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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の婚約を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は君の幸せをただ願う─  作者: 一斗
侵攻の足音。揺れる誓いの行方編

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常識の外側の告白

 翌朝、東の空から差し込む朝日を浴びて、特別に二人だけであてがわれていた天幕テントの幕が静かに上がった。

 そこから並んで出てきたのは、ゼクスとセシルの二人だった。


「ふぁあ……。やっぱり冷たい地面のテントは少し苦手だけど、夜中にスーちゃんが優しくお腹をトントンしてくれたから、とってもよく眠れちゃった」


 のんびりと伸びをしながら、相変わらず朝から破壊力抜群のプライベートな暴露をかますセシルに、ゼクスは流石に頬を微かに染めて引きつらせた。


「こら、セシル。そういうことは人前で大声で言うものじゃない……」


 そんな二人の睦まじい(?)やり取りが、朝一番の冷気に乗って、しっかりと耳に届いてしまった者がいた。

 周囲の警戒のために張り詰めていた騎士団長レイヴンである。


(お腹を、トントン……だと……? あの青年にそんな世俗的な感情があったのか……いや、あの可憐な少女が怪物を手懐けているのか……!?軍の規律をどこまでないがしろにする気だ! 狂っている……やはりあの二人、世界の常識が何一つ通じないという意味で、どこか決定的に狂っている……っ!)


 武人としてのプライドをさらに複雑にへし折られたレイヴンは、眉間に深い皺を刻んで、これ以上ないほどの苛立ちを募らせるのだった。


 そんな周囲の者たちの、困惑と畏怖の入り混じった複雑な視線を背中に浴びながら、ゼクスたちはライオネル王子やキュラム、ヴォルフガングたちへの最低限の挨拶をそこそこに済ませると、支給された軍馬の手綱を握り、懐かしい故郷の村へと向かって一気に駆け出した。


 戦火の硝煙が漂っていた荒野を抜け、緑豊かな街道を進んでいく。馬の蹄が立てる軽快な音が、激戦の終わりを告げているようだった。

 見慣れた山脈の稜線が近づくにつれ、ゼクスの胸には、戦場では決して感じなかった奇妙な緊張感が広がっていく。


 やがて、二人の生まれ故郷である小さな村へと到着した。


 突如として現れた見事な軍馬と、そこに跨る若き英雄たちの姿に、村の人々は最初こそ驚き、身を硬くした。だが、それが村の誇りであるゼクスとセシルだと気づくや否や、たちまち歓声が沸き起こる。

「おい! ゼクスとセシルが帰ってきたぞ!」「急に帰ってきてどうしたんだ!?」と、あっという間に歓迎の人だかりができた。


 その騒ぎを聞きつけ、村の奥から血相を変えて駆けつけてきた者たちがいた。

 ゼクスの両親であるバルトロとミラ。そしてセシルの両親であるハンスとマリアだ。


「ゼクス! いきなりだな、お前というやつは……! でも、本当によく無事で帰った!」

 バルトロが破顔し、ミラは涙目を浮かべて我が子の無事を喜ぶ。


「おかえり、セシル。……それにゼクスも。二人とも、怪我はないかい?」

 ハンスとマリアも、愛娘を優しく抱きしめながら安堵の息を吐いた。


 村人たちの歓声をハンスが上手く宥め、ひとまず村の広場へと落ち着いたところで、ハンスは少し真剣な、どこか張り詰めた目付きになってゼクスを見つめた。この村は国境の山脈に近い。


「……ゼクス。少し前に、あの山の方から凄まじい地響きを感じたんだが……。やはり、お前がやったのか?」


「……ああ」

 ゼクスが短く事実を認めると、ハンスは「やはりか……」と、恐怖を通り越して感嘆の、そしてどこか冷や汗を孕んだため息をついた。

 かつて天才と呼ばれた魔術師だからこそ、その魔術がどれほど常軌を逸した領域の魔術なのかが、本能で理解できてしまうのだ。

(山脈の鳴動がここまで響くなど……この子は一体、どこまでの領域に達してしまったんだ)


「あんなに激しい戦闘があったということは……やはり、戦争に巻き込まれていたんだな。大変な目にあわせてしまったな、二人とも」

 バルトロが痛ましそうに、しかし無事で戻った二人を労うように肩を叩く。


「本当に大丈夫だったの? 危ない目にはあわなかった?」

「セシル、本当にどこも痛むところはない?」

 ミラとマリアの二人の母親は、戦場の現実を心配して、ゼクスとセシルの体を不審な傷がないかペタペタと触りながら尋ねる。


「俺たちは大丈夫です。ただ……帝国に『勇者』が現れました。そいつは非常に危険な魔術を使い、精神的にも危ういやつだった。……自由自在に動くその力を、今回の戦闘で、取り逃してしまった可能性が高いです」


 ゼクスが真摯に、今後の世界の脅威となる拓真について説明しようとした、その時だった。


「もう、スーちゃん。そんな物属しいお話をしに、わざわざここまで帰ってきたんじゃないでしょ?」


 セシルがゼクスの腕をきゅっと引っ張り、水色の瞳をいたずらっぽく輝かせながら、上目遣いで言葉を促した。

 その瞳の奥には、絶対にこの機会を逃さないという、有無を言わせぬ確信犯的な光を宿している。


「ね? ――パパたちに、ちゃんとお伝えしなきゃいけない『大切なお話』があるんだよね、スーちゃん?」


 戦場を支配したあのゼクスが、完全にセシルのペースに飲まれていた。

 両親たちの視線が「まさか、戦場で重大なことでもやらかしたのか……?」と、一斉に緊張の面持ちで自分に集まるのを感じ、ゼクスは流石に喉を鳴らす。


「あ、ああ……。――父さん、母さん。ハンスにマリアおばさん。……みんなに、話があるんだ」


 覚悟を決めた男の言葉に、両親たちは何事かと固唾を呑んで静まり返り、ハンスにいたっては息子たちのただならぬ空気に額に冷や汗を浮かべている。

 そんな大人たちの緊張をよそに、セシルだけが満足そうに、完璧な勝利の笑みを浮かべているのだった。

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