに現れた今こそが、我が帝国が和平を結ぶ、最初で最後の絶好の好機だとは思わぬか?」


 バレルは参謀の目を真っ直ぐに見据え、不敵に、そして確固たる覚悟を込める。


「帝国の未来のためなら、この命、いくらでも賭けて構わぬ」


 その言葉に宿る、一国の将としての凄まじい悲壮感と決意。

 参謀はしばらくの間、呆然とバレルを見つめていたが、やがてその覚悟が本物であることを悟ると、深く、諦めたように息を吐き出して頭を下げた。


「……はっ。なれば、すぐに準備をいたしましょう。ゼクス殿にわざわざ持ってきていただいた、我が軍の兵の遺品も、皇帝陛下への謁見の際にお持ちいただくのがよろしいかと。それこそが、何よりの誠実さの証明となります」


 有能な参謀の迅速な機転に、バレルは満足そうに頷いた。


 それから、前哨基地はにわかに慌ただしく動き出す。最低限の夜営の準備が瞬く間に用意されていく。漆黒の夜闇の中、バレル将軍を先頭とした数騎の護衛が馬の鼻面を並べた。帝国の兵たちが手際よく、ゼクスたちの分の野営道具も自軍の馬へと積み込んでいく。


 ゼクスは、ここまで乗ってきた荷馬車から素早く馬を切り離すと、その引き締まった馬の背へと跨った。荷物を帝国側に委ね、自らはいつでも動けるように身軽な単騎の機動力を確保する──万が一のための、冷徹なまでの最適解。


 当然、そのゼクスの前へと当たり前のように収まり、その温もりに背中を預けるセシル。

 ゼクスが戦闘を想定して身軽さを選んだその判断は、セシルにとっては、荷馬車の上よりも遥かに深く、スーちゃんの強靭な胸板と逞しい腕に全身を拘束される『至高の特等席』の完成を意味していた。


 馬が跳ねるたびに背中に伝わる愛しい人の鼓動と体温に、セシルはとろけるような恍惚感を禁じ得ない。その表情には、これから敵陣へ乗り込む恐怖など微塵も存在しなかった。


 バレルが鋭く手綱を引く。

 ゼクスとセシルを乗せた馬、そして重荷を背負った帝国の兵たちは、静かに、しかし確かな足取りで帝国の心臓部へと向かって、夜の荒野を駆け出していった──。

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