第八話〈フィオネル視点〉
私はフィオネル・アイスラン、この国の王太子だ。
私には美しく聡明な、エオリアという婚約者がいた。
彼女といると公務の疲れも癒され、忙しい日々が続いても心穏やかでいられた。
エオリアと共に通っている学園で、マルチナ・ワルダー子爵令嬢が私に近付いて来た。
エオリアと婚約しているとはいえ、その座を狙う令嬢はそれなりにいたため、マルチナもまた、その令嬢達の一人だろうと思っていた。
その矢先、ワルダー子爵家の黒い噂が聞こえてきた。
隣国フレアージュと繋がり、この国を乗っ取ろうとしているという情報だった。
すぐにでもワルダー子爵を捕らえ、情報を吐かせてやりたかったが、エオリアが狙われている事を知った。
ワルダー子爵は、娘を私に近づかせるためにエオリアの命を狙い、暗殺者を複数雇ってすでに行動に移させていたため、父に許可を取り、エオリアを危険な私の側である、婚約者という立場から遠ざけようと考えた。
「父上、ワルダー子爵は金の為ならどんなに非道な行いも容易く行える者を雇ったようです。学園では、マルチナがエオリアの立場を悪くする工作も多々行っています。もはや猶予はありません。エオリアの身を守るためにも、王都から遠ざけたいと思います。ルーズバイン領地の邸にいる方が守りも堅いでしょう」
侯爵であり、国境を守る辺境伯でもあるルーズバイン家には優秀な私設部隊がいる。
事が済むまでは、エオリアも領地にいるほうが安全だ。
「そうだな。ルーズバイン侯爵にも話を通さなくてはな」
命を狙われていることは、エオリア本人には知られたくない。
命を狙われる恐怖を与えたくないからだ。
その為なら、私が嫌われる事も厭わない。
一番大切なのは、エオリアだ。
エオリアにはいつも笑顔でいて欲しい。死の恐怖など知る必要は無い。
◇◇◇
「お話はわかりました。エオリアには話さずにいてくださったこと、感謝いたします」
私の誕生日パーティーが催される前に、内密にアルベルト・ルーズバイン侯爵とその息子クラウス殿を呼び、ワルダー子爵について話した。
「しかし、殿下の態度にあの子はとても傷付いていました」
「申し訳ありません、アルベルト卿。ワルダー子爵を欺く為とはいえ、謝ったところで許されない事はわかっています。事が済み次第、エオリア嬢には誠心誠意、謝罪したいと考えています」
命を狙われているのを知られない為とはいえ、私の勝手で彼女を傷つけた。
マルチナが吹聴している事は、マルチナの自作自演やまったくのデタラメであり、当然、エオリアには身に覚えのない事だ。
それをわかっていて、他の子息令嬢達がいる前で、エオリアを何度も責めるような事をした。
その度、エオリアは傷つき、落胆した様子だった。
その姿を見る度、胸が苦しく、すぐにでも抱き締めてしまいたかったが、抑え込んだ。
一番傷ついているのはエオリアなのだから、と。
そして、私の誕生日パーティーでエオリアを断罪し、婚約破棄と謹慎を宣言した。
これで、暗殺者達に命を狙われる必要は無くなった。金に汚いワルダー子爵の事だ、暗殺の依頼は取り消すとわかっていた。
謹慎を命じれば、王都ではなく領地の邸に身を置くと思い安心していた。
「フィオネル殿下!エオリア様がっ――自害されました‼︎」
「――っ⁉︎」
私は、一番大切な君を失った……。




