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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の婚約を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は君の幸せをただ願う─  作者: 一斗
侵攻の足音。揺れる誓いの行方編

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最強の抑止力と美しい誤解

 大まかな挙式の日取りも決まり、「今日という日は本当にめでたいわ!」と、ミラとマリアの二人は夕食の準備を賑やかに、そして張り切って始めに席を立った。台所から小気味よい包丁の音が響き始める。


 そんな賑やかな空気とは裏腹に、残されたバルトロとハンスは、先ほどまで歓喜に沸いていたセシルの結婚報告によって有耶無耶になりかけていた、最も重要な「帝国との戦争」についてゼクスに尋ねた。


 ゼクスは居住まいを正し、現在の戦況を淡々と報告し始める。

 帝国軍が圧倒的な力で攻めてきて、王国軍は苦しい撤退戦を強いられていたこと。あろうことか帝国側にも『異界の勇者』が現れ、精鋭と共に王都へ直接襲撃を仕掛けてきたこと。


「その、拓真という異界の勇者は……恐ろしく強い男でした。神の加護による魔力。フィジカルアップと自己治癒を併せて使い、おそらく、俺以外は相手にすらならないほどの怪物です」


 ゼクスの口から語られる王国の危機に、バルトロとハンスの表情が険しく強張る。

 ハンスは痛ましげに眉根を寄せ、思案に暮れるようにぽつりと声を漏らした。


「異界の者が、他の国にも……。やはり、あの──」


「パパ、私もね! この前、村を襲撃してきた人と同じ人が王都の街を攻撃してたんだけど、やっつけちゃったんだよ?」


 私も報告があるんだよ!と言わんばかりにセシルが身を乗り出し、弾んだ声で、父の言葉を遮るように割り込んだ。その顔には、まるで今日学校で褒められた子供のような無邪気な笑みが浮かんでいる。


「エレノア様が『ヘイルストーム』を撃たれて、あと一歩でやられそうになって大変だったんだけど……私が守って、その人をボコボコにして、そのまま追い払ったの」


 今や国家最高峰の魔術師であるエレノアを窮地に追い込んだ帝国の刺客を、完全に圧倒したという事実。

 あまりにも恐ろしい武功を平然と、さも手柄話のように語る愛娘に、ハンスは一瞬呆気に取られたものの、すぐに破顔してその頭を優しく撫でた。


「そうか……セシルも、そしてゼクスも、本当に凄くなったな。二人とも、この国を救うほどの英雄だ」


 ハンスは感極まったように何度も頷き、どこか誇らしげに笑う。


「今度エレノアに会ったときには『うちの娘に貸しが一つだからな』と言っておかなければいけないね」


 ハンスの軽口に、バルトロもまた「ははは、全くだ!」と豪快に笑声をあげた。しかし、その笑みをすぐに収めると、目の前に座る二人の若者を、どこか寂しげで、職人気質な焦りを孕んだ複雑な眼差しで見つめた。


「国の危機を救ったんだ、一村の長としてこれほど誇らしいことはない。……だが、そこまでの存在になってしまったお前たちが、学院を卒業した後、本当にこんな辺境の村へ村長として戻ってきたりできるのか?」


 その強大すぎる力と名声は、すでに一地方の村に収まる器ではない。

 国が、王家が彼らを放っておくはずがないのだ。

 村を愛し、ゼクスを後継者として育ててきたバルトロだからこその、切実な不安だった。

 そんな父の焦りを見透かすように、ゼクスは酷く冷静な、けれど安心させるような笑みを浮かべて首を振った。


「心配いりません。我が国の王は寛大です。戦争が始まった当初、前線に行ってくれと直々に頼まれましたが……俺は断りました。セシルを前線に連れていきたくないし、もし俺がいない間に王都でセシルの身に何かあったら、俺はこの国のすべてを壊すかもしれません。と、そう伝えたら、王都の守備を快諾してくれましたし」


「な、なんだと……!? ゼクス、お前、国を……王を脅したのか……!?」


 バルトロが椅子をガタリと鳴らし、目を見開いて絶句する。一歩間違えれば国家逆謀罪とされてもおかしくない暴挙だ。

 しかし、ゼクスは表情一つ変えず、当然の権利を行使しただけだと言わんばかりに淡々と続けた。


「脅したなんて滅相もない。ただの事実を言っただけなので。ですが、今まで通り『国家に有事の際だけは手を貸す』というスタンスを明確に示しておけば、王家も俺たちの機嫌を損ねないよう、下手に干渉せず、そっとしておいてくれるはずです」


 下手に強制すれば、国家そのものが消し飛ぶ――。

 国を相手に、圧倒的な「個の武力による抑止力」を盾にして自分たちの平穏を守り抜く。ゼクスのあまりにも冷徹で完璧なロジックを聞き、ハンスは驚きに肩を揺らした後、深く息を吐き出しながら、どこか得心のいったように深く頷いた。


「なるほど、そうだな……。その強大すぎる力、味方でいてくれるというだけでこれ以上なく心強いさ。今の君のその圧倒的な破壊力には、王家であれ帝国であれ、誰も逆らうことなどできないのだから」


 ハンスはそこまで言うと、愛おしそうにゼクスの隣で頬を染めているセシルを見つめ、そしてゼクスへと温かい視線を戻した。


「それにしても……国を、王を敵に回してまで、セシルの傍にいようとしてくれたんだね。父親として、それほど娘が愛されていることが何よりも嬉しいよ。ありがとう、ゼクス」


 ハンスの言葉に、セシルはゼクスの腕を抱きしめる手にトドメと言わんばかりの力を込める。

(本当は王都に残って美月様を守る為に言った言葉だけど、パパ達がそう思ってくれてるなら、それでもいい)


 大人たちの温かい賞賛と、セシルの視線を一身に浴びながら――ゼクスは内心で、冷や汗と共にひどく複雑な罪悪感を覚えていた。


(本当は……王都の守備についていれば、そこにいる美月のことも一緒に守れる、と思って言った言葉だったんだが……)


 国を脅かした狂おしいほどの愛の告白。その美しい誤解の裏側に、決して明かせないもう一人の少女への想いを隠したまま、ゼクスはただ、愛らしく微笑む婚約者の重みを受け止め続けていた。



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